2009年11月6日金曜日

ヘッジファンドのキャリア構築に際して:新卒入社先の規模について 〜大手かベンチャー・中小か〜


(出所:http://www.istockphoto.com/

ヘッジファンド業界に興味のある学生さんに聞かれるポイントとして、ヘッジファンドは儲かるのか、新卒で入るなら外資がいいか日系がいいか、職種は?と言った質問に答えて来た。次は、新卒で入社する先の規模についてである。数学のグラフで、x軸が外資か日系か、y軸が職種だとすれば、規模の大小はz軸、と言った所だろうか。

○規模について ―大手か中小か―

結論として、新卒の学生は、ネームバリューのある大手に入社する事を勧める。規模の小さいヘッジファンドで好きなようにやる事だとか、自分でファンドを作って独立したいとかが将来のゴールであったとしても、新卒の学生は大手に入る事を推奨すると言う事である。理由は幾つかある。

1.ヘッジファンドに転職したい際や独立する際に、「ネームバリューのあるブランド大手で仕事をしていた履歴書」が重要だから。

これは重要な点なので最初に指摘しておく。特に新卒の場合、最初の会社がどこだったかと言う所でかなりその後の運命が変わって来るので、この点は留意が必要である。ヘッジファンドに転職する際には、ある程度ブランドのある大手で仕事をしていたと言う経歴がある方が、転職しやすい。もちろん、ブランドがあるだけでは転職出来ないのだが、ブランドは重要である、ブランドも含めて実力である、と言う事である。

また、将来的に自分のヘッジファンドを立ち上げて独立したい、と言った夢をもっている場合においても、最初は中小証券や金融ベンチャーでなく、大手に行く事をお勧めする。独立して資金集め等をする際に、「元ゴールドマン」「元野村」等と言うのと、「元無名の証券会社や運用会社」と言うのでは、前者の方が圧倒的に信頼して貰いやすいし、資金集め、顧客獲得に有利である。

具体的な企業名では、日系証券で言えばまずは野村である。外資系証券であれば米系大手、次いで欧州系大手である。バイサイドの運用会社としては、日系では大手証券・保険会社・信託銀行等の系列あるいは発祥の運用会社、外資系では(なかなか新卒採用はしていないが)独立系の外資大手、あるいは大手外資系投資銀行の系列の資産運用部門と言った所である。

「実力主義に肩書きや企業ブランドは関係ない」「運用さえ上手ければいいのではないか、それが実力主義ではないか」と言いたいかたも居るだろうし、その気持ちは分かる。しかし、肩書きやブランドがあったほうが起業・独立にも有利だと言うのは厳然たる事実である。

理由は、経済学を学ばれたかたはご存知かも知れないが、この世には「情報の非対称性」があるからである。

個人でデイトレをやりたいのであれば学歴もキャリアも必要がない。ジェイコム氏等は(金融機関で働くプロでも真似出来ない位に)本当に上手いし才能がある。またヘッジファンドも含めて顧客のお金を運用する商売でも、実力が潜在顧客にテレパシーのように相手に伝わると言う事であれば学歴や企業ブランドなど関係ない。

しかし実際の所、仕事として他人の資産を預かって運用の仕事をやる以上は、顧客と言う「他人」に、自分の実力を知ってもらい信頼して貰う必要がある。そのためには、「自分は実力がありますよ」と分かりやすく他人に納得して貰えるようなシグナルが必要である。そう言うシグナルを他人に向けて発信するためのツールが学歴であったり、会社員をして居た頃の企業ブランドや資格と言ったものになる訳である。


2.大手の方が一般論としてまともな教育を受けられるから。

外資の方が日系より新卒の教育期間/内容が薄くすぐに戦力化する事を求められる等の差はあるものの、全体としてはやはり、新卒採用を定期的に行っている大手のほうが学生の扱いに慣れて居るし、教育体制等もある程度確立している事が多い。また、あくまで一般論としてであり個人差も大きいが、上司や先輩の仕事の出来具合やクオリティも平均してみれば大手の方が良く、学ぶものも多い。大手で基本動作を学んでおくと言うのは、新卒学生にとっては価値のある事だ。

一方で、新卒採用をあまりした事が無いような新興企業や、キャリア採用が中心の東京において規模が余り大きくない外資系企業の場合、採用する側も学生の扱いに慣れていない事が多い。大したトレーニングもないまま変な部署をたらい回しにされたりであるとか、会社の都合に当初から振り回されると言った可能性も高くなる。


3.大手の方が「討ち死にリスク」を低減出来るから。

アナリストとして企業を調べる場合、「シェア1位の会社は不況でもある程度受注、売上を確保出来る一方で、シェア2位以下の会社、つまり限界サプライヤーは不況時に大きく売上利益を落とす事になる」「限界サプライヤーは景気回復時には売上利益とも大きくドライブするが、無理をして居る事も多く、それが不況時には仇になり大きな後退を余儀なくされる事が多い」と言うのは常識である。これに基づいて景気回復期にはハイベータの限界サプライヤに投資して、景気後退期には業界トップの安定企業に投資したりする訳である。

金融業界においても同様の法則は概ね成立する。証券会社については、好況期には余り企業体力の差は気にならないし、外資系金融機関でもGSやモルスタ等の大手だけでなく、比較的知名度の高くない所でも大量に新卒を採用したりする。しかしこれが不況期になると、大手ほど景気後退期のリストラは小規模に留まる傾向にあり、勢いのあった外資の小規模の所ほど不況時には東京オフィス撤退のリスク等も高い。

運用会社でも同様である。景気の良い時は、新興の運用会社が多いに栄えるし、新卒採用までやってたりする。一方で、不景気になると、顧客が一番に逃げて行ってAUMの減少も激しく、リストラも激しくなるのは新興運用会社である。

これは年金基金等の、運用会社の顧客の観点から考えても分かりやすい。景気が良い時は、フィデリティやキャピタル等の歴史のある伝統的な大手運用会社以外にも、新興の元気のよいファンドにも投資してみようかと言う余裕がある。一方で、景気後退時には新興ファンドから解約して行く。幾ら不景気でも運用を完全に止める訳には行かないので、長い歴史と実績のある伝統のある大手運用会社にはある程度は運用委託を継続する。運用パフォーマンスと元気の良さが取り柄だった新興運用会社は、景気後退時には顧客の引き止めに非常に苦労するが、歴史の長い運用会社だと、「弊社の長い歴史からすれば景気後退は良くある事だ。大恐慌もオイルショックも弊社は切り抜けて来た。」と言えば説得力がある。

タチの悪い事に、新卒採用と言うのは景気の遅行指標である。つまり、外資のマイナー所や新興の運用会社までが新卒を大量に募集している時に限って、景気の最終局面に来ていて不況が近い可能性があると言う事である。こう言うタイミングでないと中々業界に入り込む術が無いと言う面があるのが難しい面もあるが、こう言うタイミングに限界サプライヤー的企業に入社した場合、直後に大リストラや東京オフィス閉鎖が待っている可能性が、大手に入る場合よりも相対的に高い事はリスクとして認識しておいて良いだろう。

金融危機の際も、ベアスターンズやリーマンが破綻して、ゴールドマンやJPモルガンが悠々としているのには理由がある。また、邦銀でもみずほフィナンシャルは大ヤラレして、三菱東京UFJが比較的被害が軽微だったのにも上記のような理由がある。前者は業界における限界サプライヤであり、好況時に上位投資銀行に追いつけ追い越せするために、リスクを取ってレバレッジを利かせてサブプライム関連の証券化商品等に勝負してしまった。後者は業界トップの余裕とでも言えばいいだろう、好況時の急成長は多少控えめにして堅実な経営をしていた結果が不況時の打たれ強さに繋がっている訳である。

読者の学生の皆様は、例えば有名投資銀行Gと、知名度のそれより低い外資の両方に採用されたら、基本的にGに入るべきだし、ピーターリンチ等が所属した事で有名な外資系資産運用会社Fと新興系運用会社の両方に内定したら、「うちはベンチャーで若い頃からやりがいがあってどーたらこーたら」等と後者に説得されても、新卒で入れるなら基本的に前者に入るべきである。

ベンチャー企業や規模の小さい会社は、こと金融業界においては、新卒の入る場所ではない。ある程度大手でキャリアを積んで来て、もう大手のしがらみから離れてやりたい事を一緒に仕事したいメンバーでやりたいとか、知名度や履歴書の美化はそろそろいいから年俸の取り分をもっと上げようかとか、そう言うタイミングで入る場所だと思う。大手から小規模は比較的行き易いが、小規模から大手は一般論としては行きづらい。物事には円滑な順番がある。

ちなみに、ヘッジファンド業界は、そのアセットクラスそのもの、業界そのものが、金融業界における限界サプライヤである面は否めない。昔よりはヘッジファンド投資の必要性は認知されて来ているし、アセットクラスとして定着してきつつはあるが、まだやっぱり不況時には資金を引き揚げられてしまいやすいアセットクラスではある。だから浮沈も激しいし、新卒募集もしていないし、よしんば新卒採用をしていてもお勧めはしない、と言う事なのである。

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