2010年9月23日木曜日

秋の夜長の書評集その2:Valuation、ソロスとジムロジャーズ、ナウシカと金融市場について、多少熱く語ってみるのまき。

連休の合間、為替介入が入って株価が少し戻し、だらだらと持続力が無くなり、また介入が入ると場中にぴょこんと株価が上がる、、、「日株は結局為替次第」そのまんまの昨今ですが、皆様如何お過ごしでしょうか。

さて、過去の書籍電子化に伴う、書評集第2弾、少し紹介したい。気が向きましたら、読書の秋にどうぞ。


○ヘッジファンドもの。

魔術師は市場でよみがえる


・・・90s終わりまで、ソロスのクオンタムファンドと並んでヘッジファンドのスーパースターとして君臨したジュリアンロバートソンと、彼の率いるタイガーファンドの盛衰について書かれた書籍。「調査はしっかり。推奨は単純に。コンセンサスは何か、コンセンサスに織り込まれてなくて自分が知っている有利なキャタリストは何か、価格は安い(買い)なのか高い(売り)なのかを短時間で明瞭に」と言った指摘は、大変に参考になった。



ライアーズ・ポーカー


・・・先に紹介した、「メイクマネー!」より少し前の、80s中葉のソロモンブラザーズについての実話である。当時のジャンクボンドの動向など、これまた当時の金融業界史として、ポストバブル世代のプロフェッショナルには貴重な資料である。また、マイケル・ルイスの文章は非常に面白いし笑える。その点でもお勧め。



ソロス


・・・ジョージ・ソロスの伝記。若い頃は女の子にモテないとか結構世俗的と言うか我々にも共感出来るような結構普通の悩みも持って居た事、生い立ちがトレーディングスタンスにも影響を与えている事、ソロスのような人物でさえキャリアの中で仕事に対するモチベーションの危機や父親としての子育て面の失敗や離婚等の私生活面での危機があった事、そう言った過程の中で心理カウンセリングを受ける事で常日頃感じており成長の阻害要因になっていた「恥の意識のようなもの」を払拭出来てより自然体で過ごす事が出来るようになり次の成長ステップに上がれた事等、個人的な事も含めてかなり仔細に書いてある。大変に参考になる書籍。



ヘッジファンドの帝王


・・・日本では余り有名ではないが、米国では多くのヘッジファンド同業者が「彼は尊敬する」として名前が挙がる、マイケル・スタインハルトの伝記。ジョージ・ソロスやウォーレン・バフェットが言ってみれば「コカコーラとかポンド危機とかの大物を釣り上げるホームランバッター」であるならば、マイケル・スタインハルトは、「内野安打やシングルヒットを量産する事に卓越している、イチロー型バッター」と言って良いだろう。元々株のアナリストからトレーダーライクなヘッジファンドマネジャーに転身している事もあり、元々アナリストからキャリアをスタートしている筆者的にもかなり参考になった。


○「ど文系」のかたのための金融工学、最初の一歩系。

金融工学の悪魔

金融工学の救世主


・・・以前も紹介したが、文系学生で、金融工学へのとっかかりが全く掴めなくて困っているかたにお勧めである。



Excelで学ぶ金融市場予測の科学


・・・文系出身のかたで、ブラックショールズアレルギーのかたはまずこれを読むと良いと思う。説明がやや饒舌で、「数学者の飲み屋でのよた話」みたいな面もあるので、ここは好き嫌い分かれるかも知れないが、丁寧な説明で非常に分かり易い。



○トレーダーの定番。



魔術師達の心理学


・・・相場の心理学とマネーマネジメントについて書かれた本。トレーダーには必須の一冊だろう。



投資苑


・・・トレーダー必携の本だろう。テクニカル分析、トレードの心理学、ポジションマネジメント等について広範に書かれたもの。




○テクニカル分析幾らか。



ワイルダーのテクニカル分析


・・・RSI等のテクニカル指標の開発者。この手の書籍の古典と言えるだろう。意味を考えながらテクニカル指標が使えると言うのは重要である。



トレーディングシステム徹底比較


・・・随分古いものの上に値段が高いので現在読んで資料的な価値があるかと言うと分からないが、案外シンプルな「移動平均」「チャネルブレイクアウト」やこの手の組み合わせが結構ワークして、複雑な算数処理が為されている指標が存外使えない、と言う結果になっていたりして、中々面白い所である。



○ファンダメンタルとテクニカルの融合、マクロ/ボトムアップバランス型。

オニールの成長株発掘法


・・・CAN-SLIMで有名な著者の代表書籍。キャリアの初期で何度も読んだように思う。ファンダメンタルでセットアップして、キャタリストが必要で、テクニカルをタイミング指標に使う、マクロ経済動向や市場需給指標の活用の仕方、と言ったアイデアについてバランスの取れた考え方を学ぶには今も有用だろう。ジム・クレーマーの書籍と並んで、バランスの取れた内容のように思う。



○アナリスト志望のかたに。

EVA創造の経営


・・・アナリスト志望者のかたにお勧め。ベース知識としてこの位はきちんと読んでおいた方が良かろう。


とは言え、実際には、DCFで将来キャッシュフローを現在価値に割り引くのと、EVAで将来経済付加価値を現在価値に割り引くのはValuationとしては理屈的には一緒になる。


また、実際のトレーディングにおいては株価をこう言った理論価格でもって撃ち抜けると考えるのは幻想でもある。例えば景気も良く金融緩和傾向でグローバルにキャッシュも溢れており、投資家の心理もリスク選好的な際は割引率を5%で評価出来る。一方、これが一転して金融危機になってエクイティリスクプレミアムが急上昇しました、割引率は10%ですとなると、こうなった途端に理論価格は大雑把に元の半分になる。詰まる所、結局はここでも煎じ詰めると「市場参加者のリスクに対する心理状態」が理論価格の最も重要なキードライバーなのであり、DCFやEVAのモデルをキチキチ詰めれば相場に勝てると考えるのは筆者は賛成ではない。こう言う事をピュアボトムアップを哲学とするロングオンリーの運用会社の面接なんかで口走ってしまうと、100%不採用なのでそこは注意が必要ではあるが、これは幾ら大手で面接官がお偉いさん相手でも、筆者の方が正しいと筆者自身は信じている。


そんな訳で、デューデリジェンス自体が仕事であれば話は別だが、相場での勝ち負けだけを考えるとこう言うValuationについて余り細部まで深入りし過ぎる必要は無いと思う。また、アナリストとして仕事する際もDCFでの評価が出来れば概ね問題は無いようにも思う。特にヘッジファンドで運用する場合、タイムホライゾンの短さや機動的な対応を求められる点等を考えると、よほど腰の据わった大きなポジションを取りたいと言う時以外は、毎回こう言うモデルを作らないと売買判断が出来ませんと言うのではワークロード的に持たないようにも思う。


ただ、上記は上記として、「やろうとすればDCFでもEVAでも評価出来るけれども普段は省略している」と言うのと、「こう言う概念を全然知らない」と言うのでは、経験値の段階としてはかなり違うと言うか、見た目の体格は似ていても基礎体力が全然違うスポーツ選手のような感じはする。


例えば、企業の事業内容、ビジネスモデル、収益性、キャッシュフローの出方や入り方、株主還元の方針、伝統的なバリュー投資家が考えて居るであろう株価のレンジ感、と言った所にについての理解を深める事はValuation作成過程で出来るだろう。更には、こう言う事をやっていた経験があると、このプロセスを省略する際も、上記のような事柄についてのある程度の「暗算での目星」は立つようになる。その他、管理会計としてEVAやその応用でもって事業管理をしている事業会社の財務等とディスカッションをする際、EVAを知らないと議論が出来ないと言う面もある。そんな訳で、アナリストの場合は、本書の内容位は嗜みとして知っておいた方が良いと思う。



企業価値評価 実践編


・・・これもValuationの書籍だが、これは筆者は通読はしていない。仕事していれば概ね当たり前の内容だからである。ただ、細かい勘定科目をValuationを作る際にどう処理するかについてきちんと書いてある上、日本の会計制度、日本企業のケーススタディのもとでキチンと書いてあるのが、この手の英語の本の日本語訳と違った、本書の価値のある点である。辞書的に手許に持っておくと便利かも知れない。



MBA経営戦略

MBAゲーム理論


・・・学生さん等がコンパクトに各種理論を学ぶには良いシリーズだと思う。



成功者の告白


・・・これも以前も紹介したが、新興企業の誕生、発展、衰退の背景を理解するのに非常に向いている一冊。筆者も急成長して崩壊した運用会社で勤務していた事があるが、概ね同様の過程を辿った事には驚いたし、翻ってアナリストとして中小型株等観る上でも大変に参考になった。




○人間心理と市場について。


市場と感情の経済学


・・・行動ファイナンスの分野の大家であるリチャード・セイラー(ターラーと書いた方が発音的には近いのだろうか)の、行動ファイナンスの先駆け的書籍。行動ファイナンスブームでここ最近書かれた本のクオリティは善し悪しあると思うので、キチンと学びたいかたはこう言った大御所の書籍を当たる方が良いように思う。



狂気とバブル


・・・チューリップバブル、南海泡沫バブル、ミシシッピバブル等のバブルから、果ては魔女狩り等まで、古今の「集団の狂気」の仕組みをプロセスについて書いてある大著。ここまで来ると趣味の世界と言うか、ちょっと実用書としては分量が多過ぎるので、時間のあるかた用のようにも思う。とは言え、バブルとその崩壊の歴史であるとか、群衆行動についての研究と言うのは分野としては大変に興味深い分野である。




○その他相場/金融トリビアもの。

リスク 神々への反逆


・・・この著者の書いたゴールドと並んで、名著。この密度の書籍は中々書けるものではない。リスクと言う観点から、統計学の発展や、それがどのような形で金融の分野に適用されるようになったのかについての歴史を興味深く知る事が出来る。相場に即役立つ訳ではないが、歴史を学ぶ事は価値があるし、市場参加者の教養と言った所だろうか。



大投資家ジムロジャーズ 世界を行く

冒険投資家 ジム・ロジャーズ世界大発見


・・・これらのジムロジャーズの本は、評価は見方によって二分するだろう。筆者的には、旅行記としてはイマイチ、国際投資の本としては素晴らしい、である。

まずは前者の評価から。旅行記としてはイマイチである。理由は、ジム・ロジャーズは世界中のあちこちを旅行しはするが、彼は旅先で自身の価値観を覆されたり、人生観が突き動かされたりするような体験は余りしていないようにも見受けられるからである。言ってみれば「資本至上主義万歳、アメリカ万歳、俺はマーケットで儲けたスマートなヤツで、成功者なんだぜ、しかもこうやって治安の悪い地域も世界旅行して、どうだワイルドだろう」と言う単純思考でもって大型バイクやベンツで世界を突っ切るような旅行スタイルのようにも見受けられるのである。

旅先の人間からすればこう言う金持ちのアメリカ人は鼻に付くだろう上に、そう言った「ゴーマンで成功した金持ちのアメリカ人って、周辺国から観ると結構はた迷惑な存在なんですけど」と言った面についての、本当の意味においての「国際人」としての自覚は彼の記述からは余り感じられない。「自身を国際社会において相対化する視点」と言った高尚な自覚が、彼からは余り見受けられないように思われるのである。

旅行記の醍醐味は、旅行の過程で人生観や価値観を震わせるような経験をする、と言う所にあるのではないかと筆者は思う訳で、翻ってそう言う意味において、これらの本は旅行記としての瑞々しさには欠けるように思う。

更に個人的な余談ではあり恐縮だが、ジム・ロジャーズは投資家/投機家としては勿論大いに尊敬するが、人柄・性格的には上記で述べたような理由で、筆者的には多少鼻に付く面は感じる。更には私生活の面など、ジム・ロジャーズの場合は上記2冊の間に、大した説明もなく知らぬ間に一緒に旅行する女性のお相手(どちらも若い姉ちゃん)が変わっていて、その上最近の書籍では60代になって初めて子供が出来て大喜びなのか臆面もなく親バカな書籍を書いたりしているし、「なんつーかねぇ」と思う面もあったりする。


一方で、元々ジムロジャーズと一緒に仕事をしていたジョージ・ソロスの方が、勿論性格的には彼も(と言うかソロスの方が)強烈な所もあるにせよ、人柄・性格的には納得感がある面も多いように思う。例えば幾つになっても哲学家に憧れているようなナイーブな一面が見られたり、モチベーションの危機や私生活の失敗、ヘッジファンドの経営者としては余り上出来とは言えない等について、彼お得意の「誤謬性」の考え方を基にしているのか伝記等の中で赤裸々に反省していたりもする。国際感覚の面においても、(せがれの方、オバマの前に大統領だった)ブッシュ大統領を「アメリカ人の独善的な正義を快く思って居ない人々は世界中に沢山居る、この点を自覚しないといけない」と言った趣旨で強烈に批判していたりして、元々アメリカ人ではなく移民である事もあるせいか、アメリカかぶれし過ぎていない。筆者的にはキャラ的には、(どちらも基本線、全然別世界の人々なんだが)ソロスの方が共感出来る面がまだ見出し得るように思う。

この辺はジム・ロジャーズとジョージ・ソロスは元々はクオンタムファンドでコンビを組んで居たものの、性格的には対照的のようにも思う。あくまで個人的な感想だが。

話を書籍の書評に戻そう。旅行記として見た場合は結構けちょんけちょんに批判してしまったが、一方で、国際投資の書籍として読むとジム・ロジャーズの本は大変に参考になる。

コモディティブームが始まる前から農場への投資を検討していたり、現在のようにアフリカ株がブームになったりするだいぶ前、証券取引所の制度や決済等が成熟していないうちからリスクを取って口座を作って株を買ってみながらちゃんと決済が出来るのか確認したりしている様は大変に興味をそそられる。流動性が無いとか、法制度や決済面でリスクがあるとなると普通は手出ししない、出来ないのが普通ではあるが、一方でそう言う市場こそ上手く行くと非常に大きな果実が得られるのも事実である。

更には、上記書籍が発行された後、ジム・ロジャーズはサブプライム危機が深刻化する直前、米国の地価が下がる前にニューヨーク郊外の豪邸を高値で売却して、新興国投資をするためにシンガポールに移住している。流動性の無い自宅を売却するとか、住むベースから変えるとか言う事を適時にやるのは相当に難しい。こう言うグローバル投資についてのセンスはジム・ロジャーズは凄いなーと感嘆するし、非常に考えさせられる所である。


僕はこうやって11回転職に成功した


・・・以前紹介した本だが、運用業界のガイドブックとしても秀逸であるし、山一証券の破綻に著者がタイムリーに出くわしていて状況が仔細に書いてある等、80s中葉〜2000年位までの金融業界史としても大変に優れた本である。



お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方


・・・筆者は個人的にはPT(Perpetual Traveler。世界中を転々として、税金を回避するライフスタイルの事)には必ずしも諸手を上げて賛成と言う訳ではない。警察や消防等の生活必須のインフラを使用している事に対する感謝を示すべく、言ってみれば国家に対するショバ代は、メインで生活している国でキチンと払った方が良かろうとも思うからである。とは言え、年金制度の歪み等を始めとして、この著者の書籍内容は全般に非常に良く調べた上でディープな記載がなされており、深く考えさせられるものがある。



ウォール街で勝つ法則


・・・結構昔のものだが、米国の株式市場を50年分調べてアノマリーを探した本。この書籍が出て以来、この本のアノマリーは市場に周知のものになってしまい、現在は余り効かなくなってしまっているそうで、こう言う面がある点は留意が必要。しかし、「バリューかつグロース(今で言うGARP、Growth At Reasonable Price的な考え方)」と言った概念を始めとした本書の発想は、バリューかグロースかと言った安易な二分法に囚われがちであった時分の書籍としては画期的な内容だったと思う。



○まともな内容の「成功本」幾つか。

7つの習慣


・・・基本的に筆者は「成功本」の類いは余り好きではないが、この本は数少ない「読むに値する成功本」だと思う。表面的な「デキる人的にふるまうテクニック」は本質的なものではなく、ものの考え方、適切なself esteem(自己有価値感)を持つ事から始めて、人格の幹をきちんと確立する事が重要で、その上で手帳や時間管理等のテクニックを活用して初めて生きて来る、と言った真っ当で良心的な内容が書いてある。



道は開ける


・・・成功哲学本としては定番の一冊だが、「最悪の事態を想定し、受け入れて、対処法を考えて、行動する」と言った思考特性は相場をやる上でも重要な事のように思う。



夢をかなえるゾウ


・・・千里の道も一歩から、日常の小さな生活改善の積み重ねの重要性について確認出来る本。



○その他諸々。

図説 風水大全


・・・日本で風水を持ち出すと往々にして変人扱いなので注意が必要だが、香港等では金融と風水と言う組み合わせは極めて自然であり、HSBCのビル等も風水に基づいて立地、設計が決められている。本書は比較的基本的な内容が押さえられて居るので、この位知っておいて損はない。基本線はまあ、適度に陽当たりや風通しが良く、崖崩れや水害等の災害のリスクが無い程度に適度に山や水が周囲にあって、適度に解放感があると同時にプライバシーが守られて居る、と言った感覚的に心地よい家は風水的には悪く無い訳だが、色々勉強になる。



日本に足りない軍事力


・・・著者は、「多分多くの人がテレビで見た事のある、髪型が驚きの1:9分けのアノ軍事評論家」である。髪型の話はさておき、内容は日本の防衛関連について、感情的な要素を排して淡々とリサーチしてあり、勉強になる。直接相場の足しになる事は余りないのだが、防衛関連について基本的な知識があると、国際政治等考える際に参考になる事がある。著者は既に逝去されており、個人的に大変に残念である。冥福をお祈りしたい。




・・・これは相場云々でなく、趣味の世界。まず、端的に美人である。実際は日本人だが戦中は中国人スターとして活躍し、戦後に死刑を間一髪で逃れ、戦後はアメリカや香港でも映画出演している等、事実は小説よりも奇なり、を地で行っているようなドラマティックな人生である。また、戦中の満州の状況のノンフィクションとして読むのも面白い。登場人物は、甘粕正彦に川島芳子等等、歴史好きからすると正に小説のようなメンバーで、大変に面白く読める。時代の激変期にどう生きるのかについて、考えさせられる面もなる。



発酵道


・・・ストレスを溜めて競争競争で心身共に疲弊し切ってキリキリ頑張って稼ぐのではなく、自然の流れに沿いながらニッチに特化してビジネスとしても一定の成功を収める、と言うこれからの日本社会に求められる成功事例のケーススタディのような本。最近の筆者は酒を余り飲まないので最近は飲んでいないが、寺田本家の日本酒は実際大変に旨いし翌日に酔いが残らず、飲む事で書籍の内容の説得力が更に増すように思う。



風の谷のナウシカ


・・・これは映画版だけでなく、漫画の原作を全7巻読んで欲しい。例えば映画版だと、ナウシカが単純にマリア様のような性格造形で描かれているが、漫画の原作だともっと人間らしく、人間描写が深い。例えば、話の最後の方で、精神汚染で攻撃して来る相手が居て、「ナウシカ、あんたは自然と動物を愛でていい子ちゃんの積もりだろうが、あんたただのカマトトじゃねえか、戦争にも参加してるし、人だって殺してる、色んな人に迷惑もかけてさぁ」と言った、言ってみればネチネチ系精神アタックを仕掛けて来る訳だが、最終的には「うるせえ文句あっか、清浄と汚濁こそが人間だ」(言葉遣いはもうちょっと女性らしいが)と開き直っている。クシャナと言った主要キャラの造形も映画寄り原作の方がキチンと描き込まれている。また、「全にして個、個にして全」の王蟲を始めとした腐海の生態系の設定も大変に面白いし、その腐海の構造をナウシカがストリート生物学者さながらに奥深く分け入って探究して行くプロセスも、大変に内容が深い。


筆者も、相場の仕事をするにつけ、例えばバブルの生成と崩壊に中央銀行の蛇口の開け閉めが大いに関わっている事、景気予測は煎じ詰めると結局「市場参加者や企業、家計の心理状態に帰着される」と言う事、バブルの熱狂が悲劇を生むと共に人類の進歩やイノベーションのキッカケになっている事、等に気づいた時は、この漫画の世界に居るような気分にちょっぴりなったものだ。まあ立ち位置的には、「トルメキアなり風の谷なりドルクなりの一平卒」からの視点かも知れないが、物語をナウシカやクシャナを中心にして上から俯瞰して見る「神としての読者」からすれば一平卒は脇役だが、一平卒本人の視点から見れば自分が主人公である。有名/無名を問わず、マーケット参加者皆それぞれに、「他でもない、その人の物語」があるものだ。


ちなみに、「バブルの熱狂が悲劇を生むと共に人類の進歩やイノベーションのキッカケになっている」と言うのは多少分かりづらいかも知れないので解説しておくと、こんな感じである。


1、中央銀行がマネーを大量に刷る。


2、銀行の乗数効果で効果が増幅される。銀行は増幅器の導管の役割を果たす。しばしば「銀行株が冴えないうちは相場全体は中々上がらない」と言うのは、詰まる所銀行が貸出を増やして、借りた側が設備投資を打ったり、株だの不動産だの金融商品だのを買ったりすると言う乗数効果が効いてくれないと、金融緩和の効果が出ないからである。


3、不動産、光ファイバー網、コモディティ、証券化/デリバティブブーム等、その時々の投資テーマに大量に余剰マネーが投下される。アセットクラスは、ジャンクボンド、株、コモディティ市場、不動産、デリバティブ市場等、様々。地域も、過去のバブル期には日本も対象になったし、中国、シリコンバレー、その他新興国等等とその時々のテーマで異なる。ここで情報、リサーチ感度の鋭さが求められる。後で振り返れば後講釈は簡単でも、事前に、あるいは過程が進行中に現在進行形で「次のバブル/バースト分野」に気づいてインテンシヴにリサーチするのは結構難しく、常に心の準備が出来ている必要がある


4、多くの人々が熱狂し、バブルになる。


5、中央銀行の金融引き締め、時代を代表する企業の墜落(例:エンロン、ライブドア等が好例)等により、人々の熱狂が一気に醒め、バブルが崩壊する。


6、バブルの頃に資本が大量投下された不動産や光ファイバー網、人材等は設備過剰となり、打ち捨てられる。こう言ったバブル崩壊銘柄が短期的に元の水準まで復活する事はない。バブル期に「天井なしに需要が伸びる」と言う前提で投資がなされてしまっているため、供給過剰は中々解消しないからである。


7、バブル崩壊で大やけどを負って消えてゆく者も多数出る一方で、「バブルによって過剰投資されて供給過剰になったインフラを土台として」あらたな進歩やイノベーションの芽が出て来る。つまり、不動産バブルの結果供給過剰になり安くなった不動産家賃のお陰で、ベンチャーを安価な家賃で起業出来る。ITバブルの結果過剰投資されて余剰となった光ファイバー網のお陰でインターネット網を無料に近い安価で常時接続可能になり、それにより楽天やグーグル等の新しいサービスが生まれるキッカケになる。この頃には中央銀行も金融緩和をかなり行っており、資金調達環境が徐々に改善して来る事もこれら企業を後押しする。


・・・と言った案配。何と言うか、「ナウシカで言う腐海のような、えも言われぬ独特の生態系」が、金融市場と言う腐海と実態経済の間で営まれている感じがするなぁと筆者的に思う訳である。(読者に果たしてニュアンスが伝わっているかどうか、自信が無いけれども)


腐海の森を焼き払ってはだめ、一見人間に害でも、森は汚れた土壌を浄化しているから。

王蟲を攻撃しては駄目。一見人間に対して攻撃的に見えるけれども、あの子達は全にして個、個にして全(量子物理のような世界観である)で、土壌を浄化する腐海の森を守っているから。


これがナウシカの気づいた結果であるならば、相場においては、こんな感じだろうか。


金融市場と言う腐海のバブルとその崩壊を否定してはその本質は見えない。人間はバブルに熱狂するから愚かな事もするしバブルが崩壊すれば多数の不幸も生まれるけれども、人間は熱狂するからこそ、イノベーションも起きるものだから。皆が古典派経済学者の想定するような冷静太郎や興醒め花子じゃ、過去を一足飛びするようなイノベーションも生まれないのだから。

ヘッジファンドを頭ごなしに否定し攻撃しているのでは、その本質は見えない。彼らは一見攻撃的に見えるし、彼らが全にして個でも個にして全と言う程ご高尚な存在なのかどうかは正直知らないけれども、少なくとも彼らのリスクテイキング活動もある事で、全体として進歩やイノベーションが促されていると言う面もあるのだから。


ナウシカの原作を相場関連書籍としても推奨するのは、こう言う事について考えるキッカケを得られるからである。ナウシカが腐海遊びが好きな様子も、気持ち的には良く分かる。筆者も、まだまだマーケットの腐海の入口程度を見たに過ぎない。日本が世界に誇る巨匠、宮崎駿って深いなあーと感嘆する事しきりである。



・・・こんな所で。皆様良い週末を。

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