2010年5月12日水曜日

紙ナプキンで一筆書きのプレゼン、セクターローテーション、諸々



彼は店員さんに、紙ナプキンと筆記用具を貸して貰った。プレゼンの下書きからだ。まずはタイトルを簡単に書き込む。ブルーシールドキャピタルと言う名前なので、取り敢えず青が基調だ。

「おおっ、パワーポイントを意識してるもしかして?ムダに何かそれっぽいっ!しかも勝手に、ワタシが言った通りのハイパーインフレーテッドな大仰なタイトルが図々しくもキミに付いてるでわないかっ!でかしたぞキミ!」

お褒めのお言葉、有り難く頂戴します姫様。彼はうやうやしく答えた。

「ワタシ学生時代には論文の発表とかでプレゼンしてたけどそれ以来で、ずーっとプロップだったからさ、この10年、外向けにプレゼン作ったりってあんまやってないんだよ。キミ、もしかしてパワポ得意?」

まあソコソコだ。運用やアナリストしながら顧客対応とかコンサル対応もしてたから、こう言う粗品を作るのは結構慣れている。いつでも頼んで欲しい。

「あともしかしてキミ、形から入るタイプ?例えばスポーツやるぞーって時、まずジョギングウェアと靴をいいやつ買って運動しないっぱなしとか。家でDVD観る時とか、独りの時でもテレビの前のリビングテーブルにDVD、お酒、グラス、軽食、とか完全に準備して”おし、完璧な週末だ”とか独り言言ってソファでニヤニヤしてるタイプだ。プレゼンは必要な時、また頼んじゃおっかなぁ。」

スポーツとDVDの話が余りに図星だったので彼は一瞬言葉を失ったが、彼は余りに完璧に映る彼女に対して何かしら貢献可能な分野があった事を喜んだ。物事は概念をこうして形にする事から始まるのではないかと思うんだ。彼は次のスライドの絵を書きながら彼女に応じた。

「おお、セクターローテーションね。ジム・クレーマーの。彼のReal Moneyは良く出来た本だよねぇ。まあお約束と言えばお約束だけど、ファンダメンタルベースの株式ロングショートやるなら、大事な基本よね。」

その通りだ。彼は説明を始めた。セクターローテーションを日本で適用するとこうなる。日本の場合、日本株自体を海外景気センシティブな景気敏感株みたいな感じで捉える必要がある。
まずグローバルで不況になったりなんかして金融緩和がなされる。そのうち海外景気の回復で生産稼働が上がるので、輸出関連株が戻る。それに遅行して設備投資が回復する。実際には設備投資関連の株価は輸出関連株とほぼ一致して上がり始める事も多いように思うけど。
そして輸出と投資が戻ったら、雇用回復や賞与の回復等が伴って来て消費が戻るからそろそろ内需。百貨店とか小売関連は、パッと見月次とかまだボロボロで証券会社が悲観的なレポート書いていてもこの頃には買っておかないといけない。あとユニクロやニトリみたいなデフレ関連銘柄はこの頃には「不況耐性が強い」とか言われて評価され切ってるから外さないといけない。景気の終わりの方はインフレ期待入るからコモディティ関連なんかもいい。日本企業では商社なんかがある。
でもって最後にディフェンシブで、景気後退。またユニクロやニトリや100円ショップの時代と。
キミも指摘してくれた通り、日本株には上昇トレンドが無くてシクリカルだから、まずはこう言う循環を短期間でキチッと捉える必要があると思う。まあ、市場参加者はこの位は皆意識している戦略だから、これ自体でそんなに儲けられるとは思って居ないけど、平常時の定番、基本動作。こう言うトップダウンのビューを持ちながら、住宅着工や小売の月次等の統計をチェックしたり、個別企業の取材をして行ったり、上からと下からのサンドイッチで景気とマーケットの全体感を掴んで、それに乗る。
後は株価自体を指標にしたりするのもいい。例えば米国のティファニーなんかの株価が上がり始めていれば、米国の小売は戻って来ていると考えて良いし、だとすれば日本から米国への輸出も勿論戻るねとかそう言う考え方が出来る。
アナリストと言っても僕はジェネラリストで、特定の業界に非常に詳しいとかは無いし、結構トップダウンビューが混じっているけど、これが僕の基本だった。中央銀行の金融政策なんかをキチンと観ているのは債券の人だけじゃなくて株式運用屋にも重要と思う。マクロ経済を全く知らないで、「ピュアボトムアップだから」とか言っているアナリストやファンドマネジャーを、僕は信用していない。
それにしてもキミにこう言う事喋ってると、釈迦に説法だしもの凄い気弱で不安になるよ、何だか。彼は最後に不安を吐露した。

「まあそう不安がらずにさ、気を楽に楽に。多くを期待されてないんだから、ちょっと気の利いたアイデア出せれば全部加点法、ポジティブサプライズなんだしキミは。」

左様ですか、了解。彼女は極めて優しいんだが、一方で時折言う事がみもふたもない。

「そうねぇ、大切なポイントとしては、別に完全オリジナルの投資ストラテジーである必要はないって事。芸術だって科学だって、過去の膨大な蓄積に、ほんのちょっと新しい事を乗せる、みたいな発明は多いものよ。だからまずはジム・クレイマーでも誰でも、パクりも良いんじゃないかな。基本動作として適切だとも思う。」

まあそんな所だろうと思う。

「後はワタシとのコンビの組み方としてもフィットしてるやり方かも知れないね。日本株の運用で、キミ以外にアナリストとかセクタースペシャリストとか色々配置する事は予算配分上、ワタシは考えていない。さっき言った通り、キミは一人SOHOオフィスでお留守番か、せいぜいセクレタリのパートのおばちゃん一人位は雇おうみたいな話になると思う。だから、”低予算対応モード”なのも良いと思う。これなら"一人SOHOお留守番オフィス"でも何とかやれそうだよね。トップダウンである程度調査対象を絞ってしまえば良い訳だから。」

確かに、過去の彼のキャリアでは、大手の運用会社にあるような重厚なリサーチインフラを使える事に慣れてしまわないようには気をつけてはいた。Valuation Modelや財務データやスクリーニングのツール等も、大手だと社内でデータベースやテンプレートがあったりするものだが、可能な限りグローバル共通のプラットフォームであるBloombergと後はエクセルさえあれば大丈夫なようにしていたし、「限りなく少ないリソースでも調査から運用まで完結出来る」と言う事は彼はかなり意識していた(注2)。彼女の返事を聞いて、取り敢えず彼は安堵した。

「じゃ、セクターはこんな感じで回すとして、後は後は?例えば月並みだけど、時価総額別とか、バリューとかグロースとかに関するキミの考え方をおさらいしておきたいな。」

彼女の「運用力把握テスト」はまだまだ続く・・・。


(以下、注釈)

(注)ジム・クレーマーの書籍は以下。多くのかたにお勧めしたい。


(注2)職種は一緒、会社は転々とする「ファイナンス/インベストメント傭兵」のささやかな知恵ではある。学生さんや、若いプロフェッショナルの読者諸兄様におかれましては、ご参考までに。

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