2010年8月16日月曜日

経済財政白書より その2:消費について

引き続き経済財政白書より。今回は消費について。

○足もとの消費動向:回復中。

ちょっと観づらいが、GDP増加寄与の過半は輸出だが、ちょこっと消費も貢献している。
エコポイントとか、自動車買い替え促進とか、住宅エコとか、色々やった事で耐久財を中心に回復した、と。今後も子育て手当とかするよ、と。ここまでしてやっと上記の寄与なので、安心は出来ない。
住宅取得能力については改善傾向。一戸建てやマンンションの着工回復等にも現れていると思う。この点はポジティブ。
雇用環境も明るい萌しも見えて来た。

以上まとめると、足もとでは各種の政策発動の甲斐もあり、消費は回復傾向である。


○中長期的な家計消費の分析。

セクターローテーションで最初輸出株で、後に設備投資や消費関連株、と言うのはこう言う根拠がきちんとある。時によってタイミングは多少異なるが、最初輸出が回復して、後に稼働率の改善や賃金回復と共に景気回復の中盤から後半戦で設備投資や家計消費が回復するのである。

下段のグラフでは、可処分所得はそんなに増えてなくて、消費性向の上昇で消費が回復している事が分かる。消費性向を上げる(=貯蓄出来る分を減らす)状態で消費回復し続けるには限界がある。もっと力強い消費回復には、やはり所得自体の回復が必要なのだ。

雇用者報酬と個人消費の相関は、上段左のグラフでも明らか。
ところがどっこい、日本は上段左のグラフの一番左下、つまり所得も増えていなくて従って消費もそんなに増えていない側に居る。

理由としては、下段左の人口動態と個人消費が示唆している。やはり消費のピークは家を買ったり子供の教育にカネを使ったりする中年〜壮年位だ。高齢者人口の比率が高くなると、消費も段々「枯れたものに」なるのかも知れない。

上段左は、企業業績が(大概は輸出増大で)まずは回復して、それに遅行して雇用者報酬が増える事を示している。株のセクターローテーションの極めて重要な基礎をなしている考え方、データなのでこれはきっちり覚えておいて欲しい。

上段右は、そうは言っても近年、労働分配率が景気回復しても減少している事を示している。詰まる所、業績が回復しても従業員には分け前はなく、スルーしてしまっていると言う事である。これでは日本の従業員は韓国人みたいにガツガツ働けない訳である。

上段左の図は中々面白い。60歳以上の個人消費押し上げ寄与度は安定してプラスである。これは高齢者人口が増えているからそう言う面もあるだろう。そして、35−59歳の中年から壮年の消費は景気に極めて敏感である事が分かる。更には、34歳以下の世帯はほぼ一貫してマイナス寄与度である。若年人口が減っている事もあるだろうが、「草食男子」に代表されるように、以前程若者が消費をしなくなっている事も少なからず影響しているだろう。まあ、親は家庭も顧みずに仕事人間で働いた挙げ句リストラとかされてがっくり来ている様を子供の側から見させられて来て、ポストバブル世代で就職活動も厳しくて、働いても給料増えなくて、みたいな状況だと、それは世代的に「草食」になるのも無理はないようにも思う。

また、消費性向上昇は、貯蓄を取り崩す高齢者世帯の増加が寄与しているようである。高齢者が貯蓄を取り崩して行って、銀行が国債に投資出来なくなった時、日本の金利は急上昇するだろう。まあ、短期的な話ではないけれども。
上段のグラフについて。高齢無職世帯が貯蓄を取り崩さずに消費が可能なのは、なぜなのだろうか。貯蓄の多少に関わらず同様だと言う事は、金利収入で生活出来ている訳ではなかろう。年金が十分多いからかも知れない。

国の財政の観点で言えば、今後はこの部分は削らざるを得ないだろう。高齢者には貯蓄を取り崩して消費してもらわないといけない。その際は銀行預金を通じた国債買い支え資金も減るが、年金支出が減ればある程度はオフセット出来る。

つまり、今まで、あるいは現状の所は国が国債と言う形で借金をして高齢者に年金を与えて、そのお金を高齢者が消費に回していて貯蓄は温存されており、高齢者の貯金で国債を買い支える、と言う絵の訳だ。これを、今後は国が借金を減らし、高齢者に与える年金も減らし、消費は高齢者の貯金の取り崩しでした支えしながら経済減退を防ぎ、と言った方向になるのではと言う事である。この場合、国債買い支え資金になっている高齢者の銀行預金も漸減するため、銀行預金が国債買い支えに回る分も減りはする。翻って長期金利急上昇のリスクもある。しかし、一方で国家債務の削減による格付け始めとした国債への評価改善が為されてくれば、いい具合にこれがクッションになってショック的な金利の動きが出ないように出来る(かも知れない)。でもって長期金利が徐々に柔らかく上昇、位がベストシナリオだろう(結構、針の穴に糸を一発で通さないといけないみたいに難しそうだが)。

さて、グラフに話を戻すと、下段左のグラフは、子供の有無で限界消費性向が随分異なる事が分かる。下段左のグラフからは、今の消費回復が余り強くないのは、「子供が居ない高年俸者が増えていて、彼らは余り限界消費性向が高くないから」と言った事が言えるかも知れない。もっと結婚させて、子供を産ませて、皆に消費して貰わないと消費は伸びないのかも知れない。

また、下段右のグラフは、30代以降で子供の教育等の必需的支出が増えている事を示す。自由に使える可処分所得が増えないのである。
上段右のグラフは、日本と韓国の「GDPは先進国だが、老後の有り様が貧しい」事を示していて非常に気になる。欧米各国は、高齢者が就業したくない理由の過半は「他にしたい事があるから」と言った前向きな理由である事に対して、日本と韓国は、健康上の理由や適した仕事が無いから、と言った理由が中心である。日本は長寿の国だが存外不健康なのだろうか。あるいは「やりたい事があるから働かない」とハッキリ言い易い欧米のカルチャーに対して、日本や韓国は「いやあ体調が悪くて」と言い訳した方が世渡りし易いカルチャーなのだろうか。背景は色々あるだろうが、非常に気になったグラフだ。本当に日韓の高齢者の健康状態が良くないならそれはそれでメタボや生活習慣病対策が必要だし、体調が悪いと言い訳しないと休みづらいカルチャーなのだとしたら以下でも述べるがそれはそれで問題である。適した仕事がないと言うのが本当であれば、シニア層の労働市場の流動化を進める必要がある。必要がある所には儲け話がある。人材紹介会社で関連銘柄があるかも知れない。

下段は、「休みが取りづらい日本の雰囲気の弊害」が表されている。休暇が少ないと消費が少なくなるのである。まあ、使うヒマが無ければ消費はしないので、それはそうだろう。有給取得率も、電ガスだけ70%を越えていて、後は概ね5割以下である。確かに筆者も、風邪を引いたのを病欠でなく有給でこなしても、かなり余らせて居た気がする。消費増大の観点から言えば、皆さんもっと休みましょう、と言う事になる。ちなみに休みが増える施策が取られた場合は、JR、ANA、HIS等の観光関係の銘柄には概ねポジティブである。

お次は住宅関係。日本は著しい「新築主義」である事が分かる。これは銀行、不動産デベが一般市民からマネーを吸い上げている行為に等しく、ちょっと変わったマネーの流れである。現状のような海外と比べるとかなり新築にティルトしきった状況で上段左の通り、新設着工は低調なのであるから、今後リフォームや中古住宅に住む事がもっと定着して行った場合、新設着工が伸びる事は尚更考えづらいだろう。超長期的にハウジングメーカーは中々厳しい業界になりそうである。

一報で、下段にある通り、現状では日本は新築も低調ならリフォームも低調だが、市場の過半が65歳以上である事を考えると、今後住設メーカー等にとっては伸びが狙える時期も来るだろう。団塊世代の定年退職が話題になった時、こう言う視点で住設メーカーにかなり買いコールが入ったような気がする。忘れられた頃にもうひと相場あるのだろうか。TOTOとか住生活HDとか。

「政策や金利動向も住宅購入に大きく影響」と、随分柔らかく書いてあるが、これは間接的に、経済産業省から、「政府は住宅版エコを続けてください、日銀は低金利で当面行ってください」と言うメッセージを発している事を示唆する。まあ、景気の事を考えるとそうなるだろう。

下段は、住宅購入可能なだけの年収を持つ世帯が減っている一方で、高齢者のリフォーム余力がある事を示している。お上の方針としては、新築を増やすよりも、リフォームを増やす事で家計の住宅投資を増やしたい、と言った所のように思う。勿論これは銘柄にも長い目で見れば影響する。ハウジングメーカー△、住設メーカーには+。

長期優良住宅は一時期話題になったが、余り値段が高くなると消費者に許容して貰えませんと。また、集合住宅の省エネ対応の遅れを指摘している。長期優良住宅の価格引き下げによる普及促進がハウジングメーカーや土建屋の課題で、省エネやエコ関連を集合住宅でいかに普及させて行くかで需要開発が出来るかと言うのがマンションデベやあ住設メーカーやの課題と言う事になりそうだ。

下段では、当たり前の事だが、都市の集積度が高い方が地価が上がる事を示している。また、都市の集積度を上げて容積率を高めれば、単位当たりの地価は低下するので、翻って新築購入余地の乏しい世代にも住宅購入のチャンスが与えられるだろう、と言った話である。これは経済産業省のレポートで、国土交通省の考える所はまた別にあるのかも知れないが、これは都心の再開発を促すような政策を打った方が良い、と言う経済産業省の考えでもある。

以前の毎日エコノミストかなにかの論文で、都内では中央区、港区と言った一部を除いてはまだ容積率規制を全然使い切ってなくて、再開発が遅れている所がある旨紹介したと思う。ここにお上からテコ入れが入るとなると、こう言った所でマンションを買う際は要注意である。需給が緩んだら、資産価格が下がるからである。

以上をまとめると、日本の家計の消費を回復させるには、改善されない所得を何とか上げるような方策を取る事がまず重要である。

一方で、高齢化社会の状況を踏まえて、国の債務増大を抑えるためには年金の削減はやむを得ないだろう。これについては、経済産業省のデータによると貯蓄を取り崩せば年金給付が減っても生活出来るし消費も出来そうである。従って、高齢化社会で高齢者の数が増えている割に「健康上の理由やら適した仕事がないやらで他にやりたい事ある訳ではないから働けない」と言う事になっている枯れた状況の高齢者にもっと有意義な老後を過ごして貰うと共にリフォーム需要等で消費・投資してGDPに貢献してもらう事も出来るかも知れない。

また、子供を産んだり余暇を増やしたりしやすい環境づくりをする事で消費増大を促す事も必要そうである。

更には、都市の集積度を上げる事で特に東京等の大都市の資産価値下落を防ぐと共に単位当たりの土地価格を下げる事で持ち家購入余力の乏しい家計にも住宅購入のチャンスを与える事で住宅投資を促す事も課題になるだろう。この場合、住宅と言うのは郊外の一戸建てではなく、都会の容積率規制一杯まで使われて再開発された高層マンションのイメージである。ハウジングメーカーでなく、マンデベの世界である。で、ここのエコ・省エネが足りないと言う事になっているのでここの強化が必要な訳だが、この際は一戸建て向けのエコキュートとかああ言うのとはまた違ったエコ対策になるだろう。どちらかと言うとオフィスビルなんかでやられているエコ対策に近いものになるのではないだろうか。関連銘柄も、リンナイとかノーリツとかの世界ではなく、山武とか高砂熱学とかの世界に変わって来る可能性がある。


必要な事はビジネスに繋がり得る事なので、上記のような課題を解決する企業はどう言った会社だろう、と考えて行けば、業種や銘柄に落として行く事が可能である。

こんな訳で、多少五月雨的ではあるが、それでも消費を通じた経済産業省の考え方や、関連銘柄の影響について思いを馳せたりする事は出来る事が少し紹介出来たのではとも思う。こう言った話をベースにして、ハウジングメーカーや住設メーカー、マンションデベロッパや建設業界等に取材してみると、面白い話が聞けたり、理解が深まったりする。こうやって調査を深めて行くのが、リサーチの基本動作である(注)。同業者のかたからするとboringな話かも知れないが、リサーチ等を志望する学生さんや、業界外のかた向けに基本動作の紹介までと言う事で、少し書いてみた。


(以下注)

注:ヘッジファンドのびゅんびゅんやる運用は、こう言うじっくりとしたリサーチよりもかなりopportunisticである必要があるが、これはどちらかと言うと応用編である。個人的には、最初から応用編より、最初は基本を押さえておいた方がプロフェッショナルとしては地に足のついたものになろうかと思う。

また、筆者が自身でヘッジファンドで運用していた頃、どんどん視点が近視眼的になって行ってしまっていたきらいもあった事に対する反省でもある。今は某社でヘッジファンドマネジャーをしている、学生時代にスキー選手をしていた人にスキーのコツは?と聞いた所、「足もとを見過ぎない事。視界の少し先、これから向かう所を見るようにして、足もとのコブやでこぼこはヒザを柔軟にしておいて思わぬでこぼこが来ても対応出来るようにしておくのがポイント」と話していた事を思い出す。勿論でこぼこが来ても対応出来るようにヒザや脚力は鍛えておかないといけない訳だが、うーんこれは相場の話にも通じるんだろうなあ、と非常に参考になった事を記憶している。

毎日の上下やチョッピーな値動きにある程度対応するのもヘッジファンドは1ヶ月単位で収益を見られる以上勿論必要な事なのだが、足もとだけずっと見ていたら上手く滑れないし、大きな方向感を見失ってしまうようにも思う。そう言う意味でも、年に1回の経済白書位は、ちょっと大局観を見てみるのもよいのでは、と言う話である。大体年末年始は大局観をじっくり考えられる。これに加えて年半ばに一回大局観をレビューし直す良いきっかけにもなるようにも思う。

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