2011年6月10日金曜日

○アナリストJobの変遷 その3 DCFの限界について続き 〜限界リターンの逓減、縦割り大規模運用会社の問題点等徒然に〜

さて、たまにはアレだ、真面目な話を更新しよう。
今回は、題名の件について。

前回で、DCF至上主義の終焉と、その背景としてDCFには実務上の問題がある事、特に「変数が多過ぎる」事についての話を書いた。今回はこれの続きである。そうは言っても、基本的にDCFの問題点とは「変数が多過ぎる」と言う事に尽きると筆者は考えて居る。前回述べた「DCFは説明のツールとしては良いがリターンを打ち抜くツールとしてはファジーだ」と言った事もこれに派生して導かれる結論であるし、今回これから述べるのはそれから派生的に生じて来る問題である。


2、「作業の投入量に対して、得られるリターンが見合わない」と言った状況になりがち。

ああ、殊勝にも仕事の外でパワポなどいぢってしまった 汗。
さて、まずはスライドで事の概略を示しておく。これを踏まえて以下の説明を続けたい。

「変数が多い」ので、DCFを真面目に詰めようとなると、時間や人手(しかもソコソコ人件費のかかる専門職の人手)がかかりがちである。その一方で、前回述べた通り、「DCFは説明のツールとしては良いがリターンを打ち抜くツールとしてはファジー」なので、時間や人件費等の資源を投入する割に相場から得られる超過リターンは少ない。こう言った事になりがちなのである。この点については、筆者が以前働いて居た、外資系グローバルバイサイドでの経験を具体例として述べておきたい。

筆者が最初に入った外資系グローバル運用会社では、壮大な実験が行われていた。グローバルに100名以上のセクターアナリストを配置して、DCFに類似のキャッシュフロー予測を現在割引価値に引き直す類いの社内オリジナルの財務モデルを、グローバルに全く同一のテンプレートで作成させ、ここから得られた数値をグローバルに比較して、グローバルに割高割安を比較して、そこから超過リターンを得る、と言った試みが為されていた。また、このDCF類似のキャッシュフロー予測のモデル開発のために、クオンツやエコノミストの類いまで配置されていた。

アナリストは、前回述べたようなファイナンスの専門知識が必要である。特にのれんの処理とかリース会計回りとか退職給付債務をどうするかとか細かい所までキチンとやって、更には担当業種に対する一定以上の知識水準があり、取材やレポート書きもきちんと出来ると言う水準を求めるとなると、応分にお金を払って雇わないといけない。更にはグローバルに英語でやり取りの出来る必要もあるので人件費も一段上がる。そんな訳で、一流MBAやセルサイドから相当の人件費を払って100名以上リサーチ人員を配置していた。また、財務モデルの細かい所まで詰めるために、新卒のジュニアアナリストまで上司に付けていた(これの一員として筆者は新卒でこのチームに加わった訳である)。バイサイドでこれは、今考えるとちょっとあまりにコストのかけ過ぎであった(注1)。

また、今考えると、たかがDCFで、それをデータベースにぶちこんでグローバル比較出来るようなインフラを作るのにクオンツが必要だったか疑問だが、クオンツも雇われていた。世界中のアナリストが作ったDCFをグローバルで共有出来るIT回りのインフラを作ったり、DCFのモデルのテンプレート自体を作成するのが仕事だった。また、資本コストの推定の所等でそれなりに理屈の通ったロジックを考える事等も彼らの仕事でもあったように記憶している(注2)。

更には、グローバルでDCFを作成して横比較するとなると、投資する各国のターミナルグロースについてもきちんとした推定を持たないといけない。ここはエコノミストがやっていた。ターミナルグロースの推定を、概ね各国の潜在GDP成長率の推定と言う問いに置き換えて、マクロ経済の状況なんかからここの予測を行っていた。主に欧米の一流大学の経済学部で修士や博士を取ったような人々が、こう言う議論を延々していた。

しかし、上記のような学歴も知識水準も人件費も高い人々が日夜大量の時間や手間を割いて出て来るアウトプットが、前回書いたような「DCFは説明のツールとしては良いがリターンを打ち抜くツールとしてはファジーなもの」でしかなかったのである。

説明力と言うか顧客に対する説得力はあった。上記のようなゴージャスラインナップで、グローバルに統一されたフレームワークで、アナリスト、クオンツ、ファンマネ、エコノミスト等がコラボレートして、アルファが出るんです、と言った説明を、これまたMBA出のお偉いなんかが美麗なプレゼンでロジカルに説明すると、そのグローバル運用会社のブランドネームとも相まって、騙された、いや失礼、プレゼンに納得して投資する顧客が次々に出て来たのである。AUMは一時期もの凄く大きい額になっていて、そこから得られるマネジメントフィーは、上記に書いたような教育程度の高いお偉い様がたのお給料や、筆者のようなちんちくりんの研修費用として費やされて行った。

しかし、筆者の居た運用会社のリターンは全体として決して芳しい物にはならなかった。1−2年であれば「たまたまリターンが冴えなかっただけだ、我々のプロセス、陣容は完璧だ」と説明していれば良いが、3年ダメだと顧客からも見放される。チームは瓦解へと向かっていった。そして筆者も、(新卒直ぐで筆者の人件費も大した事はなかったし社内での立ち位置も以前書いた調査部の上の人等に適度に守られていたのでそんなに悪くはなかったが)転職を考えるようになった。崩壊に向かい、ニューヨークから首切りお偉が面談のために東京に訪問するようになり、ストレス等で周囲の病欠等が段々増えるみたいな後ろ向きな雰囲気漂う組織に長々居るのは中々にしんどいものだし、一人、また一人と解雇されたり前向きそうな職場に転職したりするのを見ているのはそれなりにテンションが落ちるものだ。そしてその何年か後に実際にチームは瓦解した。

つまりどう言う事なのかと言うと、この商売をやる上では、理論的にMBAや経済の修士博士課程で正しいとされている事を追求する以前に、「追加的一単位の人件費なり時間なりの資源投入に対して、追加的なリターンがどの程度相場から引き出せるのか」と言う事に敏感でなくてはならない、と言う事である。マニアックにやれば良い訳ではないし、知識があれば良い訳ではないし、精緻にやれば良いと言う訳ではないのである。ビジネスである以上、コストベネフィットを考えながら、「これに時間なり人手を追加的に使う事で、相場から引き出せるリターンがどの程度改善するか」を念頭に置きながら資源投入を行う必要があるのである(注3)。

前回書いた通り、DCFが全くムダな訳ではない。DCFを作成する過程でその業種に詳しくなれる、企業の収益費用の構造も見えて来る、バランスシートやキャッシュの使い道をどうするかが株式価値にどう影響するかについて理解を深める事が出来る。非常にファジーなレンジを取るとは言え、大まかに今の株価水準が多くの投資家にとって高いと思われる水準にあるのか安いと考えられる水準にあるのか等も分かる。こう言った事に対する理解は、ファンダメンタルベースで株式投資をするのであればあって悪くないFeelであり、ある程度までは便益もあるように思う。

しかし、筆者の上記の極端な例でも分かるように、ある一定の線を越えると、かける手間やコストに対してリターンが見合わなくなるのである。

アナリストに極めて精緻なモデルを作らせた所で、前回の通り変数をちょっといじれば結果は大いに変わり得るファジーなものでしかない。

クオンツに資本コストの推定などさせた所で、これは相場付きやグローバルに巡っているマネーやリスクアペタイト(つまり市場参加者の気分、感情)の多少で変動するしニュートン力学のようにバチッと一意に計算出来る類いのものではない。

エコノミストに潜在GDP成長率を膨大な計量経済学のモデルなんぞで計算させた所でだから何なのか。日銀や各国の中央銀行が公に言っている「うちの国の潜在成長率はまあ日本じゃ0.5%とか1%そこら(2-3%そこらin他の先進国、数%中盤〜後半in新興国)じゃないですか」等と言った結果を使う事と比較してどれほどの超過リターンが期待出来るのか。別にエコノミスト自体は個人としては優秀だと思ったし、悪い事をしている訳でなく真面目に職務に取り組んでいたと思うが、その最後のアウトプット先がDCFのターミナルグロースの推定と言うのでは、どれだけの付加価値があるのか筆者の感覚としては疑問であった。

更には、こうやって多数の分野、多数の部署の人間がDCF(あるいはその類似モデル)の作成に関わる事によって、「部署間で連絡したり情報共有したりする事に対するコストが上昇していく(=端的にはテレカン等による会議が頻繁に必要になる等)」「誰の責任で誰の投資判断を反映して作られたものなのか分からなくなる」と言った所があったのも問題であった。アナリストのキャッシュフロー予測やクオンツの資本コスト推定、エコノミストのターミナルグロース推定等が、まるで「個々の酒は非常に高価なんだが全体の味等考えずに無造作にシェーカーに突っ込まれてシェイクされて結果として不味いカクテルになる的な具合」に混ざり合い、微妙に香ばしいドドメ色の結果がグラスに注がれる事になる訳である。

そして、パフォーマンスが悪化すると、アナリスト、クオンツ、エコノミスト、実際にポートを組んでいるポートフォリオマネジャーの間で責任のなすり付けあい合戦が社内で始まり、どこの誰をリストラするかと言った話になり、ニューヨークから東京オフィスにも偉い人が来て面談(要するに誰を切るか決める面談だ)等するようになり、社内は険悪な雰囲気に包まれるのである。でもって、険悪な雰囲気が更に運用に集中出来ない環境を醸成し、パフォーマンスの悪化に繋がるのである(注4)。

そんなこんなで、「作業の投入量に対して、得られるリターンが見合わない」と言った状況になりがちなのである。冒頭のスライドなど見ながら、適度に参考にして頂けると幸いである。

何かアレだな、運用ビジネスの組織論みたいな話になって来たな・・・業界の中に居ると全く新味のない内容だと思われるのだが、まあそこはご容赦頂ければ幸いである。こういうのはアカデミックさのかけらもないが、実務の現場に居るから書ける事と思うので、学生さんや業界外からこの商売に参入されたいかた等、外部のかたに微力でも参考になれば幸いである。


(以下注釈)

(注1)しかしまあ、このグローバル運用会社のコスト配分の間違いのお陰で筆者はこの業界に入る事が出来たので感謝はしている。以前にTwitterで、「国の移民等でドアがいつまでも開いている訳ではない」と言った事を書いたが、こと仕事についても同様である。業界に潜り込んだりするのも、いつもドアが開いている訳ではない。今回のブログで書いたような「グローバルバイサイドのジュニアアナリスト」と言った、キャリアの最初の学習期間として持ってこいのようなポジションが現在も新卒、しかもMBA卒でもなく大学時代にファイナンス等勉強していた訳でもない素人の若者にキャラ採用で開放されているのかと言うと、中々難しいのではないかと思う。アノマリーはいつまでも続く訳ではないし、道端に1万円札はいつまでも落ちている訳ではない。道端に1万円札が落ちていたら、拾えるうちに早く拾うのがいい。

(注2)国家間の資本コストについては、以下の書籍に詳しく書いてある。先進国の株式リスクプレミアムは3%〜5%位だかで過去推移してました云々等。「趣味的な研究です」と言ってしまえばそこまでだが、よく調べたなあと思う。実務に忙殺されているとまずこう言う風に「リターンに余り繋がらない事柄で、データを大量に渉猟して論文を書く」と言う事は出来ないので、有り難いように思う。こういうのは研究者の仕事と思う。

証券市場の真実―101年間の目撃録 [単行本]


(注3)この辺に対するセンスの有無と言うのは、プロフェッショナルとしての水準感を測る上で結構参考になる。この辺に対する理解がないと、枝葉末節に入り込み過ぎていて相場の株価と向き合う気概の感じられないバイサイドアナリスト(セルサイドアナリストは知識量を売りにするのもアリだとは思う)、細かい数学/統計知識の増大に余念がないがこの人は大学のゼミで研究でもしていたいのであって相場からリターンを引き出す事には興味がないんじゃないかと傍から見ると思ってしまうクオンツ等、「実戦で余り機能しない感じの専門家」がぼちぼち生産される事になる訳である。とは言え大手であれば、いつまで続くかは筆者の知る所でも述べる所でもないがこう言った人材を抱えられるのかなあとも思うし、顧客の前で喋らせたりすれば何となく説得力が出たりする側面もある訳で、全く価値がないと言う訳でもないのかなとも思う。

一方で、規模の小さい運用会社で働く者やヘッジファンドで仕事をしていてかつそれなりに機能している人々は、概してこの辺りに対する実務家としての現実的な感覚があるように思う。

そして、筆者が他の所で、ヘッジファンドにシフトするなら遅くなり過ぎない方が良い、と言うのもこの辺りが関係している。大手の運用会社とヘッジファンドでは仕事の仕方や求められる資質が結構異なるし、セルサイドアナリスト等とヘッジファンドでも同様の面があるように思われるのである。

(注4)こう言った経験があるので、筆者は運用商売におけるトヨタ式かんばん方式流れ作業的な縦割り分業には懐疑的であり、ハーレーダビッドソン、ガンダムやエヴァンゲリオンのパイロット等の類いの「セル生産」が良いのではと考えるに至った面はある。プロセスに裁量を与える一方で結果責任も明確にし、運用やリサーチの工程、結果としてのアウトプットであるパフォーマンスの権限責任の所在を個人に帰属させる方式の方が、この商売では馴染むように思うのである。

4 件のコメント:

  1. 高度な内容なので十分に理解できてるかはわかりませんが、
    仮にDCFで適正な価値を算出できたとしても、マーケット価格が適正な価値から乖離する状況が数年続くこともあるだろうから、短期でパフォーマンスを求められるとしたらそもそも(商売的に)成り立たないような・・・と素人的には思ったりします。

    マーケット価格と価値についてどういう投資哲学で取り組まれたプロジェクトだったんでしょうか・・?

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  2. 投稿有り難うございます。仰る通り、タイムホライゾンの問題は、この手のやり方ですと問題になります。非常に良い点を指摘されていると思います。

    さて、「マーケット価格と価値についてどういう投資哲学で取り組まれたプロジェクト」と言う質問にまず回答しますと、本文の例はロングオンリーの運用であり、仕事では概ね、数ヶ月〜18ヶ月位目安(でも現実的には概ね数ヶ月〜1年以内位では価格が価値に収斂して欲しいなぁ)と言った所だったように記憶しています(結構昔の話なので、覚え違いで違っている可能性もあり、その場合は恐縮ですがご理解頂きたく)。

    しかし一方で、ss様ご指摘の通り、ロングオンリーでも四半期に一度位は顧客や年金コンサルから査定が入ります。四半期毎に設定解約の意思決定をされる資金を、最大18ヶ月のタイムホライゾンで運用すると、齟齬が生じます(証アナのALMの議論等も参考にして頂けると幸いです)。

    例えば、「長期投資」「バフェット投資」等を表面だけ崇拝する運用会社は多いように思われます。しかしこれを真似しても機能しないのは、調査運用担当者にバフェット程の胆力のある人間等殆ど居ないと言う点もありますが、引っ張って来ている資金の性質が短期のもので、投資の成果が見える前に解約されてゲームオーバーになってしまうから、と言った面はあるように個人的に考えています。

    実際にこう言った問題は少なからずの運用会社で起きていると思われます。こう言った現実があるため、ss様の「織り込まれるのに数年、でも短期でパフォーマンス求められるのでは?」と言った指摘が、「良い点を指摘している」と感じました。

    上記に対する対策については、概ね以下のような感じでしょうか。

    まず、仕事で銘柄推奨する際には、上記のようなDCFのバリュエーションに加えて、価格と価値のギャップが収斂する契機となる「キャタリスト」が重要になります。これは定性項目としてレポートに盛り込んだり、アナリストとファンマネがやり取りしたりしてポートに反映を試みます。こうする事で、「何年も割安なんだけど割安のまま放置」と言った事を避けようとする訳です。

    ヘッジファンドの場合は、基本的に月次でプラスにしないとな、と言った感覚の所が多いので、上記の「キャタリスト」がより短期のもの、Opportunisticなものになる傾向にあると思います。但し、短期は短期で回して日銭を稼ぎながら大物を釣りに行く、と言った事もやりますので、ヘッジファンドだから全部短期高速回転と言う訳ではないです。平均的にロングオンリーよりヘッジファンドの方がタイムホライゾンが短い傾向にある、と言った感じでしょうか。こうする事で短期パフォーマンス要求に対応している事になります。

    あるいは、渋い独立系の運用会社、例えば筆者の趣味で例を挙げると鎌倉投信さん等の場合だと、資金の調達側のタイムホライゾンから考慮して、中々資金を集めるのが大変だと分かって居ても直販で地道に個人から超長期の余剰資金を集める事を試みる事で、長期投資を可能にする環境を作っています。これも中々面白い流れと思いますし、筆者の現状やっている事とは見た目だいぶ違うものの、資産運用業界の発展と言う意味では、ヘッジファンドがきちんとした業として確立される事に加えて、こう言う投信が育ってくれる事も非常に重要だと考えているので、個人的に応援しています。

    こんな所でしょうか。多少なりとも参考になれば幸いです。

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  3. 匿名6/18/2011

    Anonymous investor 様

    日ごろよりフィットに富んだブログ、twitter、非常におもしろく拝見させていただいております。


    ご相談したいことがありまして、コメント欄で恐縮ではあるのですが・・

    当方も運用会社でジュニアの端くれとして働いております。

    まだ3年目なのですが、今の会社でも、今回のエントリーのスライドの図の一番右側、いわば成熟企業?ニッチもさっちも行かなくなったようなところの争いが垣間見えてきて、正直不不安に感じております。

    年をとって、市場価値のない状態になったら、あんな争いに加わざるをえなくなったらどうしようか・・。


    正直まだ潰しがききそうな、セルサイドのIB部門への転職も考え始めている自分がいます。

    「自分の身の振り方」を考える、という俗物の悩みですが、何かコメントしていただけると光栄です。

    よろしくお願いいたします。

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  4. 投稿有り難うございます。現在の日本のバイサイドの閉塞感、衰退感、不安感等、仰られる事については良く分かりますし、今後のキャリアについて不安を持たれるのは至極健全な感覚と思います。さて、小生IB部門にとても詳しい訳ではないですが、ごくごく短期間M&Aのデューデリジェンス等の経験があるので、その観点から幾つか話したいと思います。

    端的に申し上げると、バイサイドから、”つぶし”のためと言う理由でセルサイドの投資銀行部門への転職をするのは、あまりお勧めしません。幾つか考えられる理由を以下に列挙します。あくまで参考まで、と言った程度に宜しくお願いします。

    1、バイサイドの運用の仕事と、投資銀行部門の仕事内容は全然違う。

    まずはこの点です。

    ウォールストリート投資銀行残酷日記―サルになれなかった僕たち [単行本]
    http://www.amazon.co.jp/ウォールストリート投資銀行残酷日記―サルになれなかった僕たち-Peter-Troob/dp/4072298379/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=books&qid=1308449265&sr=1-2

    上記の本をまずは読んでみてから、投資銀行部門が匿名様の適性にフィットしているかを考えてみられると良いのではと思います。土日も深夜も費やされる激務、良い案件に配属して貰えるため・上に行くための社内での政治争いや駆け引き、ディールを取るための接待等も含めた事業会社への営業活動等、バイサイドの趣とはかなり異なった世界がここでは展開されているように思われます。

    投資銀行部門に行く人々の少なからずの人達が、上記書籍のような状況に直面して心身壊す等して短期間で退職する事になり、あまり「つぶし」の利かない状況になっている状況を筆者の回りでも時折見ます。この点まずは指摘しておきたいと思います。

    2、投資銀行部門は思ったほど「つぶし」が効かないのではないか。

    投資銀行部門に配属された若手の将来の選択肢は、思い浮かぶ範疇で挙げれば以下でしょうか。

    ・インベストメントバンカーとして出世する。
    ・事業会社の財務系の仕事に転職する。
    ・プライベートエクイティに転職する。
    ・コンサルに転職する。
    ・バイサイドアナリスト、イヴェントドリブンやファンダメンタルベースのL/S等ヘッジファンドアナリスト等に転職する。
    ・その他、金融業界内で転職したり、ベンチャーのCFO等に転職する等。
    ・MBA留学。

    で、上記の進路を考えると、どれも必ずしも間口の広いものではないのではと思います。

    バンカーとして出世、と言うのは結構狭き門です。奴隷としての生活に耐え抜き、社内外の政治等も上手くやり、名を挙げられる大きなディールに貢献する等運もあれば手に入る、と言った類いのもののように思います。

    事業会社の財務に転職する際には、バンカーの給与が高過ぎる事等が問題になるようです。また、奴隷生活に耐えられず短期で退職する事になった場合、勤続年数の短さが問題になる事もあるようです。同業者ですと、バンカー目指したが奴隷生活で身体壊して退職、まともな生活出来る仕事がしたい、と言った転職理由に対してある程度の同情・理解がなされますが、一般事業会社ですと「石の上にも3年」的な考え方についてはより保守的な考え方を持っています。注意が必要です。

    プライベートエクイティについては、昨今日本国内ではさっぱり下火で、あまり人材ニーズが無いと思います。

    コンサルも昨今、受注単価の下落、競争激化等が進んで居て、必ずしも展望のある仕事ではなくなって来て居るのではないかと思います。

    バイサイドアナリスト、イヴェントドリブンやファンダメンタルベースのL/S等ヘッジファンドアナリスト等に転職するのであれば、わざわざセルサイドに転じる必要はなく、今の匿名様のキャリアの中でより良い職場環境を目指せば良い、と言う事になります。

    その他、金融業界内で転職したり、ベンチャーのCFO等に転職する等と言うのもあるにはありますが、選択肢としてはマイナーな部類のように思います。MBA留学についても、これがしたいのであればわざわざバンカーになる必要はなく、今の会社/職種から目指せば良い話と思います。

    この辺については、投資銀行部門のキャリアが長い方等を捕まえてみてそう言った方からも話を聞かれてみると良いと思いますが、「IBDならつぶしが利く」と考えるのは、少々微妙なように思います。

    3、「つぶし」を効かせるのがゴールなら、転職以外に選択肢はある。

    「つぶし」を効かせるのがゴールなら、例えばCMAやCFAを取得する、英語力を増大させる、MBA留学の準備でもして留学する等、現職にありながら「つぶし」を増大させる手段は色々あると思います。「潰し」「身の振り方の機会」の増大を考えるのであれば、これらの選択肢の方が現実的なような氣もします。


    4、そもそも「つぶし」を考える以前に、「ご自身が何をされたいのか、どう言ったライフスタイルがゴールなのか」を考えるのが先ではなかろうか。

    「つぶしを効かせる」と言った事に人生長々と使える程にはキャリア人生は長くはありません。この業界ですと、市場価値が出て転職等も容易でキャリアアップ等出来ると言うのは40歳で終わりだと考えて良いと思いますし、職種チェンジが出来るのは30歳位までと思います。

    つまり、幾ら「つぶし」を考えた所で、年齢と共にだんだん潰しと言うのは効かなくなって来るものなのです。

    従って、28−30歳位の辺りで、「つぶしを広げる」から、「何をやらないかを選択して、分野を絞り込む」「マネジメントになりたいのか専門職としてやって行くのか決める」と言った事が必要になると思います。

    健全なキャリアアップを考えるのであれば、若いうちは適性に合う職種探しのための職種替えや試行錯誤はあって良いと思います。逆に言うと「もうバイサイドはいい、キャリアチェンジしたい」と言うのであれば、若いうちです。社会人5年位で「この分野で自分はそれなりの人材になる」と的を絞っておく方が良いです。

    そう考えて行くと、社会人3年が経過した匿名さんが先に考えるべき事は、「つぶしの増大」よりも、「どう言った分野に自身は進みたいのか、ライフワークバランス・仕事にどの程度時間労力を投入するか等も含めてどう言ったライフスタイルが自身にとってのゴールなのか」と言った事柄なのではないかと思います。

    ご自身の希望するゴールやライフスタイルが定まり、投資銀行部門の仕事やキャリアに関するリスク面も把握した上で、やはりIBDに行きたい、と言うのであればそれも良いと思います。DCF等出来る、長時間労働バリバリやります!と言えば、キャリア3年位でしたらキャリアチェンジも可能と思いますし、上記の通りキャリアチェンジをするなら若いうちです。但し、上記の通り「つぶし増大」のために安易にIBDへの転職を考える、と言うのは筆者としては余りお勧め出来ない、と言った感じです。

    こう言った所でしょうか。拙い内容で恐縮ですが、匿名様の何かしらの参考になりましたら幸いです。匿名様の今後の活躍を心より祈念します。

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