2010年8月13日金曜日

メモ:経済財政白書より

日々の株価の上下に一喜一憂していると、ついつい官庁の白書なんてタイムホライゾンが長期過ぎて相場の役に立たない、と思ってしまいがちのようにも思う。

とは言え、経済財政白書にちゃんと目を通す、と言うのは四季報が出たら目を通すと言うのと同じ位基本動作であり、重要なようにも思う。

そんな訳で、リリースされてからちょっと日にちは立ってしまったが、経済財政白書から幾らかコメントしようと思う。全文読むのが面倒くさい時は、「説明資料」にグラフと共に要旨が旨くまとめられているので、こちらだけでも参照すると勉強になると思う。以下が参照サイト。


本日は、説明資料の「その1」のチャートから、設備投資に関する論点整理。


○設備投資に関する論点整理。
今は、稼働率が回復している割に設備投資が低水準な状態であり、上記チャートを見ると、「そろそろ稼働率も回復したし、設備投資を打って生産キャパのアップなり生産性の改善なりが必要だな」と言う水準に来ている事が分かる。
では、なぜに設備投資が出ないのかと言うと、上記の通り、期待成長率が低いからである。直近の10年I期の水準は、斜め点線の期待成長率で見ると-0.5%の水準である。これはちょっと低過ぎなのではないかとも思うが、現在の企業における将来の展望は今だ非常にCautiousだと言う事実を理解する必要がある。
上記の通り、期待成長率が低いですよと。

なぜ設備投資が出ないのかについては、期待成長率が低い事に加えて、デフレが挙げられる。上記の通り、がっつり広い範囲で価格下落が進展している。
デフレだとなぜ設備投資をしないのかと言うと、一つには「将来価格が安くなるんだから、将来安くなってから投資すればいいや」と言う事になりがちだからと言う事が挙げられる。また、別の説明の仕方としては、上記の説明の通り、デフレが実質金利を引き上げる事を通じて資金調達面での投資へのハードルが高くなると言う点が上げられる。

つまり、フィッシャー式によると名目金利=実質金利+期待インフレ率、である事から考えるとこれは明瞭である。

例えば名目金利が今の10年もの国債の1%とすると、期待インフレ率が+5%なら実質金利は−4%と言う事で、将来のインフレのお陰で借金は将来簡単に返せるようになるからとにかく借りた方がトク、と言う事になり、投資が刺激される。一時期の中国はこういう面があり、景気が過熱した。

一方で、期待インフレ率が−5%だとすると、実質金利は6%と言う事になる。つまり、デフレが将来も続く場合、企業なら売上、家計なら所得は将来下がるだろうから、今借金をすると返済負担が非常に重くなってしまい、それを考えると借入してまで投資するのは止めよう、と言う事になる。もうちょっとファイナンスちっくな説明をすれば、資本投下によるリターン>=調達金利、でないと投資をしても儲からないと言う事になるので、調達金利側で実質金利が高いままだと「将来のデフレを考えてすら非常に儲かる案件」でないと投資の意思決定にゴーサインがでなくなるので、投資が少なくなってしまうのである。

で、じゃあなんでデフレなのよと言うと、需要が不足しているから、と言う事である。更にもっと言えば、米国と比べて、日本の場合は需給ギャップが解消されても構造的にデフレの傾向がある事も見て取れる。
なんで日本は構造的にデフレ傾向なのかと言うと、バブルで皇居の地価がカリフォルニア州全体の地価より高くなる所まで地価で無理な所まで価格バブルが起きてしまった反動で、長期に渡って資産価格が不動産投資のROI見合い応分まで下落せざるを得なかったと言うのと、マネーサプライが抑えられて来たから、と言った説明になる。
更には、輸出依存型経済の場合、新興国が安価な労働力を活用した低価格戦略で攻めて来るのに対抗しないといけないため、物価も賃金上昇も抑えられる傾向にあると言う事も指摘されている。これは日本が製造業だけに依存していてはダメで、勿論製造業も頑張るのだけれども国として高付加価値なサービス産業(例えば金融等)を強化する必要がある事を示唆している。

スイスやシンガポールが金融業、特にプライベートバンクやヘッジファンドと言った資産運用業の拠点になる事で小さいながらも巧みな経済運営が出来ている事を考えると、資産運用業も日本ではもっと成長しないといけない。元業界の一員としても、この点何とか出来ないものかと思う。
更に加えると、日本では民間資本の限界生産性が長期的に下落傾向にあると。詰まる所追加的な投資一単位に対するリターンが落ちている、と言う事である。ここ10年くらいは下げ止まっているが、限界生産性の水準感として、「日本で投資するより、アジアや新興国で投資したほうが資本の限界生産性が高い」と言う事が言えると思う。これは結構根の深い問題と思う。

以上要約すると、「短期的には、設備稼働率は回復する一方で設備投資が低水準だった期間が続いていて、そろそろ設備投資が増えても良いかなーと言う雰囲気である。」「しかしながら、長期的、より大局的な視野で考えると、日本の需要不足、供給過剰、期待成長率の低さ、資産価格の下落や日銀の金融緩和が足りない事に加えて製造業依存が大きい中での新興国製品の台頭等によるデフレ、資本の限界生産性の低さ、と言った要素があるので、これらが解消しない限り、設備投資の構造的な大幅な回復には至らない」と言う結論になる。中々しんどい話である。

処方箋としては、以下のようなものがあるだろう。

・子育て手当に代表されるような「国民各個人が恩恵を感じ易い公共サービスの充実」を図る事で需要を喚起する(これは以前から再三紹介している通り、公務員のリストラや天下り禁止と並んで、増税へのコンセンサスを作り財政再建に向かって動く上でも重要である)。

・中国の小規模高炉の廃棄命令に見習って例えば石油元売りや石油化学等のセクターでの供給過剰を解消する(実際、石油の元売りに関してはこの流れの指導が経済産業省から出ていて、コスモ石油が再編のポイントになりつつある。石油化学等のセクターでもここが重要になって来るだろう)。

・産業を金融やら製造業でも企画開発部分に特化する等で高付加価値サービス産業化して行く事で期待成長率を上げると共に新興国製品と競合しないような状況を作る。

・国際社会における日本の魅力を引き上げるべく、法人税率引き下げや外資の東京オフィス誘致促進策等を取る事で資産価格の下落を防ぐ。

・上記の施策群をトータルに遂行する事により資本の限界生産性を引き上げる。

こんな所になる。これが実現される局面になって初めて、日本の株式市場が右肩下がりトレンドでなく、上昇トレンドの大相場を形成する事になる(大相場になる時のために心の準備をしておくので何とか実現して欲しい)。逆に言えば、これらが実現されない限りはシクリカルでチョッピーな動きを細かく取りに行くしかない相場環境が続く事になるだろう。

日本が元気になるための処方箋は、経済産業省の出して居る白書から比較的明確に書く事がこうやって出来る。菅政権でも自民党でもどちらでも良いと思うが、とにかくこう言う施策をしっかり遂行して行って欲しいと思う。

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