2009年11月27日金曜日

新卒の面接の作法:「金融専攻です」と言うのは不利。


さて、次は面接のポイントを紹介しておく。今回は、以前も少し紹介したが、面接時のタブーを紹介しておく。

○「金融専攻です」とは、8割がたの学生は言わない方がいい。

ずばり、「金融工学/ファイナンス/会計学等専攻で〜」「学生時代に株式投資サークルで運用をしていて〜」と言うのは不利である。
「私は金融工学専攻で、卒論ではオプションのプライシングがうんたらかんたらな事を書こうと思って居ます。この知識とスキルを活かして御社でも活躍出来ると思います。」
 「私は会計学専攻で、企業分析に興味があります。このスキルを活かして御社でアナリストになりたいです。」
 「僕は学生時代に株式投資サークルを主催していて、企業分析や運用に携わりました。このノウハウを活かして御社でファンドマネジャーになりたいです。」
筆者も大手の資産運用会社でアナリストをしていた時代には新卒の採用面接の面接官になった事がある。この際に一番良く聞き、かつ聞いた瞬間に「ああ、この人不採用だな」と確信する言葉が、上記のような内容である。本人は自己PRと志望動機を述べると共に、自身の強みとそれが会社に貢献出来る事を話しているつもりなのだろうが、面接する側からすると「ああ、またか」と言う内容である。 こう言う発言をする学生を概ね不採用にする理由は幾つかある。

○不採用の理由その1:自分に対する冷静で客観的な理解が足りないから。
第一に、こう言う発言をする学生は、自らの知識水準が金融市場において一体どの程度なのかについての謙虚で正確な理解がない。大学時代に学んだ知識など、実際に社会に出て役立つ事など殆ど無いと言う現実を理解していないのである。
マーケットには米国の一流大卒MBA位はごろごろ居るし、会計士だって沢山居る。理論物理等で博士号を取ったような人間がクオンツ運用等の形でマーケットに関わっているし、証券会社のエコノミスト等は日銀で結構な地位まで行った人や海外の一流大で経済学の博士を取ったような人がなる。日本の証券アナリスト資格は自動車の免許書程度であるし、米国証券アナリスト資格(CFA)をもっているような人間も沢山居る。つまりは大学時代の勉強や運用サークルなど、実際仕事をしている採用者の側からすると、所詮はシロウトさんの趣味のレベルなのである。こう言った状況があるにも関わらず、付け焼き刃の知識で「金融が専攻で、御社に貢献出来る」等と言うのは勘違いなのである。
マーケットにおいては、自分自身が有利な立場に居るのか、コンセンサスの一員なのか、カモになってしまう側なのか、と言う部分に対する客観的な認識は、結構重要である。従って、勘違いな学生を採用するのであったら、「学生時代は好きな事や恋愛に没頭していて金融のバックグラウンドなんて無いが、もう気が済むまで遊んだので内定後は必死に勉強して、職場でも皆から学んで、プロフェッショナルになりたい」位の学生のほうがだいぶ好感が持てる(採用されるかどうかは別だが、変に金融専攻だと見栄を張るよりBetterではある)。自分自身の立場がマーケットにおいてどう言った所にあるのか、客観的な理解が感じられるからである。

○不採用の理由その2:8割がたは実際に専攻と言える程の知識はないから。
第二に、「金融工学が専攻で」「投資サークルで運用をして」等と言う学生の8割がたは、実際にツッコミを入れると大した知識が無い事が露呈する事が多いからである。
例えば、金融工学専攻と言うので、「オプション価格の変動要因を5つ挙げて」と質問すると、5つどころか2、3も出て来ないと言うような事が散見される。原資産価格、ボラティリティ、金利、ストライクプライス、満期までの期間、加えて株等の場合は配当。この位は金融工学を「専攻」しないで現物株の売買だけやっている筆者でもぱっと出るのだが、大概の学生はぱっと出て来ない。この他、タイムディケイって何?でもいいし、インプライドボラティリティって何?でも、ガンマって何?でもいい。全部、この業界で何年か仕事をしていれば「金融工学専攻」なんてしてなくても分かる基本的な事だが、この時点で脱落してしまう「金融工学が専攻の学生」を見ると、正直がっかりしてしまうのである。
同様の事は、コーポレートファイナンスが専攻の学生にDCF評価について質問しても同様、会計学が専攻の学生に利益とキャッシュフローの違いについて質問しても同様、経済学が専攻の学生にアジア通貨危機の発生理由を聞いても同様、投資サークルを主催していた学生にトヨタの株価を見る上で重要な要素を聞いても同様である。どれも基本的な項目なのだが、すぐにつっかえてしまう学生が過半である。
思うに、実際大した勉強をしていないのに内定が欲しくて見栄を張ってしまった、と言うのが丸見えなのである。こういう雰囲気を感じ取ってしまった瞬間に、不採用、と言う事になる。本当の意味で「専門」と言える水準にない学生については、自身の水準を自覚して、学校の専攻の話や投資サークルの話を面接ではしない事をお勧めする。

○不採用の理由その3:採用側のニーズを理解していないから。
第三に、こう言う学生は、採用する側のニーズを理解していない。採用する側が新卒に求めるのは、「フレッシュな若さと成長力」であり、「金融についての専門知識」ではない(勿論あるに越した事はないが、主要な要素ではない)。投資で言えばベンチャー企業に投資するようなものである。新卒採用の場合、志望者がそれまでに蓄積して来た知識やアセットではなく、将来性の方が大事なのである。専門知識や運用経験のある人間が欲しい場合は新卒など採用しないで中途採用をする。知識はなくても将来成長しそうな人が欲しいから新卒を採用するのである。

○不採用の理由その4:つまらなくて印象に残りづらいから。
第四に、聞いていて単純につまらないからである。見栄っ張りな「金融工学/ファイナンスが専攻で〜君/さん」「投資サークルで高リターンを上げました君/さん」に一日に何人も会い、知識を試験するような質問をし、ああやっぱり見栄だったかと落胆する、採用側の身にも多少はなって欲しい。他の志望者と同じになってしまわないように気を配るとか、堅苦しい言い方をすれば差別化の戦略を練る位の機転は、やはり欲しい。
どうせ良くある話を聞くなら、留学の話やら、学生時代の熱烈にハマっていて大概の人より詳しい自信のある趣味の話等から、「自分の留学の際の適応力が/自分の凝り性な性格が、金融の仕事に合っていると思いました。」位の「まあ一応志望動機に繋げました的符丁」を経て志望動機にしたような話を聞いた方が、多少のこじつけ感は否めないとは言え、仕事で疲れた社会人の心にはまだリーチしやすいだろう。学生さんならではの瑞々しい経験を聞く方が社会人には楽しいし、取り敢えず覚えやすい。
加えて、「学生ならではのみずみずしい経験」なら、学生側のふんどしで相撲が取れる、主導権が取れるというのもある。「金融専攻です」と言えば、金融を飯のタネにしている面接官から金融関連の質問を次々浴びせられる事になり、結果として面接官のホームグラウンドに学生側がアウェーで出向いて勝負しなくてはならない事になる。大概の場合学生側が不利である。学生ならではの経験で勝負すれば自分のホームグラウンドで面接官をアウェーから招き入れて勝負出来、しかも面接官の印象に残りやすいので有利である。こう言った計算が働くのも金融の商売をやる上では大切な事とも思う。

○どの位のレベルなら「専攻」と言えるのか。
ただ、本当に学生時代の主要な時間をキチンと割いて「専攻」していて、一定のレベルの学生さんも少数だが居るかも知れない。その際は、基本的には「その分野の事なら、実務家である面接官に何を聞かれても答えられるレベル」であるかどうかを基準に各自考えて頂ければと思う。客観的には、概ね以下位を基準にすれば良いかと思う。
・会計、ファイナンス:公認会計士、米国CPA等の資格保有者あるいは米国のMBAの有名ファイナンススクールでファイナンス専攻位。
・金融工学:ジョンハルの「フィナンシャルエンジニアリング」が「簡単で実務向きの本だ」と思える位で、実際にExcel VBAやMatlab等でオプションのプライシングをした事がある位。
・投資サークル/個人トレーダー:ジェイコム氏位のかた。(一般的には、学生時に、いざとなっても親が食べさせてくれるようなプレッシャーの少ない状況で軽い気持ちで運用するのであれば、誰でもビギナーズラックで上手く行くときはある。投資サークルや個人投資で自信過剰になっていたり変な手癖が付いてしまっている学生は採用する側からするとかえって採用しづらい面もある。)
後はまあ、投資銀行や比較的きちっとした団体主催のインターンシップ等は、実績とか専攻とか強みとか言うよりは、「それで興味を持った」と言った具合に、志望動機のきっかけにする位が良いのかなと思う。

2009年11月22日日曜日

何を勉強すれば良いのか? 〜新卒内定前その3:ソフト面について〜

(出所:http://www.istockphoto.com/

前回に続いて、まず大手証券会社/運用会社のフロントオフィスで内定するために有用と思われる勉強事項についてである。
前回で学生時代の取り組み事項を「ハード面」「ソフト面」に分けた上で、ハード面について説明した。
今回は、人柄の面白さ、アクティブさ、学生時代の人生経験の広さ深さ等を示すソフト面についてである。

○ソフト面の勉強事項


・スポーツ、格闘技、将棋やチェス等の分野での高い実績。

これら領域で全国上位とか世界上位の結果を残したような人材は、金融業界では非常に歓迎される。
何かの分野で究めた経験が、金融の仕事でも応用可能だと考えられるからである。
絶え間ない鍛錬、スランプの対処と克服と言ったメンタル面、知的面での鍛錬(格闘技やスポーツの過半は高度な駆け引き等が求められ、それが金融でも活用し得る)、常に謙虚である必要性、己を見つめる必要性等、共通する要素は多いと思う。何より面接官からしても目に付くし、話を聞いてみたいと言う事になる。先に挙げたハード面でも何か1点位きちんとアピールが出来、かつソフト面でもこう言ったアピールが出来た場合、外資/日系含めてどこの金融機関でも概ねまず採用である。


・留学、世界一周旅行等の経験。

留学はハード面だけでなく、ソフト面のエピソードとしても使える。異文化に馴染んで行く際の試行錯誤、馴染みの友人など居ないなかでゼロから生活を作る中で辛かった事、楽しかった事など話せる事は色々あるだろう。また、バックパックで世界一周旅行等の経験も、同様の意味で良いかも知れない。面接官の目に留まりやすいだろう。

個人的には、留学とか、世界一周旅行が出来るのは、学生時代を逃すと中々ないので、こう言う、「有意義なムダ」を学生時代に(筆者自身も相当量やりはしたものの)もっとやっても良かったな、ともちょっと思う。大学休学を半年や一年位するのは、学生からすれば一大事かも知れないが、社会人からすれば「人生の誤差程度の話」である。

留学やら世界旅行やらの「有意義なムダ」のためのお金が無いと言われるかも知れないが、家庭の状況が許すなら(親や祖父母のスネをかじれるのなら)、100万円位は借金してしまおう。社会人になったら100万円位は直ぐ返せる。学生時代の100万円は社会人になってからの100万円より何倍も貴重である。マクロ経済的にも、団塊シニアが若者にカネを投じて使ってくれないと日本経済は元気にならない。また、例えば

はあちゅうの世界一周主義

のような作戦もある。企業にカネを出させるとは上手いなあと思う。

採用面接では、履歴書を見て「なんで休学してたの?(単位もちゃんと取れない、学校にも行けない自堕落な学生なんじゃないの?)」とやや当初ネガティブなニュアンスで質問されてしまうと言う意味ではやや不利だが、休学期間中が非常に有意義で生き生きとしたものであった事を説明出来る場合、逆に印象に残るし有利に出来る場合もあるとも思われる。


・その他、人生トータルでみて有意義な人生経験。

この点は学生さんからすると多少盲点かも知れない。
しかし、仕事とプライベートは全く別と言う訳ではない。特にマーケットの運用に携わると、ものの考え方、生き方含めたメンタル面トータルが運用に影響するので、そう言う面が強い。

採用する社会人の観点からすると、学生時代のうちに例えば1度位は大きな挫折をして、修羅場もあって、落ち込んで辛かった時期があって、リカバリーして、と言う一連のサイクルの人生経験位はあってくれた方が安心出来るように思う。スポーツや音楽でプロを志していたがダメだった、かも知れない。恋愛に関する事かも知れない。家庭の事情に関する事かも知れない。

仕事でも、相場の仕事であるないに関わらず(そして日々動くマーケットの仕事だと特に)感情の振幅にさらされる事は多い。そう言った感情の振幅にきちんと対応出来るかどうか、厳しい時に踏みこたえて活力を取り戻せるか、と言った点は、人生トータルでの経験の広さ深さにも関わる話なのである。

社会人との面接の時に人生内の私事の話をする事には抵抗があるかも知れないが、「今までの人生で一番大変だった事は何ですか?またそれをどうやって克服しましたか?」等の質問を面接官にされた際は、当項目のような形でソフト面からアピールするチャンスである。

ここで、「ゼミの勉強が大変で徹夜して〜」「サークルの幹事をしていた時にトラブルがあってどーのこーの〜」「大学受験が大変だけど乗り切った〜」とか、人生の広さ深さを感じられないような無難で差し障りない、言ってみれば「どうでも良い話」をしてしまうと、「薄っぺらい学生だな」「ゼミの徹夜が人生で一番大変な事じゃ、社会人になって仕事で厳しい局面になったらまず持たないな」と言う事になってしまい、非常に勿体ないように個人的には思う。

ハード面や、スポーツ、留学等の分かりやすいソフト面の売り以外でも、人生のどこかの局面(主に大学時代)で非常に辛い事、厳しい時期があった所からリカバリーして活力を取り戻せた、と言う経験がある学生さんについては、伝え方が余り深刻になり過ぎない等の注意は必要ではあるが(お涙頂戴するのが目的ではなく、あくまで面接官に「この人はトータルに一緒に仕事して価値のある人だ」と思って貰う事が目的である事は忘れてはならない)、プライベートの事柄も含めて、それを面接官に伝えてみるのは良いかも知れない。

2009年11月21日土曜日

何を勉強すれば良いのか? 〜新卒内定前その2:ハード面とソフト面を1点づつ〜

(出所:http://www.istockphoto.com/

前回の続きである。

今回は、学歴要件以外の面での、「外資/日系大手のマーケット関連職種のフロントオフィスで内定を得る確率が上がりそうな勉強事項」について書いてみたい。また、学歴面で劣勢の学生さんがリカバリーする方法等についても多少触れておこうかと思う。


○ハード面とソフト面

内定を得る際のポイントとしては、英語力、資格、インターンシップ経験と言った”仕事をさせて有能そうか””最低限必要な知的体力があり、将来成長しそうなポテンシャルがあるか”を示す「ハードスキル/経歴面」で比較的大きめのネタを1個用意出来るようにしておく事に加えて、人柄の面白さ、アクティブさ、学生時代の人生経験の広さ深さ等を示す「ソフト面」での分かりやすいネタを1個位を用意出来るか、と言う所だと思う。

ハード面だけで「僕は私は優秀だ」のオンパレードだけだと鼻に付くし、ソフト面だけだと友達としては面白いかも知れないが一緒に働くメンバーとしてはちょっと、と言う事になる。

このため、ハード面、ソフト面の両方あるのが好ましい。詳細は「面接の達人」であるとか、「絶対内定」とか、筆者も既にオジサンになってしまいどう言う本が現在出回って居るのかは分からないがその手の就職活動に関する書籍に任せるものの、基本的には「ハード面」「ソフト面」をバランスよく志望動機書なり履歴書なり面接時なりに分かりやすくパッケージにして将来性を売り込む、と言った事になると思う。


○まずはハード面から。

”仕事をさせて有能そうか””最低限の知的体力があるか”を示すハードスキル/経歴面では、以下のようなものが挙げられるだろう。

ここで重要なのは、「ハード面」と言った場合も、採用側は新卒の学生には「実務で即使えるような知識やスキル」を必ずしも期待していないと言う点である。即戦力が欲しければ中途を雇う。新卒を雇うのは、「将来の成長ポテンシャル」を買うためである。投資で言えばベンチャーキャピタルの投資のようなものである。現在のバランスシート上の資産(=知識量やスキル量)などどのみちたかが知れているため、アセット等の現状のストックを見てベンチャー企業には投資しない。将来の成長可能性こそがポイントである。

このため、ハード面と言う際、必ずしもファイナンスや会計や経済学の知識量を指す訳では無いと言う点に留意して貰いたい。あくまで、「将来の成長可能性を示せる、必要最低限の知的体力がある事を示すもの」である。下記の「本当にSolidな大学での研究や活動」の所でも説明するが、中途半端にファイナンススキル等をアピールすると、かえって不採用直行になりやすい面もあるので、その点留意頂けると幸いである。


・英語/留学

大学生の自己投資としては、まず英語をお勧めする。

TOEICで四捨五入して900点程度あると心強いし、採用担当者の目にもとまりやすい。これは外資に入る場合だけでなく、日系に入る場合も同様である。金融の仕事は基本的にグローバルであるし、教科書や読み物も英語が多いし、顧客や取材先が海外の事も多いので、英語は出来た方がとにかく良いと思う。もっと現実的な話をすると、転職者が多く労働市場が厚いのは主に外資系のため、英語が出来る事が就職/転職上も極めて重要である。英語が出来ないと社会人になっても転職出来る余地が極めて小さくなってしまう。

筆者の場合、学生時代に大学を休学して何ヶ月かNYで語学遊学(私費で語学学校に通いながら遊んで居たので留学とは言い難い)し、帰国後勉強して、就職活動時点でTOEIC825点(外資で仕事するには低水準)、内定後に勉強して入社直前にTOEIC890点(この位が就職活動時にあるのが元来理想)であった。後は入社先が外資だったので仕事で使っているうちに、「まあ上手いとはお世辞にも言えないが、仕事する上ではそう困らない程度」にはなったかと思う。

勉強の方法だが、一番手っ取り早いのは留学してしまう事である。

英語の場合、「全く喋れない、聞けない」と言う所から、「ある程度話せて聞けるようになり英語を学ぶのが楽しい」と思える段階に到達するまでのハードルが一番高く、この部分での集中的な労力と時間の投下が必要である。この段階で、毎日1時間の勉強を1年間やっても余り上達を実感出来ないと思う(そして挫折してしまう)。それよりも3ヶ月間、起きている間中英語漬けと言う期間を一回設けてしまう方が良い。集中的に脳を英語に慣れさせて、一度「ある程度聞けるし話せて楽しい」と言う閾値を突破すれば、その後は1日30分程度のリスニングなり勉強なりでも上達すると思う。

留学の場合は大学の単位互換、交換留学制度等を活用するのが一番良い。例えば、前回話した学歴要件の所が厳しい学生さん等は、留学先の学校がある程度以上の有名校(米国ならTop20〜最低30校位、アジア等ならその地域で言う所の東大、慶応位のトップ校で日本人でも名前を聞いた事のある大学)で、そこで1−2年間英語や何らかの専門分野を勉強しましたと言う流れに持って行けると、学歴面での不利をかなりの程度補う事が出来るかもしれない。取り敢えず面接に呼んでみようと言う事になりやすいだろう。

地域としては、サブプライム問題以降米国の地位が下がったとは言え、やはり教育分野では今でもまだ米国が一番強いだろう。ただし、将来的にアジア地域の成長に賭けてみたい、パンアジア全域の運用をやるとかしてみたい、と言う事を考えているのであれば、シンガポールや香港のトップ校、と言うのもアリかも知れない。英語に加えて初等レベルでも中国語が使えるようになると、昨今価値が高いだろう。

ちなみに海外で学ぶ分野は比較的何でも良いが、クオンツになりたいなら数学や統計関連、債券やデリバティブのセールスやマーケター方面なら理系分野かマクロ経済/計量経済学等、株の場合は哲学でも歴史学でも会計でもファイナンスでも別に何でも良い。この辺は各人興味の持てる分野でいいだろう。海外滞在時(あるいは帰国後でもいいが)についでに米国CPAでも取得してしまうと尚良いだろう。ここまでやると、特に外資での就職を考える際は、日本での学歴は殆ど関係なくなるだろう。

正規の留学が大変であれば、大学を休学するなり、夏休み+前後の授業を事前に関連教官に趣旨を話して(+その後の授業は真面目に出る等の埋め合わせも提案して)多少休むなりで、3ヶ月〜状況が許すなら半年位、私費で語学留学でもするのもありではないかと思う。色々な国の人と知り合うのは楽しいし、自然に英語の最初のハードルを越えられる。ただし私費の語学留学の場合は、現地で日本人とばかりつるんでしまわずに、真面目に英語で外国人と交流する事が重要である。語学留学しても、日本人とばかりつるんでいて一向に英語が出来るようにならず沈滞した生活を送っているような日本人は海外の語学学校ではどこでも散見される。そう言う層とは距離を置かないといけない。


・資格

簿記とか証券アナリスト試験の1次試験程度では、やる気のアピールの材料位にはなるかも知れないが、それ自体が評価される事はない。
この位の知識で「専門知識があるから金融に行きたい」等と主張されては採用する側も困る。この点勘違いしている学生さんが多いので注意が必要である。

ちなみに簿記は事業会社の経理等では不可欠かも知れないが、金融側では既に出来た財務諸表を分析するのが中心で、財務諸表自体を作る作業はしないので、簿記自体については余り深い知識は必要としない。時間があるなら簿記2級位取るのも良いかも知れないが、余り仕事の上では関係ないし、就職時も余りアピールポイントにはならないと思う。

一方で、公認会計士、米国CPAと言ったAccountingの大型資格を取得出来た場合は、特に株式関連や投資銀行部門等で仕事をする際にはかなり有利になるだろう。このレベルであれば知識/スキルそのものも評価される上、学生時代にそれだけのまとまった努力をして結果を出したと言う事自体も評価される。留学同様、学歴要件で不利な学生さんがリカバリーするには有効だと思う。


・インターンシップ等の経験

夏休み、冬、春等に外資系投資銀行等でインターンシップをやっているし、日系でも一部あると聞く。
米国証券アナリストの日本支部(CFAJ)でも、リサーチチャレンジと言って幾つかの大学に特定銘柄のフルレポートを執筆させて質を競うと言った企画がある。この手の話は志望動機のとっかかりにもいいし、勉強のきっかけにもなるし、業界人のカルチャーや雰囲気、自分への向き不向き、と言った面も分かると思うので、この手の活動に参加すると良いだろう。

「インターンをやって、楽しかったし、社員や業界のかたも魅力的だと思ったし、もっと深くスキルを付けてプロフェッショナルになりたい。」と言うのは、ありがちと言えばありがちだが、志望動機としては王道であり有効だろう。


・本当にSolidな大学での研究や活動

例えば、学会に論文を書いて発表して賞を取ったとか、そのレベルの本当に目立った活動があるなら、大学の勉強もハード面の売りとして履歴書や面接で使う事も可能である。この場合、特に分野は関係ない(勿論、物理、統計、ファイナンス、経済学等の分野であればその点について一定の評価はするとは思うが)。何かの分野でそこまで突き詰めて探究して結果を出した、と言う事自体が重要である。

ただし、「金融工学/会計/ファイナンスのゼミで徹夜で頑張りました、だから金融に入りたいし私の知識が御社に貢献出来ると思います」「大学の投資運用サークルで云々」なんてのは、ハード面のウリとして出せるものではないので、この点の注意を促しておきたい。こう言う学生さんは非常に多いのだが、不採用の典型パターンである。

筆者が過去に採用面接に関わった際の経験で言えば、「金融工学専攻」「会計専攻」「ファイナンス専攻」等と言う学生さんは極めて数が多く、面接の話を聞いていても誰も似たような話で、まず聞いていて印象に残りづらかった。また、大半の学生は本当に使えるレベルでの金融工学や会計やファイナンスの知識を、よくよく面接で詳細を聞いてみると持っていない場合が多かった。学部生で最初の1年は一般教養メインだとして、2年生位から1−2年、バイトなんかもしながら付け焼き刃でやった位では、所詮シロウトさんである。

「投資サークルが云々」の場合も同様で、そう言う事を言う学生は沢山居たが、過半が変な手癖だけついてしまうだけで、運用の実務で使えるレベルのしっかりした基礎が出来ている学生は非常に少なかった。

「金融工学/会計/ファイナンス専攻/投資サークルで幹事が云々で、それが志望動機でありかつ私の強みです」と言ってしまった場合、業界で実際にそれをメシの種にしている面接官と、オプション評価や企業価値評価、マーケットの機微について面接の際に話し込む事になる。この過程でボロが出てしまって、他に面白い強みやエピソード等が無いとなるとほぼ100%不採用になる。このため、はっきり言って9割がたの学生にとっては不利な売り込み方である。この点は留意が必要である。

こう言ったリスクが無い位に、本当にSolidな実績(つまりその分野であれば面接官に何を聞かれても完全に答えられる)が学業面であれば、ハード面のウリとするのも良いだろう。

随分長くなってしまったので、「ソフト面」については次回に回したい。

2009年11月20日金曜日

何を勉強すれば良いのか? 〜新卒内定前その1:学歴要件〜

(出所:http://www.publicdomainpictures.net/

書くのに飽きなかったので、前回の末尾に書いた通り、「運用プロフェッショナルになるための勉強事項」について書いてみようと思う。出来る限り一般的に当てはまるよう努力はするものの、筆者が株出身なので、株式運用にやや偏っている可能性がある事はお断りしておく。

○内定を取って業界に入るまでvs内定後・社会人後

まずは、勉強事項について指摘する際には、内定を取るまで(どうやって業界に入るのか)と、取った後(どうやってプロフェッショナルとして一本立ちするか)に分けて説明する必要があると思う。就職活動のシーズンでもあるし、まずは当面は前者から書いてみることにする。

ヘッジファンドで運用者になりたいとか、アナリストになりたいと言う際、まずは先に述べたような形で外資なり日系なりの大手証券会社か運用会社のマーケット関連部署なり投資銀行部門なりのフロントオフィスでまずは採用される必要がある。こう言った条件、職種で内定を取るために有効と思われる必要事項は、概ね以下である。


○早慶以上の学歴

みもふたもないが、金融業界は学歴社会である。必ずしも経済や経営系の学部である必要は無いが、日本の大学なら早慶以上、あるいは海外の大学である程度以上知名度がある大学の学歴は、まず面接のラインに乗るために必須である。

銀行の場合学閥があり、出身大学によって最初の配属支店のエリアが概ね異なりその時点で出世度合いの有利不利がある一方で、証券会社や運用会社で学閥があると言うのは筆者の知る限りでは余り聞かない。言ってみればマーケットの仕事は、業界に入った後は何大学かと言うのは余り気にならないのだが、面接のラインに乗って業界に入り込むまでの所で学歴が必要、と言う事になる。

従って上記程度の学歴があるかたは心配ないし、無いかたは大学院の修士で上記学歴を手にするなり、資格や海外留学等他の面で採用担当者の目に付くようにするなり、知人のツテを辿ってインターンシップをさせて貰う等して正規ではないルートで採用ラインに乗せて貰うなりすると言う事になる(銀行は違うかも知れないが、証券・運用業界の場合だと面接のラインにさえ乗ってしまえば学歴は余り関係無くなるように思う)。

受験法まで細かく書く気は無いが、以下の書籍が古いものの今でも参考になると思う。題名がくどい上に随分高値で販売されているが、図書館に問い合わせる等して探してみて頂ければと思う。大学や大学院受験だけでなく、資格試験の勉強の際にも非常に使える方法である。

スーパーエリートの受験術—キミにもできる (新書) 有賀 ゆう (著)

また、筆者の趣味の、フォトリーディングもお勧めである。
習得も簡単であるし、筆者の場合は証券アナリスト試験やCFA試験についてはフォトリーディング+マインドマップのノート法を始めてから、比較的円滑に合格出来た。

[新版]あなたもいままでの10倍速く本が読める (単行本(ソフトカバー))
ポール R.シーリィ (著), 神田 昌典 (監修), 井上 久美 (翻訳)



○海外の大学について

昔は帰国子女は「使いづらい」と言う事で就職に不利だったようだが、現在はそう言う事も無いように思う。特に外資系の証券会社や運用会社では、英語力がある事、海外で勉強や生活をしようと言う意識の高さや行動力等は評価される。とは言え、海外大学の場合も学歴社会なので、米国で言えばTop20校以上であるとか、ある程度以上知名度がある大学である必要はある。


○学部について

株だと余り関係ない。セールス、トレーダー、アナリストとも、文学部とか哲学科とかでも素養があると判断されれば採用される。株の場合、比較的、間口が広いように思う。

「金融工学も会計もファイナンスも、興味はあるけど現状詳しく分からない。でも投資って何か楽しそう。」

と言う位のかた(普通この位の学生が過半ではなかろうか)は、業界に入る際は株にフォーカスしてみると良いかも知れない。

例えば消費者としての実感だとか、ブーム/売れ筋に敏感だとか、そう言う事柄を実際の株の選別に活かす類いの素養も株の場合必要なので、「ファイナンスや会計の知識は内定後の後付けで付けられる位の能力はあるし、統計や数字を眺めたりするのも好きだ」と言う事を示す事が出来れば「キャラ採用」が通じ得る面はある(その時の景況感や労働需給にもよるし、近年採用の間口が非常に狭くなっているようで、中々難しいという話も聞くが)。とは言え、数字自体が苦手だとか、ファイナンスや会計を勉強するのが苦痛だと言うとちょっときついので、その点は断っておく。


債券だと、株よりは数学を使う感もあるので理系の方がやや有利だろうが、セールスやトレーダーなら文系でも構わないだろう。

デリバティブの場合は理系が有利であるが、債券同様でマーケター、セールス、トレーダーなら、ファイナンスや金融工学にある程度明るい経済学部等の文系でも可能である。クオンツが作ったモデルをユーザとして使える程度の素養があれば良いと言う事である。

クオンツも概ねデリバティブに準じる。クオンツと言っても、本当にハードなクオンツから、そうエレガントではない事、例えば大量データを行列処理等でばさーっと処理出来れば良い位の分野まで色々ある。前者であれば物理や数理統計学専攻等のハード理系が向いているだろうが、後者であれば理系でも工学部や情報システム学部等、あるいは文系クオンツも居る。デリバティブの商品開発等はハードなクオンツな部類だし、Stat Arbやマルチファクターモデルによるクオンツ運用と言った分野だとクオンツの中でも比較的ソフトな部類である。まあ面接の際に正直に自らの数学や統計についての素養がどの程度か説明して、採用してくれるならやって行けそうだと判断されたと言う事である。


○学位について

ハードなクオンツ以外は院卒である必要は殆どない。金融の仕事の過半については、多少の知的体力は必要だが、そんなにずば抜けた知性は必要無い(しまった言ってしまった)。「稼ぐ事は素晴らしい」と言う単純なマインドが重要な面もあるので、稼ぐ際に知性が邪魔をする事もある。

クオンツの場合は、特にハードなクオンツの場合、海外の場合は理系Ph.dが当たり前だが、日本の場合はそうでもないようで、修士でもいいし、学士卒の採用も場合によってはある様子である。これは日本の大学院教育の特性によるものだと思う。

MBAについては、海外有力校のMBAであればある程度は考慮されるが、とは言えMBA留学前の職種次第である。元々金融業界出身だった場合、MBAから帰って来て再度金融業界に戻るのは簡単である。非金融業界出身の場合、あるいは学部卒から社会人経験なしでMBAコースに行った場合、投資銀行部門や株式アナリスト辺りならMBAの肩書きを突破口に門戸が開く可能性もあるかも知れないが、この場合は結構難しいかも知れない。


・・・学歴要件を書いただけで随分長くなってしまったので、「上記学歴要件は満たしているとして、大学生活でどういう勉強が内定を取るのに有効か」と言うのは、後日にまた書きたい。

2009年11月13日金曜日

ヘッジファンド(あるいはアナリスト、あるいはファンドマネジャー)でやっていくにはどんな勉強をすれば良いのか?


(出所:http://www.publicdomainpictures.net/
「アナリスト/ファンドマネジャーとして、ヘッジファンドで運用の仕事に携わるには、何を勉強すれば良いですか?金融工学ですか?ファイナンスですか?リアルオプションは出来た方がいいでしょうか?」

こう言う質問も、FAQとしてある質問である。
今日はこの点について少し書いてみたい。


○最初に一言:他人に答えを求める人は、運用の仕事は向いていない。


まず最初に一言言っておくと、こう言う質問を思わずしてしまう学生さんは、そもそも運用者向きではないので、運用業界には入らない方がいいかも知れない。特に、ヘッジファンドでやって行くには厳しい。この点は最初に伝えておきたい。

マーケットは学校の教室ではない。答えは自分で探すしかないし、必ずしも高度な分析をやれば報われる訳でもない(むしろ非常にシンプルで実務的にワークする方法の方が、実践的である)。本当に儲かる手法については誰も論文だの本だのにはせず、個人のノウハウとして、ブラックボックス化されてマーケットで静かに活用される(多くの人が同じ手法を使い始めると、機能しなくなるからである)。このため、大事なノウハウに限って中々表には出て来ないのである。


○勉強に必要な分野:相場で稼ぐために必要となる事なら何でも。


勉強に必要な分野は、マーケットの運用でリターンを上げる、つまり相場で稼ぐために必要となる全てである。

経済学が必要かも知れない。
しかし英米の一流大学で経済学のPh.dを取ったようなエコノミストでも予想はあんまり当たらない。エコノミストがヘッジファンドを始めると往々にして悲惨な結果に終わる事も多い。

数学、統計学を駆使したクオンツの分野が必要かも知れない。
しかしクオンツによる運用も、「結局は高度な方法を用いて、過去のデータにジャストフィットするようカーブフィッティングしてるだけの人も結構多い」ようにも思われ、ある意味袋小路の雰囲気もある。カーブフィットした運用戦略は実際に将来のデータで実運用すると機能しない。じゃあどうやったら儲かるのか?当たり前だがそれに直接答える論文は存在しない。クオンツのヘッジファンドとして恐らく最も儲かっていると思われる米国のルネサンステクノロジー等も、社員でさえアクセス出来る情報が限られていて、ブラックボックスの中核はごく少数の幹部しか知らないようだ。

株をやるなら会計やコーポレートファイナンスが必要?戦略論や経営学、企業分析等を学ぶべき?まあ必要なのは否定しない。
しかしそういう事をしっかり知っているはずの会計士やMBAホルダーを大勢集めて運用している大手運用会社の7割がたがサル以下、つまり市場をアンダーパフォームしている事実がある。そう言う知識はあって当たり前のものであって、運用で勝つための差別化の要素には必ずしもならないのである。

物理学からのアプローチをする研究者も最近増えている。
しかし、対象が宇宙や自然の摂理で、(量子論で観察者が観察対象に影響を与える旨の議論はここではひとまず脇に置いておいて)観察対象が基本的には人間の観察の影響を受けない自然科学と、観察者=参加者でもあり、観察対象を観察する事そのもの、観察対象と観察者(=実験の参加者)の相互作用によってどんどん状況が変化してしまう社会科学とでは、ちょっと根本的に異なる面もあるように思われる。経済物理学等の分野で、「この理論により、マーケットの崩壊タイミングが読めるようになる」等と言っている学者が居るが、事はそんなに単純ではない。皆が「その理論」を用いてリスク管理をし始めたら、その理論が「マーケットが半年後に崩壊する!」等とシグナルが出た瞬間に、半年後でなく今、皆手持ちのポジションを一斉に売却し始めてマーケットは既に崩壊してしまうという事になり、結局機能しない代物になる。と言うか、なぜこの学者は、崩壊タイミングが読める理論を考案したなら、マーケットで利用せずに、論文にして公表しまうのだろうか(注1)。

時にはキャバクラにでも行って、実地でお金がどうやって回っているかの社会勉強も必要かも知れない。
こう言う現実に根ざしたマネーに対する感覚と言うのは、結構重要である。頭でっかち過ぎてもマーケットの仕事をするのは難しい。

メンタル面も重要なので、滝行や座禅も良いかも知れない。学問分野でも行動経済学と言った心理学を取り入れたアプローチもある。

更には、運用は「運を用いる」と言う漢字の体の通り、運が良い事が非常に重要である(注2)から、運気を上げる方法だとか、たまに来る運を掴み取るトレーニングが必要かもしれない(注3)。

言ってみれば、掲題の質問に対しては、「これが儲かると思った分野を各自探して、頑張ってください。ざっついっと」と言う話になる。


○次回以降の予告

・・・しかし、そう言ってしまうと、それはそれで救いが無いかとも思うので、次回以降で、一般論として幾つか、「こうすればある程度の水準までは行くかな」と言う学習方法を、(筆者が書くのに飽きなければ)書いてみようと思う。

(以下、注の解説)

注1:とは言え、経済物理学の知見が役に立たないと言っている訳ではない。効率的市場仮説だのモダンポートフォリオセオリーだの新古典派経済学だのに比べれば格段に相場の現実とフィットしやすい分野でもあるし、興味深い知見が多数発見されている。ここで言いたいのは、そう言った学問分野も、「ただそれを学べば稼ぐために直接使えると言うものではない」と言う事である。こう言った理論面、学問分野面からの知見を、実際稼げるような形に落とし込めるかについては、各人次第だと言う事である。

注2:ナシーム・ニコラス・タレブ著の以下3冊を参照。

ブラックスワン(上)
ブラックスワン(下)
まぐれ

注3:冗談で言っているのではない。

2009年11月6日金曜日

ヘッジファンドのキャリア構築に際して:新卒入社先の規模について 〜大手かベンチャー・中小か〜


(出所:http://www.istockphoto.com/

ヘッジファンド業界に興味のある学生さんに聞かれるポイントとして、ヘッジファンドは儲かるのか、新卒で入るなら外資がいいか日系がいいか、職種は?と言った質問に答えて来た。次は、新卒で入社する先の規模についてである。数学のグラフで、x軸が外資か日系か、y軸が職種だとすれば、規模の大小はz軸、と言った所だろうか。

○規模について ―大手か中小か―

結論として、新卒の学生は、ネームバリューのある大手に入社する事を勧める。規模の小さいヘッジファンドで好きなようにやる事だとか、自分でファンドを作って独立したいとかが将来のゴールであったとしても、新卒の学生は大手に入る事を推奨すると言う事である。理由は幾つかある。

1.ヘッジファンドに転職したい際や独立する際に、「ネームバリューのあるブランド大手で仕事をしていた履歴書」が重要だから。

これは重要な点なので最初に指摘しておく。特に新卒の場合、最初の会社がどこだったかと言う所でかなりその後の運命が変わって来るので、この点は留意が必要である。ヘッジファンドに転職する際には、ある程度ブランドのある大手で仕事をしていたと言う経歴がある方が、転職しやすい。もちろん、ブランドがあるだけでは転職出来ないのだが、ブランドは重要である、ブランドも含めて実力である、と言う事である。

また、将来的に自分のヘッジファンドを立ち上げて独立したい、と言った夢をもっている場合においても、最初は中小証券や金融ベンチャーでなく、大手に行く事をお勧めする。独立して資金集め等をする際に、「元ゴールドマン」「元野村」等と言うのと、「元無名の証券会社や運用会社」と言うのでは、前者の方が圧倒的に信頼して貰いやすいし、資金集め、顧客獲得に有利である。

具体的な企業名では、日系証券で言えばまずは野村である。外資系証券であれば米系大手、次いで欧州系大手である。バイサイドの運用会社としては、日系では大手証券・保険会社・信託銀行等の系列あるいは発祥の運用会社、外資系では(なかなか新卒採用はしていないが)独立系の外資大手、あるいは大手外資系投資銀行の系列の資産運用部門と言った所である。

「実力主義に肩書きや企業ブランドは関係ない」「運用さえ上手ければいいのではないか、それが実力主義ではないか」と言いたいかたも居るだろうし、その気持ちは分かる。しかし、肩書きやブランドがあったほうが起業・独立にも有利だと言うのは厳然たる事実である。

理由は、経済学を学ばれたかたはご存知かも知れないが、この世には「情報の非対称性」があるからである。

個人でデイトレをやりたいのであれば学歴もキャリアも必要がない。ジェイコム氏等は(金融機関で働くプロでも真似出来ない位に)本当に上手いし才能がある。またヘッジファンドも含めて顧客のお金を運用する商売でも、実力が潜在顧客にテレパシーのように相手に伝わると言う事であれば学歴や企業ブランドなど関係ない。

しかし実際の所、仕事として他人の資産を預かって運用の仕事をやる以上は、顧客と言う「他人」に、自分の実力を知ってもらい信頼して貰う必要がある。そのためには、「自分は実力がありますよ」と分かりやすく他人に納得して貰えるようなシグナルが必要である。そう言うシグナルを他人に向けて発信するためのツールが学歴であったり、会社員をして居た頃の企業ブランドや資格と言ったものになる訳である。


2.大手の方が一般論としてまともな教育を受けられるから。

外資の方が日系より新卒の教育期間/内容が薄くすぐに戦力化する事を求められる等の差はあるものの、全体としてはやはり、新卒採用を定期的に行っている大手のほうが学生の扱いに慣れて居るし、教育体制等もある程度確立している事が多い。また、あくまで一般論としてであり個人差も大きいが、上司や先輩の仕事の出来具合やクオリティも平均してみれば大手の方が良く、学ぶものも多い。大手で基本動作を学んでおくと言うのは、新卒学生にとっては価値のある事だ。

一方で、新卒採用をあまりした事が無いような新興企業や、キャリア採用が中心の東京において規模が余り大きくない外資系企業の場合、採用する側も学生の扱いに慣れていない事が多い。大したトレーニングもないまま変な部署をたらい回しにされたりであるとか、会社の都合に当初から振り回されると言った可能性も高くなる。


3.大手の方が「討ち死にリスク」を低減出来るから。

アナリストとして企業を調べる場合、「シェア1位の会社は不況でもある程度受注、売上を確保出来る一方で、シェア2位以下の会社、つまり限界サプライヤーは不況時に大きく売上利益を落とす事になる」「限界サプライヤーは景気回復時には売上利益とも大きくドライブするが、無理をして居る事も多く、それが不況時には仇になり大きな後退を余儀なくされる事が多い」と言うのは常識である。これに基づいて景気回復期にはハイベータの限界サプライヤに投資して、景気後退期には業界トップの安定企業に投資したりする訳である。

金融業界においても同様の法則は概ね成立する。証券会社については、好況期には余り企業体力の差は気にならないし、外資系金融機関でもGSやモルスタ等の大手だけでなく、比較的知名度の高くない所でも大量に新卒を採用したりする。しかしこれが不況期になると、大手ほど景気後退期のリストラは小規模に留まる傾向にあり、勢いのあった外資の小規模の所ほど不況時には東京オフィス撤退のリスク等も高い。

運用会社でも同様である。景気の良い時は、新興の運用会社が多いに栄えるし、新卒採用までやってたりする。一方で、不景気になると、顧客が一番に逃げて行ってAUMの減少も激しく、リストラも激しくなるのは新興運用会社である。

これは年金基金等の、運用会社の顧客の観点から考えても分かりやすい。景気が良い時は、フィデリティやキャピタル等の歴史のある伝統的な大手運用会社以外にも、新興の元気のよいファンドにも投資してみようかと言う余裕がある。一方で、景気後退時には新興ファンドから解約して行く。幾ら不景気でも運用を完全に止める訳には行かないので、長い歴史と実績のある伝統のある大手運用会社にはある程度は運用委託を継続する。運用パフォーマンスと元気の良さが取り柄だった新興運用会社は、景気後退時には顧客の引き止めに非常に苦労するが、歴史の長い運用会社だと、「弊社の長い歴史からすれば景気後退は良くある事だ。大恐慌もオイルショックも弊社は切り抜けて来た。」と言えば説得力がある。

タチの悪い事に、新卒採用と言うのは景気の遅行指標である。つまり、外資のマイナー所や新興の運用会社までが新卒を大量に募集している時に限って、景気の最終局面に来ていて不況が近い可能性があると言う事である。こう言うタイミングでないと中々業界に入り込む術が無いと言う面があるのが難しい面もあるが、こう言うタイミングに限界サプライヤー的企業に入社した場合、直後に大リストラや東京オフィス閉鎖が待っている可能性が、大手に入る場合よりも相対的に高い事はリスクとして認識しておいて良いだろう。

金融危機の際も、ベアスターンズやリーマンが破綻して、ゴールドマンやJPモルガンが悠々としているのには理由がある。また、邦銀でもみずほフィナンシャルは大ヤラレして、三菱東京UFJが比較的被害が軽微だったのにも上記のような理由がある。前者は業界における限界サプライヤであり、好況時に上位投資銀行に追いつけ追い越せするために、リスクを取ってレバレッジを利かせてサブプライム関連の証券化商品等に勝負してしまった。後者は業界トップの余裕とでも言えばいいだろう、好況時の急成長は多少控えめにして堅実な経営をしていた結果が不況時の打たれ強さに繋がっている訳である。

読者の学生の皆様は、例えば有名投資銀行Gと、知名度のそれより低い外資の両方に採用されたら、基本的にGに入るべきだし、ピーターリンチ等が所属した事で有名な外資系資産運用会社Fと新興系運用会社の両方に内定したら、「うちはベンチャーで若い頃からやりがいがあってどーたらこーたら」等と後者に説得されても、新卒で入れるなら基本的に前者に入るべきである。

ベンチャー企業や規模の小さい会社は、こと金融業界においては、新卒の入る場所ではない。ある程度大手でキャリアを積んで来て、もう大手のしがらみから離れてやりたい事を一緒に仕事したいメンバーでやりたいとか、知名度や履歴書の美化はそろそろいいから年俸の取り分をもっと上げようかとか、そう言うタイミングで入る場所だと思う。大手から小規模は比較的行き易いが、小規模から大手は一般論としては行きづらい。物事には円滑な順番がある。

ちなみに、ヘッジファンド業界は、そのアセットクラスそのもの、業界そのものが、金融業界における限界サプライヤである面は否めない。昔よりはヘッジファンド投資の必要性は認知されて来ているし、アセットクラスとして定着してきつつはあるが、まだやっぱり不況時には資金を引き揚げられてしまいやすいアセットクラスではある。だから浮沈も激しいし、新卒募集もしていないし、よしんば新卒採用をしていてもお勧めはしない、と言う事なのである。

2009年11月2日月曜日

職種:ヘッジファンド運用者になるためにはどんな職種が近いのか?

(出所:http://www.istockphoto.com/

日系か外資かの次は、職種である。これも比較的頻繁に聞かれる事なので、この機会に書いておこうと思う。

ただ、ここでも、あくまで「ヘッジファンドの運用者になると言う事を当面のゴールとした場合」についてである。
例えばバックオフィスがヘッジファンド運用者になるのに適していない等と記載する場合、職種の優劣を意味する訳では無い。
決済やコンプライアンス等のバックオフィスにもプロフェッショナルは居るし、彼らが居ないと運用者だって仕事が成り立たない。
この辺りの点についてご理解頂いた上で読んで頂きたい。


○ヘッジファンドに比較的転職しやすい職種


〜証券会社〜
端的に言えば、証券会社では株式や債券やクオンツ分析のアナリスト、あるいはトレーディング、営業等の、マーケット関連のフロントオフィスに入る必要がある。こう言った職種からヘッジファンドに転向している人はかなり多い。また、投資銀行部門から、株式系ヘッジファンドのアナリストに転向して、後にファンドマネジャーになる者もいる。

ただし、ヘッジファンドに行くのがゴールである場合、株のアナリスト、セールス、トレーディング、投資銀行部門のバンカー等の仕事を長くやり過ぎるとそれはそれで手癖が付いてしまうので注意を要する。

株のアナリストは個別企業の分析をしてレポートを書き顧客である機関投資家に説明するのが仕事であり、実際にポートフォリオを運用してリターンを出す事が仕事ではない。セールス、トレーディングも同様で、顧客のために説明したり、顧客の注文を執行したりするのが仕事であり、運用そのものではない。投資銀行部門もM&Aの仲介や株や債券の引き受け販売等が仕事であり、運用でリターンを上げる事をゴールとする仕事ではない。

セルサイドの仕事とヘッジファンドの運用は、スキル的に部分的に同一な部分も勿論あるが、異なる面もかなりある。

新卒の学生さんであれば、セルサイドのキャリアを3−5年位まとまってやってみて、その時点でセルサイドをずっと続けるか、ヘッジファンドで運用の仕事をしたいのか考えてみると良いと思う。ヘッジファンド側もあまり手癖が付き過ぎたシニア過ぎる人より、若手〜中堅位の人材を好む傾向にあるので若いうちのほうが転職しやすいと言う面は、一般論としてはある。

とは言え、かなりシニアな人やセルサイドの大御所的な人がヘッジファンドに転職したり、ヘッジファンドを立ち上げたりする事も無い訳ではないので、最終的にはその人次第、ケースバイケースではある。


〜運用会社〜
運用会社では、ジュニアの職種では、株や債券のジュニアアナリスト、ファンドマネジャーのジュニア(ファンドマネジャーの各種サポートを行う)、と言った職種がヘッジファンド運用者になるための道のりとしては一番近いであろう。日系/外資の運用会社でファンドマネジャーになり、トラックレコードを作ってヘッジファンドに行くと言うのが理想であるし、あるいはアナリストのままアナリストとしてヘッジファンドに転職するケースもある。

運用会社の場合も、一般の大手の運用会社の伝統的な運用(ベンチマークがTopixで、業種ウエイトや個別株のウエイトを微妙にコントロールしてアウトパフォームを狙うような運用)と、ヘッジファンドの運用ではだいぶ趣き、必要なスキル、スピード感、カルチャー等が異なるので、場合によっては余り長居しすぎないほうが良いかも知れない。若い人であれば数年運用会社でアナリストでもやってヘッジファンドに転職を考えるのも手である。あるいは比較的若いうちからファンドマネジャーにしてくれて自分のトラックレコードが作れるような有り難い運用会社(大手の運用会社は往々にして年功序列的色彩が強いのでこれが中々無いんだが)の場合でも、アナリスト期間数年+運用者期間数年で、運用者としての数年のトラックレコード(運用実績)を作って自信が出来たらヘッジファンドに転向した方が良いかも知れない。証券会社の場合同様、ヘッジファンド側も余りロングオンリーの伝統的運用で手垢、手癖が付き過ぎた運用会社の人材を雇おうとはしないケースも多いのである。

とは言え、かなりセルサイド同様、かなりシニアな人や大御所的な人がヘッジファンドに転職したり、ヘッジファンドを立ち上げたりする事も無い訳ではないので、運用会社からキャリアを始められるかたも、最終的にはその人次第、ケースバイケースではある。


〜銀行〜
債券や為替の分野だと銀行の債券/為替の運用に携わっていた人がヘッジファンドに来る事もある。しかし特に日本の銀行だと新卒で入行すると過半は融資等の支店業務が中心で運用に携わるケースはかなりまれである。ヘッジファンドに行きたいからキャリアの第一ステップとして銀行に入る、と言うのはポイントがずれているように思う。

どちらかと言うと、銀行に入ったら、ごく低い確率でたまたま為替や債券のトレーディングや運用の部署に携わる事になり、やってみたら面白くて、銀行に居ると色々運用上の制限もあるし出来高給でもないので結果としてヘッジファンドに来た、と言うケースが多いように思う。


〜その他〜
その他、金融業界以外の業界としては、戦略系コンサルのコンサルタントからヘッジファンド業界に入る者も居る。しかしこれは比較的マイナーな事例で、アクティビストやプライベートエクイティ等の経営改善についての提言を含むようなファンドの場合に限られる。ただ、戦略系コンサルから証券会社や運用会社の株のアナリストを経て、株式系のヘッジファンドに移る者は居る。コンサル業界で学ぶ企業分析のスキルが株の分析に使えると言う面はあると思う。

ただし、コンサルから金融業界に移る場合、金融市場やマクロ経済等についての体感的理解を身につけたり、コンサルのノリから金融のノリに慣れるのに少々時間を要する事もあるので、コンサル業界を出るのは遅くなり過ぎない方がいい。

端的に言えば、コンサル的にロジカルでMECEであれば市場で勝てると言う訳ではない(むしろロジカルさに拘り過ぎる事が運用上は邪魔になる面もある)し、プレゼンの巧拙等は運用でリターンを上げる事とは関係ない(顧客説明等の際には重宝するが)。

コンサルからヘッジファンドに行く事を考える場合、20代のうち、経験年数で言えば3〜5年以内位で証券会社や運用会社のアナリスト、アクティビスト系ファンドのアナリスト等に転職するのが良いと思う。コンサルで10年やってしまったらマーケットの運用にシフトするのは難しいと思う。


○ヘッジファンドで運用の仕事がしたいなら、フロントオフィスに行く事。

ポイントとしては、証券会社にせよ運用会社にせよフロントオフィスに入る事である。
そして株にせよ債券にせよ投資銀行部門でも、金融市場や企業価値評価に関われる仕事を選ぶ事である。
決済、総務、IT等のバックオフィス業務勤務から、フロント業務であるヘッジファンド運用者に転向する事は、外資系勤務であれ日系勤務であれ、かなり難しい。特に外資系で顕著だが、金融業界においてフロントオフィスとバックオフィスは明確に異なるキャリアステップとして区別されているのである。

また、日系企業でよくあるような「総合職」「支店営業配属」と言ったアバウトな採用カテゴリーで採用されて色々な業務を経験すると言うのは余りお勧めしない。ヘッジファンドの運用者と言うのは極めて専門化された業務分野であり、ジェネラルな知識だけではどうにもならないと思う。職種別採用枠がある会社で、金融市場に詳しくなれるような先に挙げたような職種に入るのが良いと思う。

とは言え、「職種別採用で基本的には金融市場のプロフェッショナルになる事を前提としながら、比較的広い範囲の研修/軽いOJTを受けられる」と言ったような状況があるなら活かすのも良いと思う。筆者も、株のアナリストのキャリアが中心ではあるが、一時的に不良債権の評価をしたり、トレーディング部に所属してOJTをしたり、単発プロジェクトものでM&Aのデューデリジェンスに参加したり、顧客にプレゼンしたりの経験は運用の面でもそれはそれで、上場株のアナリストだけやっていたのに比べてマーケットや株式、企業の見方が広がる面もあり、存外貴重だった。