2012年3月23日金曜日

アナリストJobの変遷その6:アクティビストファンドの退潮。

今回は久しぶりに題名の件の続きである。アナリストJobの変遷と題して、筆者の個人的な経験を交えながら、主にバイサイドから見たアナリスト職の変遷について書いていた。「DCFマニアック教」の隆盛と衰退、次にアクティビストも含めた広義での中小型株ブームの流れ、アクティビスト初期の仕事内容、と言った流れで説明をして、次にアクティビストがなぜ日本では機能出来きれないまま退潮を迎えることになったのかについて書こうと言う段であった。にも関わらず筆不精で随分時間が経ってしまった。久しぶりに続きを書いてみようと思う。

アクティビストが日本で機能出来きれないまま退潮を迎えた理由は、端的に言えば「継続して安定した運用パフォーマンスを(海外は別として、少なくとも日本では)出し続ける事が難しい戦略だった、或いは時の経過と共に難しくなったから」である。パフォーマンスが出なければ顧客が離れて、戦略として機能しなくなる。ごく単純な話である。

以下に、「ではなぜアクティビストが運用パフォーマンスを継続して出しづらかったのか」について、筆者が感じた所を幾らか理由を挙げてみたいと思う。厳密な検証を経たものではない事はお断りしておくし、特定ファンドについての判断を述べている訳ではない点も付記しておく。

1.「案件」を継続・安定して発掘・ソーシングする事が難しくなった。

一番の問題はこの点だっただろう。アクティビストの戦略で安定してパフォーマンスを出し続けるには、IRの改善、増配や自己株買いと言った株主還元の増大、或いはM&A・業界再編等等と言った事が期待出来る案件を定期的に探し、10-30銘柄程度のポートフォリオを組み続ける必要がある。これが実際には結構難しい。なぜ難しいのかについては複合的な要因がある。以下に幾らか記したい。

-規模の問題。

なぜ「案件」を安定してソーシング出来なくなったのか。重要な理由の一つには規模の問題があった。

当初はアクティビストの運用額も数百億円の前半程度であり、以前解説した通りで1銘柄10-20億円程度の投資を10-15社程度していれば良かったし、投資ユニバースも中小型株中心だったので潜在的な投資対象は沢山あった。

しかし、アクティビストファンドが脚光を浴びた結果、顧客資金がアクティビストファンドに集中する事になった。この結果、アクティビストファンドのAUMは急激に増大した。例えば村上ファンドの村上代表が逮捕される直前(2006年)頃には、村上ファンドのAUMは4000億円以上あったと言われている。

4000億円となると、1銘柄40億円で100社、80億円で50社、160億円でも25社への投資が必要になる。感覚的に考えても、こんなに沢山の銘柄に対して次々に大規模な財務政策の変更、M&A等業界再編等を促し続ける事は難しいと言う事は理解出来ると思う。

しかも、これだけの多額の投資を一社に行えるとなると、投資ユニバースとなる時価総額も大きくならざるを得ない。時価総額が大きくなると、対象となる企業数は急激に減る。

これは村上ファンド等が運営されていた頃のデータではなく現在のデータになってしまい恐縮だが、例えば以下を参考にして欲しい。2012年の3月現在で、時価総額別に企業数を検索すると大雑把に以下のようになる。

日本の上場株全部:3500銘柄ちょっと。
時価総額100億円未満:1800銘柄くらい。
時価総額100億円以上:1700-1800銘柄くらい。
時価総額500億円以上:700銘柄内外。
時価総額1000億円以上:500銘柄切るくらい。
時価総額3000億円以上:200銘柄くらい。
時価総額1兆円以上:数十銘柄後半。

(出所:Bloomberg)

つまり大まかに言えば時価総額の銘柄数の分布は概ね80:20の法則に基づいていて、時価総額の過半をごく少数の銘柄が占めていて、後は小粒の中小型株が無数にある、と言う構造になっている。運用額が小さく中小型株を手掛けられたうちは資本再編等を促しうる上に割安な会社を見つける事は相対的に容易であったが、運用額が巨大になり大型株しか手掛けられないようになると選択肢が一気に減ってしまうのである。

こうして、運用額が巨大になったアクティビストファンドが安定的にリターンを上げるのが難しくなっていったと言う面があったのである。

-競合の増大。

アクティビストファンドが脚光を浴びるにつれて、年金基金等の資金がアクティビスト戦略に集中した。結果として競合が増える事になり、バランスシート面で改善余地があるような銘柄の割安感が薄れて行く事になった。市場は常にこの、「ある戦略がリターンが出ると脚光を浴びる→資金が集中する→競合激化する→超過リターンが出づらくなる→衰退する」の繰り返しで、自然に新陳代謝が起きるようになっている。こうして割安感のある銘柄が少なくなる事で、アクティビストファンドの投資先の発掘も難しくなっていったのである。

-敵対的アクティビズムの場合、取材等による調査が不可能になる等の問題。

具体的社名は避けておくが、敵対的アクティビズムで有名になったファンドにおいては、取材を申し込もうにも断れらてしまうなど、調査活動で次第に支障が出て来ていたといった話は当時筆者の耳にも入っていた。取材が出来ないとなると、勿論投資先の発掘調査はやりづらくなる。日本の文化・風土の難しさと言えるかも知れない。

-事業会社自体のIRや財務政策の改善。

アクティビストが有名になるにつれ、事業会社側も(敵対的アクティビストに狙われて面倒にならないようにと言う意味合いもあり)次第に財務政策やIR活動をきちんとしたものにしていくようになった。結果、投資候補先は次第に減少していく事になった。


2.「案件」を定期的に発現させるのが難しい。

更には、ポートフォリオを組んだ後は、実際にIR改善、増配自己株買い、業界再編等が保有ポートフォリオ内の銘柄で定期的に起こる必要がある。これがまた、(特に日本では)難しい面があった。これにも幾つか理由があると思われるので以下に簡単に記載する。

-中途半端な立ち位置の問題。

アクティビスト戦略で保有するのは、発行済み株式の数%~高くても20%内外程度である。プライベートエクイティのように経営権は握れないし、あくまで上場株のマイナー株主の中では大株主、と言った立場で、あくまでパブリックに開示されている情報の範疇から企業価値向上の提案をしなければならない。事業会社からすれば発行済みの数%の株主の発言に耳を傾ける事は大切ではあるが必ずしも従う必要はない。こう言った「中途半端さ」があった。

-買収防衛策の存在。

更には2005年には経済産業省及び法務省から「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」が公表され、事前警告型の買収防衛策を中心に2006年ごろから導入企業が急激に増えた(2005年導入企業数29社→同2006年175社→2007年409社、出所はレコフより)。

結果として、アクティビスト側に、「いざとなったら更に株式を買いまして圧力をかける」と言う交渉オプションが使いづらいものになってしまった。特に敵対的アプローチでアクティビストを行うのは難しくなっていったのである。


-投資先の規模・時価総額が拡大する事による「案件」成立までの期間長期化、或いは難易度の上昇。

これは村上ファンドやスティールパートナーズ等有名な敵対的アクティビズムファンドの変遷を見ていると分かり易い。当初は中小型株に対する増配要求と言ったシンプルなものだったものが、後期には大企業の再編、阪神タイガースの位置づけを問う等の「大掛かりな」「難易度の高い」ものになっていった。

結果として、企業価値向上活動の実現可能性が低下し、また実現にかかる期間が長期化する事となっていった。その間も毎日株価は動く訳で、安定したリターン獲得が難しくなって行った面がある。


3.「企業価値」と「株価」は常時パラレルには動かないため安定リターン獲得が難しいという面。

上記1-2は主に対投資先企業にまつわる話であったが、アクティビストの難しさは、「プライベートエクイティと異なり、非上場化せず、株価が毎日動く状況下でやらないといけない」と言う点であったように思う。つまり、以下のような問題がある。

-コーポレートガバナンス以外の株価変動要素が多数ある事。

株価は企業側の財務政策等だけで動く訳ではない。マクロ要因、需給要因等様々な要因で動く。

幾ら企業価値向上活動を推進しても、市場全体の株価が下がれば当該企業の株価も下がる。ロングオンリーでありながら絶対リターンを目指すオルタナティブ運用のカテゴリとして運用を続けるのは、そもそも限界があったようにも思う(この点については例えば中小型株インデックス対比でアウトパフォームを目指すなど、ベンチマーク対比での運用に切り替えた所もあるように聞く)。

-「株価対応」出来る布陣では必ずしもなかったケースが見られる事。

アクティビストファンドの中核メンバーがインベストメントバンカーやコンサル出身者など、いわゆる「ディールやコンサルのプロ」であり、「相場の株価との付き合いのプロ」では無かったと言う問題もあったように思う。

市場環境に応じたTacticalなポートフォリオ管理をしながらリターンを出すと言う事が上場株の運用であればどうしても必要になるように思うが、この点やや困難があった面はあろうかと思う。

-「株価対応」をきめ細かく行う場合にもアクティビストファンド特有のイシューが出て来うる事。

一方で、上記の問題に対処するためヘッジすると言うのも選択肢である。しかし今度は手間の割に派手なパフォーマンスが出しづらくなると言う問題点も出てくるし、ロング側が少数銘柄のかなり個性の強いポートフォリオになるが故にきれいにヘッジする事の難しさが出てくるなど、別種の問題が出てくるのである。

そんなこんなで、戦略としての難しさ、日本における難しさと言うのがあり、また村上ファンドの村上代表の逮捕等も加わった事もあり、アクティビストの戦略は、特に敵対的なものについては退潮を余儀なくされる事となったのであった。一方で、別のエントリーでの質問にも回答したが、きちんとした哲学を持ち、日本の状況に合わせた形でもって、現在でも活躍しているアクティビスト系ファンドも存在する事は付記しておきたいと思う。

2 件のコメント:

  1. 匿名3/24/2012

    大変勉強になりました。ありがとうございます。ところで、エフィッシモは例外中の例外と思われますか?敵対的なスタイルで残っているファンドであると思います。

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  2. 先のエントリでも述べましたが、先ず個別のファンドの事柄については回答致しかねます。
    以降繰り返しませんが、匿名様にせよ、他のかたにせよ、特定銘柄・ファンドについての質問については以後原則として削除します。
    このブログをポジショントークの投げ合いのような場にしたくないと言う点が背景にあります。この点ご理解願います。

    以上を先に断らせて頂いた上で一般論として述べますと、昨今生き残っているアクティビストさんについては、上記で述べたような問題点に対応するべく、プロキシファイト等の敵対的なアクションは概して控えめにして日本に馴染む形を模索する、受託資産が過大にならないようにこなしきれる程度の一定額での運用に専念する、長期の時間軸の顧客との安定的なリレーションシップを確立する等の形で一定の立ち位置を確立されているファンドが多い(あるいはこう言った対応をされて来た先が生き残っている)ように思われます。何卒宜しくお願いします。

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