2010年11月19日金曜日

シンガポールレポート:日本株の調査環境について。

シンガポール滞在後最初の週末を迎えた。まだまだ色々立ち上げは必要だが、仕事のインフラも徐々に整って来て、ちょっと一息である。

家のインフラも、最低限は整って来た。壊れていたエアコンや、家の中丸見えだった状態からカーテンも付けられた。風水アイテムのサンキャッチャーやウィンドチャイムも然るべき場所に付ける事が出来た。

さて、前置きはこの位で、今回は題名の件について。
一般のかたには余り興味がないかも知れないが、内輪同業者で見て頂いているかたも居る事が最近判明した。同業者諸氏にとっては興味のある事ではないかと思うので、簡単に記載しておこうと思う。


○シンガポールから、どの程度日本株の調査が可能なのか?

結論を言えば、どの程度調査が可能なのかと言えば、「運用戦略にもよるが、殆ど日本に居るのと同じ感覚で調査可能」である。

まず、IT関係のインフラは殆ど日本と環境は同じである。Bloomberg、インターネット環境、普通のPC環境、四季報CD-ROM位があれば仕事が成立する筆者としては、何の違和感もない。

セルサイドとの連絡も、ほぼ日本に居るのと同様に出来る。e-mailだとメールが届くのが数時間遅れる事もあるが、Bloombergのchatやmailだと殆どラグはない。レポート等も普通に閲覧可能な環境を確立出来る。アナリストやエコノミストとのミーティングもPDFファイルのパワーポイント資料を送って貰ったり、テレカンしたり等で簡単に出来る。セルサイドは、野村、みずほ証券等の日系大手証券でもシンガポールにオフィスを持っているし、外資の場合も会社によってはシンガポールオフィスからフォローしてくれる。シンガポールにオフィスが無い場合も東京オフィスから対応してくれる。

日本語の書籍や雑誌、新聞もシンガポールでも簡単に手に入る。Orchardと言う日本で言えば銀座に相応するような中心街に、紀伊国屋書店が入っている。Amazon等で買い物する事も書籍であれば多少送料は高いようだが概ね可能なようである。四季報も手に入ったし、経済雑誌も定期購読も可能だし、本屋で単発での購入も可能だ。新聞は日本経済新聞の電子版を使えば良い。新聞レイアウトで見る機能があり、違和感はない。

主にインターネットの普及により、基本的な調査インフラについては、日本で調査するのと何の違和感も無い、と言うのが筆者の印象である。


○シンガポールから調べる際の利点と欠点は?

まず欠点から行ってみよう。


*取材や決算説明会への参加が出来ない。

特に株でボトムアップドリブンでやられるかたにとっては、「取材や決算説明会出席はどうするの?」と言う点が気になるだろう。これについて筆者の考えを幾つか書いておこう。

感覚的には、Web開示資料で予習+テレカンで充分だと言うかたであれば、日本に居るのと殆ど変わらないだろう。筆者の場合、殆ど違和感は感じない。

決算説明会には確かに出られない。
しかし筆者的には、同業者が何百人も同じ話を聞いていて、特に大型株はセルサイドだって決算の模様をレポートにするし、会においてはプレゼン資料や短信の内容をリピートするので1時間内外使うような決算説明会に出る事でどれほどのValue Addがあるのかについては疑問に思っているタイプである。そのため余り気にはならない。気になった事があれば、個別にテレカンで聞けば良いと考えている。聞いているだけより質問する方がちゃんと頭を使って会社に意識を向けられるので良い面もある。

取材が出来ないと言う面に関しては、「オフィスの雰囲気」「受付が美人の姉ちゃん過ぎないか」「本社ビルがゴージャス過ぎないかどうか」等の、「訪問するから分かる情報」については、シンガポールからの調査だと捨象する事になる。中小型株を手掛ける際等にはこの辺が気になる諸氏もいらっしゃるかも知れない。

しかし、筆者の場合既に日本株の調査については殆ど一周してしまって居て、僭越ではあるが日本株であれば応分の土地勘も既にある。余り気にはしていない。むしろ、「海外からのテレカンに真摯に対応してくれるかどうか」と言ったソフト情報でもって会社の判断をする、と言った新しい評価方法も考えられそうだなと感じている。

どうしても気になるのであれば、決算シーズンだけ東京に出張するのも良いと思う。実際そうしている同業者も居る。ただ、筆者については上記の通りの考え方なので、取材のために東京に出張すると言うのは現状の所考えていない。決算説明会にせよ取材にせよ、1日で回れる会社数は数社が良い所である。移動時間もある。筆者については「物理的に距離が離れているからこそ出来るアプローチ」を開拓したいと考えている。


*日本の季節感が把握しづらい。

これは残念ながら否めない所である。小売の月次など、気温や天候が重要な事柄でトレードなり投資なりを考えている際は、難しい面もあるように思う。日本に居れば、猛暑だからダイキンやビール会社が良いなとか、天候が冴えないのでアパレル小売の月次は今月ダメだろうなとかが自然と浮かんで来る面があるが、シンガポールではこれはしづらい。なんせこちらは一年中気分良く夏、と言う感じである。今は雨期で、今もスコールが降って雷が鳴っている。

上記のようなトレードをやられたい向きのかたの対処法としては、体感が伴わないので多少不利ではあるが、Webで定期的に気温や降水、日照時間推移等を観察する事になるだろう。また、テレカンでアパレル小売系の会社等に頻繁に月次の推移等を聞いておけば、大まかな所位は把握出来るようにも思う。


さて、次は利点である。


*閉塞感、煮詰まり感と言うものが全くない。

これはシンガポールに来て一番良いと思ったポイントである。

日本に居ると、マスコミやら電車内の週刊誌の宙づり広告やらはどうでも良い話や余り前向きとは言えない記事で世間を満たしているように思う。日本に居た頃はそんなに意識しなかったが、外に出るとこれは本当に歴然として良く分かる。シンガポールには、これが無い。電車の中吊り広告で、英語で政治家の批判や芸能人のスキャンダルのお題等が書いていたりはしない。まあ、マスコミはかなり情報統制されているようなのでそれもあるんだろうけれども、日常生活の感覚としては、余りネガティブワードばかり見ないで済むのは有り難い事だ。

日本の場合、人と経済や政治の話をしていても悲観的、批判的な話が多かったように思う。しかも他人事で考えて居て、当事者意識がない場合も多い(自分自身が今ここでほんの微小でも世の中を良くするために何が出来るか、と言った視点が欠けがちだと言う事)。これも外に出てみて歴然とする。

例えば日本に居ると、同業者と話をしていると、煮詰まった話が少なくなかった。あるいは楽しいとあまり思えないような会話が多かった事も、とても残念な話ではあるが、否めなかったように思う。同期の誰それがMDになったとか、どこそこがリストラしてるとか、統合再編で社内政治関係が面倒とか、他人との比較とか、カネの話とか、社内の非合理不都合の話とか。

言ってみればまあ、「経済的なピッツァの円いパイの8割9割がたを既に食べ終わってしまっていて、パーティは終わってしまっているんだけど、お暇するチャンスを逃して何となく気まずい気分が残りながらも場に残って居て、残りの1−2枚の冷えたピザの取り合いと言うか椅子取りゲームをやっている」と言った雰囲気、とでも言おうか。(こう言う雰囲気から距離を取りたかったので筆者は日本に居た頃も最後の方は湘南に引っ込んでいたと言うのもかなりある)。

一方で、シンガポールに居ると、都会でありながら、湘南と負けず劣らず、こう言った話と殆ど全く関わらなくて済む。街は活気に満ちており、ヒトモノカネの交差点としてマネーや情報、ロハス金融マン的あるいは風水的に言えばある種の「氣」が円滑に大量に流れている。気候は南国的で開放的。週末は日本の国内旅行の感覚でタイやプーケット、マレーシア、インドネシア等近隣の国にショートトリップに安価に行ける。インドネシアのビンタン島にはフェリーで50分位で手軽に行ける。でもって、週末エンジョイ出来るように平日は集中して仕事に励む。アジア近隣各国から優秀な人材が集まる事もあり年収水準は日本対比で高いとは言えないものの、不動産の家賃以外は物価も存外高くなく、税率も低いためそんなに高給取りでなくても比較的上質の生活が出来る。

上手く言えないが、こう言うライフスタイルを自然と過ごそうと言う気分にもなり易いし、こう言うライフスタイルが過ごせる環境も整っているのである。南国に鬱は少ないと言った統計も確かあったように思うので、気候等も影響しているのかも知れない。余り批判的にならず、開放的な気分で自分自身が今出来る事なり貢献なりをきちんとやって、何より人生楽しもうよと言う雰囲気になりやすい環境がある、と言うか。シンガポールの一番素晴らしい点はこれだと思う。


*適度な距離感により、客観的に相場を見る事が出来る。

セルサイドからの頻繁な電話等が余り来ないし、煮詰まり気味の同業者から始終ネガティブな話ばかり聞かされる必要がない。情報も日本語だけでなく英語で結構はいってくる。結果として、「適度な距離感、適度に客観的な状態」で市場と接する事が出来る感じがする。筆者的に、これが結構気に入っている。


*「パンアジア全体からの視点」が涵養されやすい気がする。

例えば、スーパーマーケットに行ってみる。ユニリーバ、コルゲート、P&G、ネスレ、ケロッグと言った欧米消費材メーカーの製品、中国のYaoだかYeo何たら言う飲料や中国で有名な上場企業でもある味千ラーメンのチェーン店、日本の花王やライオンやマンダムだの商品やら明治乳業だポッカだの飲料、セブンイレブン、SoyJoy(今般上場する大塚ホールディングの製品)と言ったものが、英語、中国語、日本語表記ごちゃまぜで置いてある。アジア圏の中で既に新興国から脱皮して先進国になっている国のある種の縮図のようなものを体感出来る。

これによって自然と、「マンダムの髪型の提案は、現地のシンガポーリアンで良く見る髪型のニーズとちょっとズレてる感じがするな」とか、「日本の製品はちょっと値段が高いな」とか、「明治乳業の乳製品って結構シンガポールで見るね」とか、「欧米企業、中国企業等とも競合するので、日本の消費材市場が海外参入するには工夫が要るだろうな」とか、「シンガポールって案外インターネットショッピング環境がローカルで整ってないな、楽天シンガポールとかあって欲しいな、でも国土自体琵琶湖と一緒、東京23区位だから買い物も短時間に狭いエリア回って完結しちゃう面もあるな」とか、色々な「アジア消費市場に関する情報」を、感覚的に浴びる事が出来る。

日本企業もアジア進出、新興国進出と言うのが重要な長期テーマになっている事もある。日本の決算説明会や取材に直接行けない、と言った不利さを補うに充分な「感覚情報」がここにはある。

また、不動産業者等と話すと、インドネシア人の成金がシンガポールでクソ高くなった不動産を買っていると言った話も聞けるし、友人と話せば「中国かどっかの大手海運会社が、シンガポール中心地の高級マンションに投資して貸してる」「日本で言う億ション、しかも億の前半ではなくて後半のマンションが建っている」と言った話が自然と耳に入って来る。空中のコンクリートで区画された四角い箱に対して5億円も10億円も払うと言うのは、筆者の感覚で言うと理解に苦しむ。理解に苦しむ段階に入って居る投資対象と言うのは、注視すると面白い。

インドネシア人の成金の話は、これと合わせてインドネシアの長期金利が上昇し始めているとか、某社のインドネシアの10月月次が悪かったですとか言う情報と合わせると、ちょっとインドネシアはCautiousだなとか、結構面白い示唆を得たりする事が出来る。

海運会社がノンコアビジネスで不動産をやっていると言うのは、ちょっと過熱感を感じる話だし財テクに走ってる時点で日本のバブルのいつか来た道と言う感じがするんでこの海運会社に投資がしようとは思わない。

億ションの話も、Fedのじゃぶじゃぶ金融緩和がシンガポールの億ションに化けているんだなと言う事が実感出来、グローバルマネーフローを考える上では案外参考になる。日本はもはやグローバルマネーフローの中心地ではなく辺境国になろうとしている事もよく実感出来るし、一方で日本の低金利や不動産の利回りの高さなんかに注目する海外投資家が出て来てもおかしくないな、でも日本の経済成長率、人口成長率の面を考えると、単純に利回りで比較する事は出来ないな、株で言う所のPER(利回り)=d(配当性向)/(r資本コスト-g成長率)のGrowth、gの所のサジ加減の入ったValuationが不動産でも付いていると考えられるな、等と色々な思いが去来するものだ。

言語的にも、英語、中国語、たまに日本語が飛び交っている。シンガポーリアンは、「英語と中国語のバイリンガル」と言う、当面最も市場価値の高いであろう要素を、見事に簡単にクリアしている。でもってファイナンスとか統計とかに詳しい訳である。日本でこのレベルの人材がどれだけ居るだろうか。筆者も「このレベル」に全く至って居ない。こりゃ中国語は必須だな、中国語を学習する機会はぜひ持ちたいものだ、試せる場所や相手にも困らないし、等と言う自覚も客観的に明瞭に持てる。グローバル金融市場における日本人の価値、自身の価値と言うのが客観的に見えると言う感じであろうか。

こう言うのが、シンガポール拠点で仕事をする良さである。

では、皆様良い週末を。

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