2010年1月23日土曜日

映画「Matrix」と資本主義 その4

(出所:Matrix)

○資本主義をマスターすると、↑のような離れ業が出来るようになる?

前回の続きである。
赤いピルを飲むのも大変な事だとは言え、資本主義のありようを理解して、自己啓発して、成功出来るように研鑽すれば、Matrixで言えば銃弾を避けるような離れ業を出来るようになり、お金持ちになって経済的に自由になれば幸せになれるんじゃないか。そう言う意見もあるだろう。と言うか世の成功本や自己啓発本はおしなべてこう言う前提に則って書かれている。今回はこの点について書いてみようと思う。


○典型的な成功者の道のり

ここに、筆者が今まで延べ1000社以上の上場企業を取材し、その中では社長や役員等への取材も日常的に行い、また運用会社を起業して成功したと言ういわゆる「成功者」を脇目に見ながらそのもとで仕事をして来たと言う経験も踏まえて、「赤いピルを飲んで、一時は前回書いた通りの苦労も味わった末に成功した、典型的な成功者」の道筋を書いてみたいと思う。

結論から言えば、確かに資本主義のありようを理解して、自己啓発して、成功出来るように研鑽すれば、成功の度合いには個人差があるにせよMatrixで言えば銃弾を避けるような離れ業を出来るようにはなる。しかし一方で、注意しないとその副作用もまた大きく、結局は自由にもなれなければ幸せにもなれない、と言った事態が頻発しがちである。

筆者自身の体験、出会った人等も踏まえて書いては居るが、特定の誰を指していると言う事はないのでその点は断っておく。赤いピルを飲んだ人間の、一般的にありがちな姿を描いたに過ぎない。


○平凡で退屈な日常(赤いピルを飲む前の世界)

成功者ももとは普通の学生だったり、普通の会社員だった。
意地悪な上司や同僚のもとで嫌な思いをしたり、お金が無くて惨めな思いをしたり、異性にモテなかったりして冴えない時期があった。

得てして成功する前のこの手の「マイナスの感情を伴う鬱憤」「いつか見返してやる」と言った感情が、赤いピルを飲んで起業するなりキャリアアップなりの原動力になっていたりするケースが散見される。(心当たりがあるかたは、対外的に否定するのは各自の自由だが、自分の心の奥底の声にはきちんと耳を澄ませる事をお勧めする。きちんと自覚して認めてしまえば、後に書くような副作用はずっと減る。)


○冒険への誘い

そしてきっかけは様々だが、「ある起業家に出会って感動した」「自己啓発セミナーに行って、漫然と会社員をするのでなくてやりたい事を見つけないといけないと思った」「会社員としては上手くやって行けなかったので起業するしか無かった」「近しい人の死や大災害に直面して、一度しかない人生これで良いのかと思った」「会社員としては一通りの成功を収めたし、次は独立だと思うようになった」「日系企業ではつまらないので外資系金融に行く事に決めた」「大手では物足りないのでヘッジファンドに行って腕試しする事にした」等等のきっかけを経て、成功者は一歩を踏み出す事になる。Matrix同様、赤いピルを飲む事になると言う事である。

ようこそ、資本主義の実存の砂漠へ。


○赤いピルを飲んだ後の辛い現実との直面

前回書いたような現実に直面して七転八倒する。


○メンターの発見

それでも成功者は身悶えながら頑張る。
成功哲学の書籍を色々読み漁る。
自己啓発セミナー等に沢山出て、自己投資する。
スキルを磨く。

そう言った中で、本なりセミナー講師なりの「メンター」「指針」を発見する。映画のMatrixで言えば、モーフィアスである。Matrixのシステムに似せて作られたスパーリングプログラム内の道場に立ちながら、モーフィアスは言う。

It has the same basic rules, rules like gravity. What you must learn is that these rules are no different than the rules of a computer system. Some of them can be bent. Others can be broken. Understand?
ここでの基本的なルールは同じだ。重力の法則とかな。お前が学ぶべき事は、ここのルールはコンピュータシステムのルールと同じだと言う事だ。つまり、曲げていいルールもあるし、ぶち壊していいルールもある。わかったか?

Good! Adaptation. Improvisation. But your weakness is not your technique.
よし。適応力、即興性はある。だがお前の弱点はテクニックではない。

Do you believe that my being stronger or faster has anything to do with my muscles in this place?
この場所で私の強さや速さが筋肉と関係があると思っているのか?

What are you waiting for? You're faster than this. Don't think you are, know you are.
何を待っているんだ?もっと速く動けるはずだぞ。頭で考えるんじゃない、悟るんだ。

Come on! Stop trying to hit me and hit me!
どうした!打とうとするんじゃなくて、本当に打て!

I'm trying to free your mind, Neo, but I can only show you the door. You're the one that has to walk through it.
私はキミの心を解き放とうとしているのだよ、ネオ。だが私は入口を見せてやる事しか出来ない。キミはそこを通り抜けるべくして選ばれし者なのだ。



そうして成功者は、世界は思ったほど確固たるものではなく、思考が現実を作る事、具体的には「成功」するために必要な以下のような事を学ぶのである。

・ポジティブシンキングが重要だ、ポジティブな言葉だけ使うようにしよう。
・周囲の一緒に居る人が重要だ、だから「意識の高い人」「優秀な人」「成功者かあるいは成功しそうな人」「勝ち組の人」とだけ付き合うようにしよう。愚痴の多い人やテンションの低いような人は切ろう。
・時間はどんな大富豪にも一般人にも等しく同じだ、だから1分でも大切にしよう。少しでも遅刻するような人とは付き合わないようにしよう。
・手帳の活用だ。昨今はIT活用も重要だ。自分をGoogle化するぞ。
・ゴールを明確にして、いつまでに何をして幾ら稼ぎたいのか数字も明瞭に決めて、紙に書こう。成功を示すような写真や絵も用いて、成功イメージを高めよう。
・何をやりたいかより、何をやりたくないかで目標を決める方が目標が定まりやすい。
・勝ち組になるイメージを常に想像しろ、過去の嫌な会社員生活等も無駄な事は何一つない。そう言う過去も糧にして「こなくそ」と言う気持ちもバネにして競争に勝つのだ。
・起業させて株式を上場させれば、自ら合法の通貨を刷る事に等しい。資本主義の搾取される側から勝ち組になれる。だから上場に向けて頑張るのだ。
・スキルアップして常に自己に投資し続け、キャリアアップを続けるのだ。会社を利用出来るようになれば年収の桁が一桁増える事になる。
・成功イメージを高めるために、敢えて値の張るレストランで食事してみたり、飛行機をビジネスクラスにしたり、新幹線でグリーン車に乗ったり、一張羅のフォーマルな服を買ったりしろ。脳に成功者としての自分のイメージを刷り込むのだ。成功者のコミュニティに成功していない時から入る事、一流の空気を一流でない時から吸う事が大事なのだ。そうしているうちにイメージが現実化し、成功に繋がる。

、、、とまあ、本屋の棚を埋め尽くす程成功哲学の本が沢山あるが、まあ大まかにまとめれば大体こんな風な感じだ(注1)。

成功者は、謙虚になり、熱心に上記を実行し始める。


○困難を経て、何らかの形で成功を収める

上記の通りガツガツ頑張れば、規模の大小は人それぞれあるだろうが、多くの人はある程度の成果を収められる。

サラリーマンなら、会社の従僕のようなサラリーマンから、英語もペラペラ、財務にも明るく知識も豊富、周囲の社員からも魅力的に映り、会社や仕事を自分で選べるような会社員になれる。
起業家なら、事業も軌道に乗り、場合によっては株式公開等も出来るかも知れない。

世間の評判も上がり、仕事がどんどん舞い込んで来るようになり、多忙になる。
当初よりずっと良い生活が出来るようになる。広くて景色の良い都心のタワーマンション等に住むようになり、高級レストランに出入りするようにもなる。

周囲の知人も、自身と同じようないわゆる「セレブ」が増える。会合では皆でお互いの家、事業、スキルや能力等のお褒め合いをしてそれを「気色悪いお世辞の言い合い」ではなく、「ポジティブシンキングでポジティブワードを皆使う、素晴らしい人達だ」等と思うようになる。お金の話や不動産の話、投資の話等を常時こう言ったコミュニティの人達とするのが常識になる。カネの話をどこでもする事が品のない事だとも次第に思わなくなる。何しろ自分は成功者コミュニティの一員で勝ち組だ。勝てば官軍、自分たちがスタンダードだ。ワインパーティで投資案件の情報交換位するのがセレブなんだ、と言った思考が知らず知らずに染み付いて行く事になる。昔からの友人知人とは疎遠になる。

神話論で言えば、上昇サイクルの最終局面、映画で言えばハッピーエンドのエンディングの辺りである(注2)。


○何かが物足りない、何か違うと思うようになり、孤独な独裁者になる。

しかし何かがおかしい。成功しても、思った程嬉しくはないのだ(注3)。
しかも、成功してハッピーリタイヤどころか、仕事はどんどん忙しくなる。

起業家なら、念願の株式上場を果たしたら、当初はそれでハッピーだと思って居たが、実際はそうでもない。
社員は中々成長しない。なんでこんな使えないんだろう(注4)。
自分の保有している株式を売却して現金にして南の島で引退生活でもしたいけど、自社株なんて売ろうものなら、株主からやる気無いのかと思われるし、ヘッジファンドに空売りの雨を浴びてしまうから出来ない(注5)。若造のアナリストやファンドマネジャーに、会社の事や自分の事等色々な事を根掘り葉掘り聞かれて鬱陶しい。

キャリアアップ会社員も同じだ。部下はさっぱり使えない。意識が低いんだよ意識が、等と思うようになる。
ボーナスは常に自分が思うよりも少ない。○億も会社に儲けさせてやってんのに、こんなに自分は会社に貢献してるのに、自分のボーナスはこれだけかよと(一般人からすれば十分な額を貰っていても)思うようになる(注3)。
引退しようにも、贅沢好きなカネのかかる異性・配偶者、私立に幼稚園だか小学校だかから通って週に何度も塾に通っている子供、都心の高価な家等、贅沢な生活が身に付いてしまっていて、入る方も多いんだがキャッシュの出る方も随分多いので中々引退出来ない。

そう、今さら分かった事だが、従業員は会社の従僕かも知れないが、自社を株式上場させた起業家は株主と資本市場の従僕になるのだ(経営者は、プリンシパルたる株主のエージェントであり、公開企業はパブリックカンパニーであり個人の持ち物では無くなる訳だから当たり前と言えば当たり前である)。キャリアアップセレブ会社員も、これで自由になれたかと思いきや、キャッシュアウトの負担も増えるからそうは行かない。「資本主義」と言う大きな仕組みに打ち勝ったかと思いきや、結局このシステムにがんじ絡めにされつつある自分に気づき始める。

Matrixを抜けた向こう側もまた、別の形のMatrixの世界に過ぎなかった。
不満が募って来る。

起業家にせよキャリアアップ会社員にせよ、夕食も仕事関係の会食等が多くなる。あるいは溜まるストレスや不満の解消のために、芸能人、アナウンサー、スチュワーデス等の「べたなセレブ合コン」が増えたり、あるいは銀座や六本木の高級クラブ等に出入りする事が増える(注6)。家族や彼女/彼氏と一緒に夕食を食べる機会が減るようになる。夕食に限らず、私生活が全体になおざりになって来る事が多い。

起業家もセレブ会社員も、話の内容に自慢話が増えて来る。政界や財界の大物との人脈自慢、大きな案件をまとめた等の自分の手腕や能力自慢等。しかし内心では、幾ら自分が成功者になっても「もっと上」「もっと金持ち」「もっと政界や財界の中枢の権力者」が居る事に焦りも感じ始める。どこまで行っても満足出来ず、自分を認められない。もっと上だ。前向きのようにも見えるが、実際の所は尊大であると同時に、どこまで行っても他人との優劣でものを考える思考であり何となく卑屈である。

ピークアウト、神話論の下方サイクルの開始である。


○公私ともに問題が噴出し始める。

そうしているうちに、公私ともに問題が実際に生じ始める。

仕事においては、起業家であれば、社長の周囲がイエスマンで固められる事になる。社長に批判的だがまっとうな事を言う重要な部下が耐えられなくなり離反を起こして一気に退職して業績が悪化し始めてしまったりする。あるいは社員が社長には良い顔をする一方で見えない所では社内の部下や同僚にセクハラ/パワハラをしていたりして企業文化の乱れが問題になって来たりするようにもなる。組織も中途半端に規模が大きくなり肥大化して来て、意思決定も遅くなりがちになってくる。競合他社が台頭して来たりする。セレブ会社員も同様で、部下が離反して次々辞めてしまったり、社内不倫等ついついしてしまい仕事への集中力が途切れて来たりするようになる(注7)。

私生活も荒み始める。パートナーや配偶者、家族が居る場合はまず何らかの形でそこに問題が出る。配偶者の浪費癖、夫婦関係の悪化、子供の病気等。不運な交通事故等に遭ったりする事もある。これらは全部仕事と密接不可分であり、何かがおかしい事への警告である。

その他、妻子持ちであっても独身であっても、セクシーで美人/美男子だが金目当ての品のない異性、その他出所の怪しい有象無象が、まるで電灯の光に集まって来る蛾(ガ)のように、周囲に集まって来る事になる。実際には蛾でも見た目は気品のある蝶のように振る舞って巧みに近寄って来るのが厄介である。そして思わず不倫してしまったり、付き合ってしまったり、明らかに怪しいのにビジネスで取引を始めてしまったりする。コンプレックスのあった成功者の成功前には、こんな美女(女性の成功者なら美男)とあれやこれやするのは夢だったし、儲けられれば手段は何でも良いのだと思ってやって来て自分は成功したのだと思っている。そう言う心の隙間を巧みに突かれてしまう。

自身の健康も蝕まれ始める事が少なくない。仕事も多忙でストレスを抱えて、高級レストランで油や脂肪分たっぷりの会食ばかり食べていれば当たり前である。玄米ご飯にみそ汁に煮物、みたいな質素な食生活からどんどん離れて行く。

そう言った有象無象の接近や色々な問題は、成功者の心の隙間、心のありようの問題を現実として具現化したものと言える。ある意味、(筆者は無宗教/無宗派で宗教に対しては完全に中立の立場である事は断っておくが)神様からの警告である。


○深刻な結果に終わる。

それでも警告も無視して突っ走ると、公私ともに深刻な結果を迎える事になる。深刻度合いは、恐らく金銭的な成功度合い、自身の心の隙間や未熟さをどの程度自覚できず受け入れられていないか、と言った所に比例するだろう。

仕事では、起業家であれば株価の破滅的な下落。会社の突然の破綻。粉飾、規制違反等で事件になる事もある。100億長者だったはずが、一瞬にして自社株は紙切れになる。ビジネスパートナーや取引先に騙され裏切られる等。セレブ会社員であれば、突然の解雇通告。リーマンショック後の証券化ビジネスのように自分の得意分野のビジネス自体が完全に無くなる。政治闘争に明け暮れた末最後にはしごを外され突然の左遷等。

私生活でも結婚関係の破綻、子供の非行や深刻な病気/事故、自身が大病を患う等、深刻な結果となる。

それまで友人だと思って居たセレブ仲間は次々と成功者の元を去って行く。
考えてみれば当たり前である。本人自身が、「意識の高い人、勝ち組あるいは勝ち組になりそうな人とだけ付き合って、愚痴の多い人や成功しそうにない人とは付き合わない」ようにしていたため、似たような人間を集めてしまっていたのである。成功者が成功者でなくなった途端、運気が下がり始めた途端、愚痴の一つでも言わないと耐えられないような状況になった途端に、皆去って行く。彼らは本当に辛い時に支えてくれるような「本当の友」ではなかった。自分が彼らにとっての「本当の友」ではなかったように。

そして孤独になる。

神話論で言えば、下降サイクルのクライマックス、死の局面と言える。酷い場合だと、上記のような不幸が祟って本当に亡くなってしまったり、自殺に至ってしまう事もある。注意が必要である。


○再生、あるいはもう少し救いのある資本主義との関わり方はあるのか。

何とも救いのない話を書いてしまったが、それにしても映画のMatrixは資本主義の仕組みについての題材、とっかかりのネタとして好適だなあと感じる筆者であった。

次回からは「再生」、「あるいはもう少し救いのある資本主義との関わり方」について書いてみようと思う。


(以下注釈)

(注1)何と言うか、文章にするだけで疲れるものである。勿論、何かを達成する際に目標を紙に書くと言うのは「思いの物質化・現実化」の第一歩であるし、ポジティブシンキングやポジティブワードも悪い事ではないし、こう言うノウハウも部分的にはその通りと言える部分、有益な面もある。

しかし、一般の成功本の良くない所は、これを金銭的成功にのみ当てはめる事にばかり腐心し過ぎていて、人生のもっと重要な事を捨象している点である。

言ってみれば、成功とは金銭的成功を指し、金銭的成功は幸せに繋がると言う事を何の疑問も断りもなく暗黙のうちに前提にしているのである。この前提をもとに、金持ちでない人は負け組で幸せにもなれない、私はあるノウハウをもとに金持ちになって成功した、だから私の言う通り成功を目指すのです、と言う論調ばかり前に出している点が問題なのである。そもそもこの前提が必ずしも(筆者の主観では間違いなく)正しくない。

また、一般の成功本の過半は、今回のブログで書いたような「成功の副作用」について触れていない。これは本当に問題だと思う。薬の効用の部分、あるいは投資商品で言えば、リターンの部分だけひたすらに誇大広告して、副作用や想定されるリスクの記載が無いとか隅っこに小さく書かれているようなものである。

ポジティブシンキング、ポジティブワード、その他各種セルフイメージ改善法や目標達成の技術と言うのは、言ってみればある種の自己への洗脳である。やり過ぎると副作用もあり、危険な面もある。

人間誰しも、辛い事や嫌な事が続けばため息が止まらない時だってあるし愚痴の一つも言いたくなるし、悲しい時だってある。そう言う際に、そう言う気持ちを無理に押し込めてポジティブ一色にしようとすると、軋みとと言うか問題が生じやすい。一回ちゃんとマイナスの感情も受け止め切って出し切る必要がある訳である。

本当の意味での「人生トータルの成功」について書いた本は、もっとバランスが取れている。次回以降で紹介したい。


(注2)人の人生も、往々にして神話論のサイクルに従う場合があるのである。あるいは、人生の典型的なありようを集約して、多くの人々にとりすとんと受け入れ易いストーリーに変換したのが神話とも言えるのではないかとも思われるので、人の人生が神話論のフレームワークにぴったり当てはまっている「ような気がする」とも言えるだろう(ある程度の人の意識による錯覚的な面もあるようには思う)。

これを利用すると、占い師のふりやカリスマ予言者のふりを出来たりするようになる。神田昌典氏辺りはこう言った効果を意図的に活用しているようにも見える。

筆者自身、最近余りしなくなったが、若かったアナリストの頃は背伸びしたくてあるいは実際の自分以上に自分を神秘的に大きく見せたくて、社長取材の前に有価証券報告書等で社長の生年月日を調べておいて、社長面談の際に、

「社長様は今まで物事がトントン拍子に進み過ぎていると思って居て、不安を感じてらっしゃる。そろそろ引退したいと思っている。社長様の誕生日がいついつで、それを基に運気の流れを判断すると、そう言った相が出ています。そうでしょう?」

と言ったような質問をした事がある。「その通りで驚いた」と言った返答をされたように記憶している。実際、神話論の基本的な知識に加え、以下に紹介する書籍辺りを読んで、後は普通にアナリストとして分析先の企業業績やプレスリリースを眺めて居ればそう思うんだろうなと言う事は分かる訳で、実際には種も仕掛けもない。

この辺の所は、以前に推奨した神話論の書籍に加えて、神田昌典氏の書いた以下の本が中々お勧めである。


新興市場や中小型株を手掛ける際は、経営者のクオリティ判断と言うのが非常に重要になるので、上記のような知識は参考になるだろう。


(注3)心理学的に、あるいは行動ファイナンス的に言えば、損失の際の苦痛>成功の際の喜び、なので、「成功したのに案外嬉しくない」と言うのは当たり前とも言える面はあるが、自分が当事者になると、「何かおかしい、成功したのに嬉しくない」と言う気分になるものである。

(注4)安月給で雇って居るのだから、大して優秀な人が集まらないのは当たり前だと言う場合は案外多いものだが、経営者本人はこれに気づいて居ない事が案外ある。

起業家は往々にして、過去にカネが無かったとか会社員時代にバカにされたとか異性にモテなかったとかのマイナスのパワー、コンプレックスをバネにして成功して来たケースが少なくない。自分が常にヒーローでありたいと言うような気持ちが強い事が多いのである。

このため、自分より優秀な社員がいると自分の過去のコンプレックスを掘り起こされる事になり、自分の立場が弱くなるのではないかと不安を感じたりするようになる事があるのである。結果、自分より優秀な社員に厚遇をする、と言う事が中々出来ない経営者は多いものである。

(注5)実際、「インサイダーの売り」と言うのは、ショートセリングをする時の定番キャタリストである。仕事でも目立たないように(と言っても最近は発行済株式数の0.25%以上ショートすると開示されると言うルールがあるので、大規模にやると目立ってしまうのは避けられないのだが)こう言う事をするのもまた、ヘッジファンドの仕事の一つである。

言ってみれば、成功のピークを過ぎて人生の歯車が狂ってしまって人生の休養が必要な経営者の会社にショートを浴びせて、それによって最後の引導を渡すと言うのは、ヘッジファンドの仕事の一つのように思う。狂った人生の歯車は、自分自身では中々止められないものだ。他人に強制的に止めてもらわないと。

とは言えあまり裁定者ぶって勢い良くショートすると、ショートは難しいし損する時は強烈にやられるので、下手するとショートセリングしているヘッジファンドの方が引導を渡される事も少なからずある。英雄気取りでショートセルをやるのも良くない。あくまで仕事としてやると言う話である。

空売りについては、以下の2冊が教材としては良いと思う。実際やると書籍のように美しくショートをキメられる事はそうそうないのだが、空売りについて学ぶと、買う際に企業を見る目も鋭くなるのでお勧めである。



(注6)新興市場の創業社長等が芸能人等と頻繁に合コンするようになったとか、銀座や六本木に頻繁に夜に出入りするようになったと言うような話を聞くようになったら、危険サインである。危険サインのまま株価も業績もスカイロケットのごとくしばらくは成長し続ける事も往々にしてあるのでこれだけで安易にショートセルするのも難しいが、少なくともその企業への投資はよした方がいいかもしれない。

(注7)ちなみにだが、ワンマン社長の男性の会社で、秘書がそれまでは縁の下の力持ち的な地味なオバチャンだったのが若い美人の秘書になっていたり、新設したIR担当役員やIR担当者の役職に美人がなっていたりする場合、社長と秘書やIR担当役員が社内不倫をしていて、それが社内の公然の秘密になっていて、社内の雰囲気に微妙な影(悪影響)を差している、と言った可能性は考えておいた方が良いし、社長自体も下降サイクルに既に入っているリスクは頭の片隅位には置いておいた方が良い。IR担当役員であれば海外IRツアー等も社長と同行させ易い。また、株価の上下はIRの巧拙だけで決まる訳ではないし、仕事ぶりの定量的な評価が難しい面があるので、実力のない人物でも適当な屁理屈を付けてIR担当役員に据えると言った事が可能である(営業、財務、技術等だとこうは行かない)。

とは言え、美人秘書や美人IR担当役員の弁護もしておくと、秘書やIRが美人だったら必ずしもこう言う話のかと言うとそう言う訳では勿論ない点は断っておく。美人だが普通に実力もありたまたま秘書をしているとか、美人がたまたま財務や経営企画に通じていてIR担当をしているに過ぎない場合も勿論ある。念のため。

ちなみに、上記のような点について、一個人としての筆者は、他人のプライバシーを詮索するつもりもないし他人の男女関係に興味はない。ただ、顧客の資産を職業人投資家として仕事で運用している立場では、投資先の社員の士気やひいては会社業績に悪影響を及ぼし得るような事を社長と幹部がして居るかもしれないと言う事であれば、それはリスクとして認識しておかなくてはならないと言う事に過ぎない。この点も念のため。

2 件のコメント:

  1. いち学生1/24/2010

    始めまして、楽しく拝見させていただいております、いち学生です。

    思わず質問したくなる題目でしたので、申し訳ありませんが、質問をさせて頂きます。文中の問題提起で、「資本主義のありようを理解」という箇所があります。これは、資本主義が善悪ではなく、たとえ自身の思想で悪であってもそれを必要悪であると妥協し、資本主義を受け入れる事だと思っています。この事に関する示唆は、現在の世界の大多数が資本主義とは素晴しいものだという確信(狂信)を持っている事になります。 
     序章が長くなりました。ここからが質問です。それは、「今日の狂信的な資本主義信奉に基づく価値観」(例えば、いい車に乗っていいスーツをきていい女と付き合ってなどというベタな事です。そんな品がない事はしないよ、と言われそうですが、言動と行動にずれがある人が多いように思います)は、50年後変わらないのでしょうか?

    こんな事を考え始めたのは、去年、マーケットがクラッシュして就職活動をして、現在の世界での共通の価値観、について考える事がありました。それは、アメリカが作った資本主義という思想です。アメリカへの移民達がゼロから軍事・金融で世界のトップにたったのですから、これは素晴しい業績だと思います。が、倫理観はどうでしょう。僕はアメリカ人でも無ければ、アメリカに住んだこともないので現状を目の当たりにした事がないので断定できませんが、米金融機関のトップ(JPモルガンを除く)に人の道を説く倫理観があるだろうか?その様な人が自ら救った資本主義という思想を変更させるだろうか。元々、社会のルールなんで、既得権益の強者が自身に都合のよいルールなのだから、現在の世界での共通の価値観が変わる気がしないのです。その価値観を変えようとする市民運動なんて日本には皆無ですし、海外メディアをみてもその様な反応はない。皆、現在の世界での共通の価値観に違和感があっても、それを必要悪だと妥協するのではないか。なぜなら、妥協をして努力すればそれなりの生活が遅れるから。この辺が、ルールを作った強者の上手いところであります。

    改めて、世界の共通価値観は変わるのかという質問をさせて頂きます。長々と失礼致しました。

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  2. コメント有り難うございます。

    端的に言えば、50年あれば、世界の価値観が変わる事も十分あり得るのではないでしょうか。

    試しに50年前、1960年と今を比較してみましょう。日本は池田内閣による所得倍増計画辺りです。東京オリンピックが1964年です。この頃高学歴の学生が就職活動で目指すエリート職と言えば、官僚、銀行、鉄鋼や化学等の重厚長大産業系でした。水俣病等の公害が丁度社会問題になり始めた頃です。

    個別企業で言えば、例えば東京通信工業が設立されたのが1946年、社名を変えてソニーになり上場したのが1958年。1960年当時は未だウォークマンも出ていません。やっと町工場が上場を果たしたと言った段階で、当時は「真面目なる技術者の技能を最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」のビジョンを体現した元気な新興企業だったはずです。

    1960年の当時は、これから成長すると言う段階でした。バブルもその崩壊も、銀行の護送船団方式の問題も都銀再編も、年功序列の弊害もその解体も中途半端な実力主義への以降による問題も、民主党が政権を取る事も、インターネットの普及も、厚さ数センチの壁掛けテレビ(今の液晶テレビは未来予想図のSFの話だったのではないでしょうか)も、当時の人達からしたら想像すら付かなかったと思います。日本の資本主義のありようも、今とはだいぶ違いました。

    50年と言うと、その位長い時間です。今のオバマ政権が投資銀行の自己勘定投資やヘッジファンド投資を規制して解体出来るとは思いません(暗殺されない事を祈るばかりです)が、50年後には投資銀行も全く違う姿になっているかも知れません。実際、リーマンブラザーズが無くなると言う事は50年前からすると想像もつかない話だったと思います。

    ではどう言う過程を辿って変化しうるのか?と言うと、筆者には全く想像も付かない、としか答えられません。この仕事をしていて思うのは、1年先の相場や経済状態の予想も、ハッキリ言って当たらないと言う事です。色んなシナリオを組み立てておいて心の準備をしておく事は大事ですが、マーケットであるとか、あるいは人の歴史と言うのはカオスの事柄です。世界の片隅の蝶の羽ばたきが後に台風になる、と言った事柄なので、50年先となると全く読めません。

    現在では盤石に思える既得権益も、50年もあれば変化し得ます。例えば50年前は石油の権益はオイルメジャーが完全に握っていてイスラム圏諸国は恩恵を受け難い状況でしたが、今やイスラム諸国の発言力はこの50年でだいぶ強くなりました。石油の権益は、今では税率が7割等の超高率の税金が課されてまず産油国が利益を持って行き、残りの利益を石油開発会社が貰う仕組みになっています(1605国際石油開発帝石の財務分析をしてみて頂ければわかります)。50年後に代替エネルギーが中心になった時には、石油権益なんて大昔の話になっているかも知れません。

    一方で、今の時代、Google辺りのパワーは強烈なのではないでしょうか。皆が主体的に情報検索しているつもりでも、実はGoogleが結果をコントロールしたり追跡したりし得る、と言うのは凄い事です(思想の操作等も可能です)。実際、米中の政治の話にまで入り込んでいる所を見ると、善し悪しは別として新たなパワフルな主体になりつつある事を感じます。

    また、上記ブログの内容の通り、マネーと権力を確保している「既得権益の勝者」も、純粋にそれでハッピー・大団円で、そこが均衡点になるかと言うと、そう言う訳でも無いと言う事は言えると思います。スターウォーズのダースベイダーのように、いつでもヒーローはアンチヒーローに転落し得るし、頂点からどん底に落ち得ます。この世はマネーの世界も祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きありです。

    以上、どう言う過程を経て変化するかは予測不可能だが、過去の50年と今を比べた所で行けば、当時既得権益として盤石だった勢力が衰退したり、思いもよらない勢力が台頭したりして来たと言う実績を考えれば、50年もあれば今の価値観は相当変わり得るのではないか、と言う結論です。如何でしょうか。

    また、今日の資本主義が狂信的かどうかについては筆者の回答する所ではありませんが、資本主義についての新しい価値観の「萌芽」はあると思いますので、後々ブログでご紹介するかも知れません。

    蛇足ですが、JPモルガンに倫理観があり、他にない、と言う事は無いです。金融史等勉強すると、かのJ.P.モルガン卿が非常に徳があり金融危機時にはリーダーシップを取って崩壊を救った、寄付や財団を通じた社会貢献活動も盛んだった、と言うような記載もありその事を指していらっしゃるのかも知れませんが、それは一面を描いたに過ぎません(上手い金融家は、こう言う世俗の評判と金儲けのバランスを取るのも上手いとも言えます)。投資銀行と言えば、善し悪しは別として、どこも倫理観についての考え方には大差無いのではなかろうかと言うのが実際の所と思います。

    回答は以上です。就職活動、あるいはこれから社会人になられるのでしょうか。寒い時期が続きますが、お体ご自愛されて、ご活躍される事を心より祈念します。

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