2010年8月4日水曜日

証券アナリストジャーナルより:債券についてショートメモ。

基本線、証券アナリスト協会から送られて来る雑誌が投資の足しになるとか、凄い勉強になるとか言う事は正直殆どない。実務家的には実感として当たり前の事をデータで実証研究している、と言った事が多い(まあ、金融関連の論文と言うものはそう言うものだ。本当に儲かる話は論文などにして外に出て来る事はない)。

とは言え、全く門外漢の分野について書かれている事はそれなりに参考になる事もある。今回は社債市場について幾らか紹介。


○ブレットとバーベルポートフォリオのペアトレード。

イールドカーブが上に凸の平常時の場合、ブレット(デュレーション中程度の債券だけのロング)の利回り>バーベル(デュレーション短期と長期の組み合わせで、全体のデュレーションはブレットと同じにしたもの)の利回り、である事が過半なので、ブレットロング、バーベルショートをしていればデュレーションはニュートラルで過半の時期でインカムゲインの超過が得られる。その代わり、金利のボラティリティが急拡大した場合、コンベクシティはバーベル>ブレットなので、ショートしているバーベル側の価格上昇が大きくなってしまい大きな損失が発生し得る。

逆にバーベルロング、ブレットショートと言うのは平時では常にネガティブキャリーだが金利のボラティリティが急拡大した時には大きく利益が出る組み合わせと言う事になる。

詰まる所、オプションをライトしている、為替で言えば低金利通貨で調達して高金利通貨で運用してキャリートレードしている、ネガティブガンマのような立場が債券ではブレットロング、バーベルショート。金利のお小遣い収入が平時は入る代わりにボラティリティの急拡大に脆弱である。マーケットに大きな混乱がなく平穏な状態が続くと見る場合はこちらで行く事になる。

一方で、バーベルロング、ブレットショートと言うのはコンベクシティにベットしており、オプションで言えばロングしているようなもので、ガンマロングのポジションであり、平時は一発大儲けの宝くじを買うためのコストを支払っている事になり、金利ボラティリティの急拡大にベットしている事になる。マーケットが大きく振れる(往々にしてマーケットの混乱)にベットしたい場合はこちらで勝負する事になる。但し、ディープアウトオブザマネーのオプションが常に割高で取引されている(ボラティリティスマイル)と同様の現象が債券のバーベル、ブレットの関係でも起きており、バーベルロング、ブレットショートは「宝くじ」を市場がやや過大評価しており常に割高なのではないか、と言う事が上記で書いてある。

債券について門外漢の筆者でも分かり易い結論で、ああーなるほど、と思ったのでメモしておく(注)。


○社債市場の季節性。
以下でも紹介した通り、社債の保有者は半分が銀行である事、また上記の通り過半の企業が3月決算である事から、季節性アノマリーが起きて居るのではないか、と言う話。


メインのホルダーである銀行が、決算対策のために9−12月で特にリスクの高い社債を売却して、リスクを取っていない開示に決算を作って行く準備をして、4−8月で売った社債を買って行くので徳に低格付けの社債ほど利回りスプレッドが低下する、と言う関係にあるのではないかと言う事。

多分社債が本業のかたからすると、上記の結論は「当たり前」のものだろうと思う。とは言え株サイドの人間も、最近社債のスプレッドなど参考にする事は多いので、なるほどなと思った次第。



(注)ちなみに、用語解説しておくと、デュレーションと言うのは金利変化1単位で債券価格が幾ら変化するかと言う事で、加重平均残存年数を指す。コンベクシティと言うのは金利変化1単位でデュレーションがどれだけ変化するかの事。

ノリ的にはオプションのデルタが債券のデュレーションに対応し、オプションのガンマが債券のコンベクシティに対応する。つまり金利を原資産、債券価格をオプション価格とすると、デルタが原資産価格変化に対するオプション価格の変化なのでデュレーションと同じ意味になるし、ガンマは原資産価格変化1単位に対するデルタの変化がいかほどかと言う事なのでコンベクシティに対応するのである。

業界用語で「リスク管理上、ネガティブガンマのポジションは取らない」とか、「ポジティブガンマ」とか言ったりするが、上記の通りネガティブガンマと言うのは平時は保険を提供している事に対する見返りとして金利収入があるが損失発生時にデルタがどんどん不利な方に大きくなるので損失が急拡大するポジション。だから下方リスクに敏感な人はネガティブガンマのポジションは取りたがらないが、平時は保険提供に対する保険代が安定してもらえるのでこっちのポジションの方が安定して儲かる。一方で、リーマンショック等の危機の際には非常に脆弱で、LTCMなど危機の際に「吹っ飛んで」しまう人は大体こちらのポジションを取っている。ナシームニコラスタレブはこっちのポジションで儲けてカリスマトレーダーぶっている人間を凄いバカにしている。

しかし、外資系金融の世渡り的には、平時にオプションの売りなり、キャリートレードなり、ジャンクボンド買いの高格付債売りなりのネガティブガンマのポジションで、保険提供に対する対価としての金利差でもって安定したリターンを上げておいて「どうだすごいシャープレシオだろう」と自慢して会社から沢山ポジション貰ってボーナス一杯せしめておいて、リーマンショックの際は会社のカネを吹っ飛ばしてしまうがクビになるだけで自分の懐は痛まないので「あれは100年に一度のアクシデントだった、でもキャリアを通じて全体で見ればプラスのリターンの年が過半だったんだ」と言い訳して別の会社で職を得る、と言う事を繰り返せれば、トレーディングスキルなど何にも無くても高年俸をせしめる事が出来る、と言う「労働市場側のアノマリー」があるようにも思う(今も通用するかは知らないが)。タレブがこう言う人物をバカにしたい気持ちも分かるし哲学も何もあったもんじゃないが、実際こう言うアノマリーを使って金持ちになってる人も居るように思う。

一方でポジティブガンマと言うのは普段は保険代を払わないといけないがボラティリティ急拡大時は有利な方にデルタが急拡大するので雪だるま式に大きなリターンが取れるポジション。ナシームニコラスタレブが取るのはこっちのポジション。皆さん景気が良い時に保険代をじわじわと払い続ける事になるので大変に忍耐が必要なポジションだがリーマンショック等の際には大きく報われる。タレブとか、ヘッジファンドのポールソンとかが儲けたのはこっちである。コールなりプットのオプションを買うだけと言うのは宝くじを買う事と同じであり、最大損失も限定されておりリスク管理も楽でリターンは無限大のため一見誰でも出来そうな話だが、上記の論文でも示唆している通りこちらのポジションは常に割高評価で支払保険代あるいは支払宝くじ代がかさみがちである。言ってみれば、一発大勝利の可能性のためにほぼ確実に少額損し続けると言う立場を取る事になる。従って支払を少なく抑えるには、出来る限り「危機、崩壊のタイミングを正確に捉えて、ボラティリティ/保険が出来る限り安値で売られている時に、崩壊直前である程度の費用をかけて大きなポジションを組む」必要があり、そう言う意味では大変に玄人向きの勝負の仕方でもある。また、職業人投資家として雇われの身でこれをやる場合、保険代を支払って少額の損失が続いて居る間に「お前使えない」と言う話になって解雇されたり、ヘッジファンドならお客様より解約されてしまうリスクもあり、中々難しい面もある。タレブはこう言う職人芸にロマンを感じて居るんだろう。

デリバティブや債券の教科書には難しい事が色々書いてあるが、上記の通り文章を咀嚼して、「こう言う相場付きの時、こうなる」と言うのを感覚的に捉えておく事が大切である。逆に言えばこれが出来ていれば物理学者や数学者でなくてもこの商売はやれるように思う。結局の所、「こう言う相場付きになりそうだから、こう言うポジションを組もう」と言うのが運用の商売なのであり、大雑把に四則演算で頃合い感を掴むのは頭の中でやれた方がいいものの、細かい計算はエクセルやソフトウェアがやってくれる。幾ら細かいモデリングをした所でAssumption次第でValuationはどうとでも作れる面もあるので「精緻にモデリングしたいオタク」になり過ぎても仕方無いと言った面もある。

なんだか学校の先生みたいだな、、、

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