2009年12月20日日曜日

バイサイドとセルサイドの違いについて


(出所:http://www.istockphoto.com/

学生さんに良く聞かれる項目として、題名の件について書いていなかったので、この機会に書いておく。筆者の出身が株なので、主に株のアナリストと言う観点から書く事にする。


○ セルサイド(証券会社)アナリストの仕事

まず、セルサイドと言うのはいわゆる投資銀行、証券会社と言った、「株や債券を売る側」の事を指すと言う点は押さえておきたい。投資銀行部門は事業会社の株や債券の発行をアレンジして投資家側に販売するのが仕事。マーケット関連部門は投資家の株の売買を仲介するのが仕事である。


株のアナリストと言う観点で言うと、セルサイドアナリストの仕事は、調査に基づいてマーケット動向や個別企業の株価についての予想を行う事と、それをレポートやプレゼンテーションにまとめて顧客であるバイサイドの投資家(運用会社。〜投信、〜投資顧問と名の付いた会社やヘッジファンド等)に説明する事である。過去の日経金融新聞、今の日経ヴェリタスのアナリストランキングと言うのは、セルサイドアナリストのランキングである。新聞や時には経済関連のテレビ番組等への露出も比較的多いと言える。労働時間もかなり長く、深夜や週末を使って仕事をしているケースも比較的多い。


従って必要な適性としては、調査を行う事やレポートを執筆する事が好きである事と、プレゼン等で人に分かり易く説明する事が得意かつ好きである事、接客業的側面も強いので営業マインドがある事、長時間労働を厭わない事、等である。


その他、自らが執筆したレポートは取材先の事業会社や一般の人の目にも入る事になるので、これらに対する気遣いも重要である。質の低い企業だなと感じても、その通りにレポートを執筆してしまうと、例えば社内でその事業会社に営業をかけている投資銀行部門から「営業がやりづらくなる」と言ったバッシングを受けたり、(最近は売りレーティングだから出禁になると言うほど理解のない事業会社も減ったとは思うが)事業会社から出入り禁止になる、あるいはIR対応が貧弱になる等の悪影響を被る事になる。各利害関係者に対する気遣いも重要となる。


年俸としては、全体としてみればバイサイドのアナリストよりもセルサイドのアナリストの方が良いと思う。一方で、労働時間の長さやアナリストランキングで上位に入らないといけないと言うプレッシャーで換算すると、その給与増分が果たしてペイしているのかは微妙な面もあるかも知れない。


2000年代の前半に、コンプライアンスが厳しくなり、アナリストが投資銀行部門のディールに関与する事で年収を稼げなくなって以降、セルサイドアナリストのメシの種は機関投資家の売買による仲介手数料のみであり、個人投資家の分野でネット証券が台頭しているのと同様、機関投資家の株式売買手数料も価格破壊が進行している。この結果、セルサイドアナリストの給与ソースも減少傾向にあり、専門家としてのアナリストの対価をどのような形で担保するのかと言うのは業界としての問題となっている。


その他のトピックとしては、「調査の短期主義化」と言った問題も起きている点は押さえておきたい。

つまり、以前のアナリストは、産業構造、技術動向等を丁寧に調べて行って、産業や企業の中長期的な動向を調べるのが仕事であった。これは顧客が時にM&Aや資金調達をアレンジする投資銀行部門とその顧客である事業会社だったり、あるいは中長期投資の大手機関投資家が多かったと言う点が背景にある。ナイーブな学生さんが憧れるアナリスト像はこう言ったアナリストのようにも思う。

一方で昨今の現実においては、証券会社のマーケット関連部署の主な顧客がヘッジファンドであり、彼らの多くは短期売買を高速回転で行う事が多い(従って手数料も多く落とす傾向にある訳である)。このため、非常に短期の見通しを顧客から問われる事となり、レポートの内容も次の四半期業績と言った短期的な業績動向、細かいトピック等が中心になりがちである(注)。

また、大手の機関投資家についても昔はバイサイドアナリストと言う職種が日本になかったためセルサイドアナリストの役割は非常に大きかったが、昨今だとバイサイドアナリスト側が産業構造等の基本的な事柄は既にある程度押さえており、やはり枝葉末節や統計アップデートの役割をセルサイドアナリストが負う事になっていると言う面がある。

事業会社側でIRが充実する事で、セルサイドアナリストの中抜きも起きている。つまり、バイサイドからすると、セルサイドアナリストに聞くよりも事業会社に直接取材してしまった方が状況の理解を手っ取り早く出来る、と言う面があると言う事である。マーケットシェア、競合状況、最近のトピック等、昨今事業会社のIRに聞いてしまえば丁寧に教えて貰える。


以上を全体的に考えると、90年代は花形の職業であったセルサイドアナリストも、昨今その付加価値をどこに求めるかが問われている段階にあると言える。


学生のキャリアとしてのセルサイドは、最近中々大変かもしれない。以下のような傾向があるからである。

1、外資の場合ジュニアの若手は短期使い捨てに近い傾向がある。中々自分のレポートが書ける段階まで行かずに2年位で景気が悪くなると解雇、と言う事も多い。

2、日系の場合、使い捨てにはならないだろうが中々自分のレポートが書ける段階まで行かず、キャリアステップが非常にゆっくりで長くなる。その割に長時間労働・ハードワークが必要。

3、外資、日系問わず、若手には参入障壁が高い。特に重要度の高い業種(テクノロジー、自動車等)ほど、既にアナリストランキングの上位を、経験も長く知名度も高いシニアが寡占している。このため、この中で若手が自分なりの持ち味を出してランキング上位に食い込もうと思うと非常に大変である。

4、これも外資、日系問わずだが、上司となるアナリストとの相性の問題が非常に大きい。アナリストと言う職種は、若手を教育するとかチームをモチベートするとか言った適性が少ない人物がシニアになっているケースもかなり多いので、気難しい上司が付くと非常に苦労する。


筆者の個人的な考えとしては、名前を売る、ブランド大手でセルサイドアナリストと言うハードな仕事をやったと言う実績を作ると言う事で、キャリアの一時期セルサイドを経験するのは良いと思う一方で、今からセルサイドに本格参入しようとは、正直な所あまり思わない。


○バイサイドとは

一方で、バイサイドとは、〜投信、〜投資顧問、〜信託銀行、〜保険、ヘッジファンド等、最終投資家である年金基金、大学基金、富裕層個人、保険会社の場合保険の加入者等からお金を受託して運用する側の事を言う。


従ってバイサイドアナリストの仕事は、最終顧客の満足度向上のために運用パフォーマンスに貢献する事であり、ファンドマネジャーについては運用パフォーマンスを上げる事が主な業務となる。


勿論運用会社にも顧客は居るためプレゼンテーションや説明が必要な面もあり、顧客対応の質と言うのも顧客満足に関わる面もあるのでこれら作業もおざなりにして良いと言う訳ではないが、基本的にはパフォーマンスの善し悪しありきである。パフォーマンスさえ良ければ何を説明しようが説明が下手であろうが顧客からは満足されるし、パフォーマンスが悪ければ幾らプレゼンや説明が上手くても厳しい目を顧客から向けられる。こう言う面はやはりある。


外部にレポート等を公表する事は無いので各種利害関係者に対する気遣いはセルサイドよりは気にしないで済む一方で、どんなに理にかなった分析をしても運用パフォーマンスが悪ければ評価されづらいと言う難しさも伴う。コンサル出身者がアナリストをやる場合、バイサイドに来るとこの点で苦労しているケースが多い(そう言う意味では、コンサル出身者はセルサイドのほうがプレゼンスキル等も活用出来るし、やりやすいかも知れない)。


その意味では、セルサイドと比べて、「いかに運用パフォーマンスを管理するか」「損失をいかに小さくしながら、リターンのアップサイドを狙うか」と言う運用パフォーマンスの管理に関する重要性が増して来る事になる。これに付随して、確率統計に関するセンス、相場の上下に対して精神的にブレずに冷静に損切りや利食いを行う能力等が重要になる。業績予想に関しては、アナリストであれば一応行う事になるが、筆者の実感としては、業績予想の正しさそのものよりも、運用パフォーマンスをいかに出すかと言う方が重要である。


労働時間については、概してバイサイドの方がセルサイドよりは短い。セルサイドの作成したレポートや各種統計、基本データ等を活用しながら最後の判断の所をするのが仕事である事、レポートやプレゼン等のアウトプットについてはセルサイドよりも大概の会社では簡素なもので構わない事が背景にあるかと思われる。睡眠不足や疲労が溜まった状態で大事な判断をするのは必ずしも良いとは言えない面もある。


一方で、運用パフォーマンスに対するプレッシャーやストレスは(特にアグレッシブ系外資運用会社やヘッジファンドのファンドマネジャーだと)非常に厳しく、言ってみればこの点のストレスを請け負う代わりに最終投資家である年金基金や大学基金、富裕層個人等からフィーを頂いている、と言う面がある。とは言え、大手運用会社のバイサイドアナリストだと、パフォーマンスに対する責任の所在がファンドマネジャーとアナリストの間で曖昧だったりする事も多く、やや信賞必罰の面が甘いなと思える面もある。


年収については、一般的な大手運用会社のバイサイドアナリストの場合、セルサイドアナリストよりはやや安くなるのが通例である。ヘッジファンドの場合、ピンキリなので比較はしづらい。

筆者がバイサイド出身なので多少のひいきも入っているかもしれないが、比較的長期で無理のないキャリア構築をしたい学生さん、最終的なゴールが運用者で在る事がはっきりしている学生さんについては、大手運用会社のバイサイドアナリストは比較的お勧め出来るステップではある。利点は以下。

1、セルサイドのリソースを大量に活用出来るため、セルサイドから色々学ぶ事が出来る。
2、悪く言えば「信賞必罰の面がやや甘い」面もあるが、良く言えばではセルサイドよりは「使い捨て感」が少なく「資格取得等のキャリア序盤における知識面のビルドアップを着実に出来る」ようにも思う(あくまで相対比較の話であるし、外資と日系、あるいは外資内でもカルチャーによりだいぶ異なるが)。
3、就職の間口も日系、外資合わせてもメジャー所が10数社、新卒を雇って居る所となると恐らくもっと少数しかないセルサイドと比べると広いと言う面もある。

とは言え、バイサイドも、セルサイド同様の欠点は、以下の通り幾らかある。

1、シニアが上にびっしり居て、新規参入がしづらい(アナリストの参入障壁はそう高くないように思うが、ファンドマネジャーになる参入障壁が非常に高いように感じられる)。
2、上司がプレーヤーとしては良くてもマネジメントとしては良くないと言う場合が結構あり、上司によって自らの成長や進退がかなり左右される面がある。

まあ、何でも理想の職場と言うのは中々無い、と言う事かも知れない。

○まとめ

以上、同じアナリストと言ってもバイサイドとセルサイドでは求められる能力がかなり異なる。セルサイドアナリストでランキングトップレベルのアナリストがヘッジファンド等に転職しても、必ずしも機能しない事が往々にしてあるのは、セルサイドとバイサイドが見た目似ているが、実際には求められる能力がかなり違うからである。

例えば新卒の学生のかたがこの業界に入って来るエントリーとしてはセルサイドアナリストでもバイサイドアナリストでもどちらでも良いと思うが、ある程度の期間(3−5年位)が経ったら、自分は最終的にどの道で大成したいのかを真剣に考える事をお勧めする。アナリストとしてシニアになり極めたいのであればセルサイドアナリストとして仕事をする事になるし、運用者/ファンドマネジャーになりたいのであれば、どこかの時点(比較的早い時点)でバイサイドに移る必要があるように思う。


(以下、注の解説)

注:筆者についても、結果として長期投資になっているような投資対象はあるにはあるが、短期的なリターンが求められるヘッジファンドの運用において、中長期的な業界構造の変化や業界再編と言った気の長いトピックで勝負するのは中々大変である事は実感している。長期的には明らかに衰退にあると思われる産業でも、ショートしっ放しでは思わぬ所で買い戻しラッシュに遭って損失を被る面もある。長期的には明らかに有望な業種や企業でも、ロングしっぱなしでは短期的には運用パフォーマンスが冴えない事もある。

筆者はヘッジファンドではない一般の運用会社に在籍していた事もあったが、この頃でもやはり中々長期のタイムホライゾンで勝負をするのは難しかった。長期の前に短期/中期のパフォーマンスの不調で顧客に短期で解約されてしまえばおしまいだからである。感覚として、長期投資を謡う大手運用会社でも、四半期パフォーマンスでも採点されるし、かなり忍耐強く我慢してくれる顧客でも3年パフォーマンスが冴えなければまず解約である。3年間冴えない運用者が、長期投資でありこれから大きなパフォーマンスが出る直前なのか、単に運用者がプロでなく冴えないだけなのかを判別するのは難しい。

そんな訳で、「超長期の時間軸のバリューギャップを埋める仕事」は、ウォーレンバフェットのバークシャーハサウェイのような、手許にキャッシュを潤沢に持ち保険事業からの長期の資金流入があり解約等の問題が無い運用主体、あるいは余剰資金で投資する個人投資家がやっている訳である。(こう言った超長期のバリューギャップに投資出来る主体は多くないし競合も激しくないので、それが出来る投資主体はそれだけでチャンスである。例えば余剰資金のある個人投資家の場合、長期投資をするには機関投資家より圧倒的に有利な立場にあるようにも思う。)

口先では「バフェット投資」「長期投資」を標榜する運用会社が、実際にはバフェットのようには運用出来ないと言うのは、属人的な才能や胆力の違いも勿論あるとは思うが、上記のような「調達側である顧客の資金属性の問題」が大きいようにも個人的には思う。短期の資金調達で運用する場合、運用先も短期運用でないと齟齬が生じる。長期投資のためには長期の資金を調達してくる必要があるのである。この辺の事情については、証券アナリスト試験のALM(Asset Liability Management)のお勉強の所で学習出来る。調達側と運用側のデュレーションを一致させると言うのがALMの基本コンセプトである。

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