2010年8月9日月曜日

ファイヤー!の際にどうする:解雇の危機管理法。

友人から、上記の件でアドバイスを求められたので、これを機に記載しておこうと思う。あくまでシロウトによるシロウト的な解説に過ぎないが、法律にそんなに詳しくない一般の会社員が、どうやって会社側の退職勧奨や解雇通告の際に身を守る事が可能かの参考にして頂ければと思う。


○まず、日本の法律では会社が従業員をクビにするのは容易では無いと言う事を知っておく事が重要。

まず、日本の法律では会社が従業員をクビにするのは容易では無いと言う事を知っておく事が重要である。これは外資系企業でも日本で業務を行っている限りは同じである。

外資系金融等で、ある日突然上司に呼び出されて「お前は今この時点を持ってファイヤーだ、社員証もカードキーも全部没収、デスクの私物は宅配で自宅に届けるから、貴君は即刻出て行きたまえ」とか言われて出て行く絵があったりするが、事はそんなに簡単ではないのである。同業者でもここで泣き寝入りして2−3ヶ月の寂しいパッケージ(注)を手に素直に去ってしまう者が少なくないが、一踏ん張りするだけでパッケージ2−3ヶ月が6−12ヶ月位に変わったりし得る。

この点を知っているかどうかだけで、かなり帰趨を分ける事になる。転職活動をじっくりやれるかどうかと言うのは、物理的にも精神的にも大きな安心の差になる。覚えておこう。


○退職勧奨に対して、安易に「ハイ」と言わない事。

上記に関連して、解雇通告や退職勧奨に対して、安易に「ハイ」と言わない事が非常に重要である。ハイと言ってしまったら、自分の意志で自己都合で退職と言う事になってしまいかねない。

上記の通り、日本の労働基準法では、労働者が「ハイ、退職します」とさえ言わなければ、解雇勧告や退職勧奨において、労働者は企業に対して比較的優位な立場にある。この点絶対に覚えておこう。早く辞めないのかね等等と色々言われて困ったら、「その点については即座には答えかねます。」「持ち帰らせて検討させて頂きたい。」等と言って考える時間を作ろう。


○自分の業績を示す事が出来るように常にしておこう。

会社側が解雇の際に従業員にされて一番困るのが、「解雇の有効性について裁判で争われる事」である。これも暗記しておこう。

つまり、従業員が「解雇の有効性」について裁判で争う事にした場合、会社側が解雇の理由を説明する責任がある側と言う事になるのである。

この際、単に業績悪化、と言うだけでは理由にはならない。つまり、「会社側は業績悪化が解雇の理由なら業績悪化を食い止める手だてを、人に手を付ける前に可能な限り打ったのか」「それでもどうしても止むに止まれないから解雇なのか」「解雇する人の人選をどうやって決めたのか、フェアに決めたのか」と言った事を示す必要があると言う事である。

従って、「解雇する理由が不条理ではないですか、アンフェアではないんですか、自分が解雇になる理由はないのではないんですか」と言う事を示す事が出来る資料を手許に持っておくと、仮に裁判まで持って行かないにしても、裁判まで行った場合に企業側が不利になると言う事で、翻って従業員側は明らかに有利になる。例えば、過去に自分の働きで獲得する事が出来た案件、収益等の貢献を常に示せるようにしておく事は、自己防衛の役に立つだろう。裁判まで持って行かないにしても、企業側からまっとうなパッケージ等の条件を引き出し易くなる。

また、会社側が解雇をする一方で、その前後に人を雇ったり経費を増やしたりしている場合、「業績悪化の対策、コスト削減を人に手を付ける前に可能な限りやったとは言えない」可能性がある。会社の旗色が悪くなっていて、解雇の可能性がありそうな場合は、こう言う事は事前に調べておこう。日本の法律では、単純に従業員が政治上気に食わないからとか、もっと優秀な人採用すれば良いやとか言った理由では簡単には従業員を解雇出来ない。出来る限り経費を切り詰めたりして、それでも止むに止まれない、と言う場合でないと安易に人に手を付けてクビを切る事は出来ないようになっている、と言う点を覚えておこう。

こう言った点について知っておくと、交渉する際便利である。


○就業規則はプリントアウトして手許に持っておこう。

就業規則に違反していないのに解雇するんですか、と言う際にも使えるし、退職金規程等は知っておいた方が良い。プリントアウトして手許に持っておく事をお勧めする。


○常に電話出来る弁護士の先生を一人確保しておく事。

これはてきめんである。解雇勧告で即刻出て行けと言われた際には、「即断で返答は致しかねます。知人の弁護士に電話させて貰います。」と言って携帯で電話したりすれば、会社側も変な事はしづらくなる。別に大手の弁護士事務所の労働関係法規が専門の高名な先生である必要はない。それよりも学生時代の知人とか、身近な先生の方が頼りになる面もある。出てもらえなかった場合も留守番電話に入れておけばいい。解雇勧告の場合はスピード勝負である。特に雇用者側が強硬な手段に出て来た場合は、その場で「こちらも泣き寝入りしませんよ」と言う事を雇用者側に示しておく必要がある。


○残念ながら退職金は法律で無条件に貰える訳では無い。

今までは従業員に有利な点を記載して来たが、従業員側にとり懸念点も勿論ある。例えば残念ながら退職金は法律で無条件に貰える訳では無い。この点は要注意である。会社の規則で退職金規程等が有る際はそれに沿った退職金を請求する事は出来るが、法律上無条件に退職金が貰える訳ではない。無闇に弁護士を使って訴訟に持って行けば良いと言う訳ではないし、金額交渉を強気にやり過ぎても問題になる場合がある。この辺は「落とし所」をよく考える必要がある。2−3ヶ月分の給与のパッケージと言うのは「従業員側の泣き寝入り」に近い感じがするが、さりとて今のご時世で給与1年分以上のパッケージを狙うのは(会社側に相当の落ち度や不条理さでもない限りは)中々に大変かもしれない。裁判に期間も費用もかかる事も考えれば、自ずと退職金の金額の「落とし所」と言うのがある事になる。


○まとめ

上記の諸々を踏まえて、解雇される側にとって有効な戦略なのは、「解雇の有効性について争い得る事、法律の専門家のリソースを直ぐに使える状況に居る事をちらつかせながら、可能な限り良好なパッケージ、退職金等の条件を引き出す」と言った所である。

実際に裁判まで持って行くのは企業側、従業員側双方にとり金銭面、労力面、レピュテーション悪化の面でも利益にはならない。従業員としての権利をキチンと主張し、伝家の宝刀をちらつかせつつも抜かず、企業側に従業員にも権利がある事について理解頂くと共に誠意ある対応を促し、着地点・落とし所を見出す、位の交渉をする事が重要である。

但し、企業側がこの辺で足もとを見て来て、「訴えたらキミの経歴に傷がつくよ、先がないよ」と言った具合にいやらしい形で懐柔して来た場合は悪質である。こう言った場合は要注意である。

こう言った場合は、毅然と振る舞おう。「それは脅迫でありましょうか(裁判になった場合にそう捉えられますよ、と暗に伝える意味でこの一言は有効である)。」「自分の経歴やキャリアは自分の判断で決めるものですから、貴君にそう言った事を言われる筋合いはございません。企業側の誠実な話し合いと対応をお願いしたいし、それが無い場合はこちらも専門家と話し合いの上、対応を考えさせて頂きます。」と言って突っぱねよう。

結論としては、泣き寝入りをするのもよくないし、さりとてギャーギャー喚いて「訴えてやる!」等と騒ぎ回ったり、法外な金額を請求したりするのも従業員にとっても損である。不当解雇の類いで訴訟すると言うのは、本当に我慢ならない位企業の対応が不誠実で、従業員側がキャリアを捨ててでも戦う事を厭わない場合の最後の手段である。会社相手に訴訟を起こした従業員に対して、企業社会は冷たい。次のキャリアを考えた場合、訴訟までは持って行かない方が良い。

とは言え、一方で企業側も従業員から訴訟を起こされると言うのはレピュテーション悪化等の多大なリスクを伴うので訴訟は嫌な訳である。企業側とて、解雇すると言うのは引け目は多少はあるし、ちょっと多い支払額で従業員側に穏便に納得して貰えて手打ちで済むならそうしたい訳である。

そんな訳で、結果としてある程度の交渉の「落とし所」と言うのがある。ここはアメリカではない。何でも訴訟すれば良いと言う訳ではない。この辺の双方の利害を慎重に吟味しながら、企業側の脅しや一方的な懐柔策に対しては毅然と振る舞い泣き寝入りはしないように心がける一方で、出来る限り訴訟しないで話し合いで落とし所を見つけて現実的な解決を図るならそれが一番双方にとって良い、と言う姿勢は重要である。

後ろ向きな事で戦い続けるのは双方疲弊して良くないものだ。双方納得いく形で、大人の話し合いでもって気分良く撤収作業をして、次の前向きな一歩を踏み出せるようにしたいものである。

ちなみに、筆者は法律の専門家ではない。上記は、「シロウトだがこの手の事柄の経験者による、街角なり飲み屋なりで悩み相談された際のアドバイスのレベル」の話であり、詳細については、弁護士等の法律の専門家の指示を仰いで頂きたい。この文章について、筆者はいかなる責任も負わない。この点留意頂きたい。


○その他参考サイト

以下のサイトの、「金融転職市場の創設」に関わる法律問題の研究、と言う所が非常に参考になる。


それにしても公私一巡り経験して、随分この手の話への経験値が付いてしまい、期せずして多少逞しくなってしまった(苦笑)。読者の皆様においては、こう言った「しなくても良い経験」はしないで済むに越した事はないし、そう言った経験をしないで済む事を心から祈っている。とは言え、昨今離婚やら解雇やらも増えていると思われるので、関わらざるを得ないかた(得なくなりそうなかた)には、以上、ご参考まで。


(注釈)

(注)パッケージも昔は年収の1年とか1.5年とか豪勢に出ていたため、外資系金融の東京法人閉鎖等に連続して当たった場合、「パッケージ長者」になれる者も居た。しかし昨今はパッケージもだいぶシャビーで、こちらが何も言わなければ大体2−3ヶ月の寂しいパッケージを手にしておしまい、と言う事が過半のようである。しかし、2ヶ月で次の仕事探せと言うのも中々無茶な話だし、これではさすがに従業員が従業員としての権利を知らずに泣き寝入りしている感は否めない。気をつけたい。

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