2011年6月24日金曜日

アナリストJobの変遷その4:バリュエーション至上主義から中小型株ブーム、アクティビストブーム等によるヘッジファンドの台頭へ。

さて、今までの所で、DCFによる企業価値評価の問題点を肴にしながら、大量にバイサイドアナリストを抱えた大手ロングオンリーがどのようにして退潮して行き得るのかについて雑多に書いていったように思う。

これで次の議論を進める準備が整ったので、次は題名の通り。バリュエーション至上主義から、中小型株ブーム、アクティビストブーム、またこれらの運用戦略を行う器となったヘッジファンドの台頭と言ったトピックである。

90年代の終盤に黎明期を迎え、2000年代の前半〜中頃までにかけて大手機関投資家が煮詰まり感を見せる中で台頭し、アナリスト人材の受け皿にもなったのが、中小型株ブーム、アクティビストブーム(後述するがこれも広義では中小型株ブームの一つと見なせる)であり、これらの運用スタイルを機動的に行う事が出来たヘッジファンドである(アクティビストファンドも成功報酬等のフィー体系等考えるとヘッジファンドの一つと考えて良いと思う)。今回からはこれらのトピックについて徒然に書いて行こうと思う。

さて、元々は中小型株と言うのは、位置づけとしてマイナーな立場にあった。
理由としては、兆円単位の資金を運用する大手の機関投資家では、時価総額が数百億円あるいはそれ以下しかないような銘柄を買う事は出来なかったからである。このため、アナリストが中小型株まで調べるニーズと言うのは、年金基金からの受託を中心としたロングオンリーの運用では余り無かったのである。

この点について理解するために、簡単な例を挙げて説明する。
例として、主に年金基金等から受託した1兆円の日本株ファンドを運用する事を考えてみる。
実際には等金額でポートフォリオを組むと言う事はないのだが、ここでは話の単純化のために、1兆円を等金額で200銘柄に分散したポートフォリオを組むとする。この場合、1銘柄につき50億円の株式を買い付けないといけない事が分かる。

ここで投資先である上場企業側からこの事について考えてみる。時価総額が100億円の会社を50億円買ったら、過半保有する事になってしまう。議決権の過半を持ったらそれは会社を経営すると言う事になるし、売却しようと思ってもマーケットインパクトをかけずに短期間で売却するのは先ず無理になる。純粋なポートフォリオ運用でこれは非現実的である。半年とか1年とかの単位で売買出来ないと困る訳であるし、そう言う意味で経営にまでコミットしなければならない状況と言うのも困る訳である。

時価総額が1000億円の会社でも50億円買えば発行済み株式数の5%を保有する事になり、大量保有報告の義務が発生する。世間に自らのカードの手の内を晒す事になってしまうので、相当自信がある時で無い限りはこれは避けたい。

そんなこんなの事情を考えると、いわゆる大手のロングオンリーの機関投資家の最低投資金額の目安は(運用資産額や運用スタイル、運用会社によって多少の違いはあっただろうが)概ね1000億円以上、と言った所が標準だったのである。つまりバイサイドアナリストの調査ユニバースも時価総額1000億円以上と言うのが普通であった。実際には時価総額2000-3000億円程度でも「サイズとしては小さい」「若手に調べさせておこうか」と言う扱いだったように思う。

また、ベンチマークをTopixとして、これにアウトパフォームすると言ったゴール設定のファンドがロングオンリーでは過半であると言う事情もある。つまり、Topixで上位の比率を占めている、銀行、自動車、電機等のセクターで主要な部分を占める銘柄においていかに上手くやるかと言うのが、対Topixでの敗者のゲームをやらないといけない大手ロングオンリーの宿命でもある。

そう言う事もあるので、主にはトヨタにキャノンにソニーに新日鉄に花王にファナックに、と言った顔ぶれを調べるのが大手ロングオンリーの仕事であり、大手バイサイドのアナリストの仕事であり、そう言ったバイサイドにレポートを書いたり売買手数料を貰ったりする証券会社の仕事でもあった、と言って良いであろう。

そんな訳で、元々は中小型株の調査についてはマイナーな位置づけであり、せいぜい株式分析を学ぶための題材として手頃なサイズの中小型株を新卒の若手に調べさせて、OJTの研修代わりにする、と言った位置づけだったのである。

これは運用会社だけでなくセルサイドでも同様であった。ロングオンリーの運用会社側で中小型株調査のニーズが無かったと言う事は、運用会社にサービスを提供して手数料を稼ぐ側であるセルサイドの証券会社側でもニーズは余り無かったと言う事である。セルサイドアナリストにおいても中小型株と言うのはマイナーな位置づけで、地位の高いものでは無かったのである(ちなみに、中小型株ブームの中で一時期中小型株アナリストの地位は高まったが、今は再度地位が下がって元に戻ったように思う。あるいは売買手数料等の低下に伴い、証券会社側で中小型株のアナリストにリソースを割ける余裕が無くなっているとも言える)。



しかし、上記のような状況「だからこそ」、中小型株に注目する人々が出て来た。

証券会社も大手機関投資家も調べていないと言う事は、そこを調べればアルファが取れるのではなかろうか。市場に織り込まれていない情報があるのではなかろうか。割安に放置されたままの優良企業が沢山あるのではなかろうか。また、中小型株アノマリー(長期で見れば大型株より中小型株の方がリスク調整後でもリターンが良いと言うファイナンスの研究)も狙えるのではないか。ここで稼ぐ事が出来るのではないか。ヘッジファンドとして小さめの資金で機動的に動けば、上述の大手機関投資家のような問題も少なくて済むだろう。

こう言った発想で中小型株に取り組むヘッジファンドが出て来たのである。狭い世間過ぎるので実名は余り挙げないでおくが、ニュース等でも紹介された一般的な情報から有名な所では、100億円部長を輩出したT投資顧問等は、一般のかたでも聞いた事のある所と思う。

また、当時アクティビストファンドをやりたかった人間、例えば村上ファンドの村上氏等にとっては、中小型株の方が好都合であった。

つまりトヨタだのNTTだのに経営改善を促せる程の株を持とうと思ったら、単位が1銘柄で数千億円とか1兆円のオーダーになってしまう。独立して最初にファンドを始める時のサイズは、数十億円〜良くても数百億円位のサイズである。

そう言った限られた資金で、分散効果がある程度効いて来る最低でも10銘柄位には分散投資して(ものの研究では、確か15-20銘柄程度でポートフォリオ分散効果の8割がたは実現出来、余り銘柄を分散し過ぎるとメンテの手間等ばかりかかるので良くない、と言った調査がある)、かつ経営陣に経営改善を促せる程度の発行済株式総数に対する比率を保有しようとなると、中小型株がターゲットになるのである。時価総額で例えば300億円〜大きくて500億円以下位の銘柄で、1銘柄辺り発行済の5-20%の間位で10-30億円位の保有で、10銘柄保有して200-300億円程度のAUM(受託資産)を運用する、この位のイメージ感である。

更には、上記の通り証券会社のリサーチも入っておらず、IRや株主対応、財務政策等も上場企業としてはだいぶ素朴過ぎるような会社、改善余地のある会社が中小型株の分野には多数あった点も好都合であった。村上ファンドが当初昭栄等の銘柄でアクティビスト活動を行って居たのにはこう言った背景がある訳である。

時期的には、1990年代の後半位が、上記のような流れが起きる「黎明期」であった。実際には運用金額も小さく、知名度もなく、「こう言う分野をやればリターンが取れるんじゃないかな」と言った思いつき〜少額で始めてみた、と言う段階である。

そして2000年代に入り、大手ロングオンリー等がITバブルの崩壊、年金基金の代行返上に伴う大型株の集中売りや委託運用解約等に苦しむ一方で、日銀は大規模な金融緩和を継続し、世間にマネーが大量に供給される中で、上述したヘッジファンドやアクティビストファンドが台頭する舞台が整えられたのである。

どう言う事かと言えば、大手ロングオンリーが没落していく中で機動的に動けるヘッジファンドや、日本の株式持ち合い構造等で立ち後れたコーポレートガバナンスを改善する事でロングオンリーでは取れないリターンを取ってみせる!等と言うマーケティングをするアクティビストファンドに投資しようと言う人間が出て来る状況が整って行ったと言う事である。また日銀のゼロ金利政策に代表される強烈な金融緩和の継続が、後に中小型株と言ったマネー資本主義の「末しょう神経」「毛細血管」にまでマネーが大量に行き届く下地を作ったと言う事である。

村上ファンドも、ホリエモンも、100億円部長も、マクロ的な視点で見ればこう言った背景の中で出て来る事になったと言う訳である。

そして上記のような状況変化は、筆者のような無名の末席アナリストの雇用環境にも確実に影響して、変化をもたらした。

筆者の体験談等も含めた詳細の話は、またの機会にでも。

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