2010年3月26日金曜日

書評:35歳の教科書

(出所:35歳の教科書 藤原和博著

いやあ、良い本である。
筆者の年代がばれてしまいそうだが、まあそれはいいとして。

「拝啓、終電帰りのビジネスパーソン様。35歳からは、ただ頑張っても報われません。サービス残業をしても、給料は上がりません。ポジティブシンキングだけでは、乗り切れません。そんな今こそ、あなたと家族がつくる人生が始まるのです。」

この帯の内容からして良い。その通りである。
本の内容も、まあ実際文章として読んでみると至極当たり前の内容なのだが、落ち着いた口調と視点で非常に納得感がある内容。35歳と言わず、就職活動の学生や、若い社会人が見ても価値のある内容と思う。幾つか内容を紹介しておく。

・「成長社会から成熟社会へ」

本書の価値観として一貫しているのは、「成長社会から成熟社会へ」「成熟社会における幸せなライフスタイルとは何かについて考える」と言う視点である。

つまり、戦後〜高度経済成長期の頃は、”正解”が比較的明確だった。貧乏から先進国へ、貧しい状態から物質的に豊かになるために皆一丸となれば良かった。言ってみれば、「戦後からの脱却のために一丸となって頑張ろう教」とでも言える宗教的な価値観の拠り所があり、各個人が幸せとは何ぞや等と深く考える必要が無かった。実際、家電が登場する事で主婦の睡眠時間は増え、社会的進出も可能になり、車やクーラーやマイホームを買う事で便利な生活になったし、敗戦国から一気に先進国にまで持って行った先人の貢献は大きい。この中では、皆一生懸命勉強して、良い大学を目指し、官僚や一流企業に勤め、会社のために身を粉にして働けば、生活水準も上がりそれなりに幸福感を感じる事が出来た世代だった。これが成長社会。今の中国位である。

しかし、今や物質的な面では満たされ、経済的な成長期も終わりGDPの成長率も鈍化し、一流企業の不況期のリストラに代表されるように年功序列終身雇用も崩れ、上記のような価値観の拠り所は既に崩壊した。このブログにも再三書いているが、ある程度の「お金」必要だが、マネーを最大化すれば幸せになる訳でもない(注1)。こう言った成熟社会においては、社会から与えられた価値観や正解と言うものが無いため、各個人が自分で自分なりの「納得解」を探さないといけない事になる。これが成熟社会。

こう言った時代背景、経済背景を前提として、仕事の事、プライベートの事、元中学校校長だった事もあるので教育の事等について色々書いてある。全体として非常に納得感のある内容である。


・完璧主義より修正主義

「成熟社会」のような、全体としての成長が小さく、しかも「戦後の脱却」「所得倍増計画」と言ったスローガンあるいは宗教の教義のような価値観の拠り所を国や社会から与えて貰えないような状況で、その上変化が非常に激しい社会においては、「完璧で理想のベストなゴール」を計画してそれに向けて邁進すると言うのは現実的ではない。また、計画だけ壮大になって前に進めないと言う事も往々にして起きる。とにかく目の前の事に集中し、小刻みにどんどん動き、刻々と変化する状況に合わせて改善し、走りながら「ベター」「納得解」を考えるのも良かろう、と言った話である。筆者個人の状況を照らして言えば、相場で運用をしていると非常に納得感のある考え方でもある。


・「10代集中、20代夢中、30代五里霧中」+40代以降でやりたい事やライフスタイルの実現。

つまり、10代はスポーツでも芸術でも何でもいいからとにかく一つの事に集中する事を覚えろ。これが全ての基礎体力になるし、「社会人になってから集中する事を学びました」と言う人は見た事がない(注2)。20代は突っ走るのもいい。余り早くにライフワークバランスとか言い始めるより、とにかく目の前の仕事に夢中になって、自分はこれが出来ると言う分野を確立するといい。30代は、20代に確立した自分の能力を使って、40代以降何がしたいのかと言う事を試行錯誤で考えていいし、40代以降への布石を打っておく年代。

自身がリアルタイムで30代だと、中々こう言った大所高所から眺めた指針が出ないし周囲に相談しても中々解が出ないので悩むものだが、既に50代で落ち着いているシニアからこう言うアドバイスを1000円に満たない額で貰えると言うのは非常に助かった。

中々30代たる筆者が一人で考えて居るだけでは煮詰まる面もあり、「30代は、今まで自分が身につけて来た技能や能力を元にして自分は中年〜壮年になって行く中で何がやりたいのか、試行錯誤していいんだ」と言う感覚には至るのが大変なものである。確かに、何の技能も無く、社会の酸いや甘いを知らなかった学生の頃に試行錯誤するのと、ある程度技能や能力の軸が出来ている今に試行錯誤するのとでは、また違った趣、違う地平を見ている中で試行錯誤出来ると言う面はある。こう言う事を言ってくれるシニアは本当に有り難いと思う。自分も20代や10代の人達に何を伝えられるだろうか、と言うのはブログを書きながら、色々物思う昨今である。


、、、そんな訳で、書籍はお勧めである。冒頭の本のカバー下の出所をクリックすれば、Amazonにリンクするようにしてある。ご興味のある方は、ぜひご一読を。


(注1)そう言う意味では、このご時世においてもひたすらマネーの最大化をすればゴールだ、年功序列終身雇用の崩壊に年金危機で脅威がある、起業したり投資したり会社を利用したりして「成功者」になればいいのだ、二極化の勝ち組になればいいのだ、と言った側面をひたすらに強調する考え方と言うのは、言ってみれば「成長社会」時代の残骸のようなもののようにも思う。つまり旧来の拠って立つ価値観が崩壊してしまった中で何とか安易にしがみつく偶像が必要な中で生まれた、偶像崇拝的な価値観のようにも思われるのである。思考のありようとしては前時代的、あるいは成長社会と成熟社会の移行期に生まれたあだ花的価値観のようにも思う。

こう言う偶像崇拝は、確かに自分で深く自分の事を自分なりに考えなくて良いので楽ではあるのだが、時代背景と合っていない思考で突っ走ってしまうと往々にして「資本主義Matrix」にハマってしまい、Matrixの向こうはまた別の資本主義Matrixで、変な不幸も次々起きて来て、どこまで走れば良いのやらと言う事になる。

そう言うのはもうやめにしませんか?今回紹介した書籍の通り、成熟社会における自分だけの生き方、自分なりの幸せに着地点と言うのを一緒に探しませんか?金融や経済面やキャリアアップのアーリーステージ(20代位の間)を堅実に乗り切るための知識的サポートは出来ますのでご参考願います。こう言う辺りが、筆者の提案であろうか。

結局の所、面倒くさいが、自分なりに行動して、修正して、走りながらもうんうん考えて、自分なりの価値観を確立する、と言うプロセスが必要なのである。実際、今回紹介した本でも、教育では「暗記して正解に至る力」よりも、「既存の価値観を疑ってみたり、その中で自分なりの考え方を確立する、考える力」が大事だ、と言う事を書いてあった。確かにそうだと思う。こう言うブログを書く中で、一人二人でも良いので、「自分で考える」「自分なりの幸せ、着地点、価値観を見いだす」と言うプロセスの参考になった、と言う人が出てくれれば、筆者としても嬉しい。

(注2)こう言う事情があるので、金融業界の採用においても、金融工学専攻で〜とか会計学専攻で〜等と言う話は言ってみればどうでもいい話で、分野は何でもいいから何かに集中して打ち込んだ経験の有無が問われるのである。就職活動中の学生さん等に関しては、参考にされると良いのではないかと思う。

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