2012年6月16日土曜日

○ヘッジファンドの中年以降のキャリアステップ その3:ヘッジファンド業界の一般市民がシニアになってから(あくまで現在の所は)選びうる"あの人は今?"色々。


さて、今までで、1.一般のかたが夢描く「成功者としてのゴール」。2.多くの方が夢描く「独立・一国一城の主」の実際。…と言った点について紹介を試みてみた。

今回は、更に一般的とでも言おうか、特段ドラマチックに大成功する訳でもなく、ドラマチックに起業して悪戦苦闘する訳でもなく、無名の一般市民が特段大成功する訳でもなく大失敗する訳でもなく中年を迎えた場合にどうなるのかと言う所について考えてみたいと思う(大多数のかたにとってはこの辺の所が一番身近な所でもあり、知りたい所であろうかとも思う)。つまり、ヘッジファンド勤務者特に運用やリサーチ等のフロント業務の人間の「流動的で不安定とは言え現時点で考えられる中年以後のあくまで会社員としての落ち着き先」について、現状周囲を見ていてあり得る所をやや五月雨式になるものの紹介してみたいと思う。

ただし、これらはあくまで「2012年の今の時点でシニアな人が、現状の所考えられる落ち着き先」である。今はヤングな皆様やヤングではないがシニアと言うにはまだ早い筆者のような人間が、10年20年後にどう言った先が考えられるのかと言う事についてははっきり言ってよく分からないし明確な事は言えないと言う点についてはご理解頂ければと思う。


○今のところあり得る無名の一般市民向けの「あの人は今?」について、思いつく範囲での一覧。

-シニアになってもヘッジファンドの運用者・アナリスト等の仕事を続ける。

...比較的長期に渡って自身のエッジを確保出来て、独立出来るとか大成功すると言った程には劇的に派手なものではないにせよ「それなり」のトラックレコードを積み上げる事が出来た場合、一定の知名度を確立出来た場合等はこの選択肢はあるように思う。

実際、昨今のヘッジファンド運用者で「第二世代」以前の層は既に40代~50歳内外のはずである(因みに筆者のような、30代で不況しか知らず、アニメやテレビゲームで育った辺りのヘッジファンド業界従事者は「第三世代」等と呼称される)。勿論簡単な事ではないが、こう言った選択肢もあると言う事は言えるように思う。

反射神経が必要な超短期のトレードの場合は年齢と共にしんどくなって来る面はある。しかし、タイムホライゾンを秒・分単位から、数日〜数ヶ月等のポジショントレーダー的な形に移し、リサーチなり過去の様々な相場等を良く知っている事等の年輪の蓄積が効き得る形でエッジが出るように工夫し、ストレスがかかり過ぎないようにして家族や子供との生活と両立出来るようなスタイルを確立する、と言った形に上手くシフトして行ければ、比較的シニアになっても運用の仕事をやれない事はないように思う(まあ、これが結構難しい面はあるのだが)。スポーツ選手で言えば、若い時のように反射神経や豪速球や腕力では勝負しづらくなるが、変化に富んだ配球技術や経験で補いストレッチや食生活等を気配りしてコンディションを整える事で活躍すると言った所だろう。実際に、40代以降もファンドマネジャーやアナリストとしてヘッジファンド業界で活躍されている諸先輩は既にあられる。


-ファンドオブファンズ等のアナリスト・運用者になる。

...ヘッジファンドからファンドオブファンズに移ると言うのは、現在の所比較的多いキャリアステップである。ヘッジファンドを内側から見て実際に運用・調査をして来た経験、同業者の知人や人脈等もあると言った点を活用して、「どのヘッジファンドに投資したら良いか」について調査・投資を行う側に回ると言う事である。日々相場で直接に切った張ったやる訳ではないし、過去の経験蓄積をエッジにし得る分野である事もあり、シニアになっても比較的可能な職種であると言えるかも知れない。

とは言え、ヘッジファンド業界も歴史の浅い商売であると同時に、ヘッジファンドに投資を行うファンドオブファンズ業界も特に日本においてはそう歴史の長い業界ではないし、その立ち位置も完全に定まっている訳ではない。ある程度流動的な面があると言う事は付記しておく必要があろうかと思う。


-年金セールス、ファンドマネジャーと営業のリエゾン、商品企画・マーケティング等、シニアとしての年輪と運用経験が活きる他職種に回る。
-コンプライアンス等の裏方の仕事に回る。
-元々セルサイドで知名度があってヘッジファンドにチャレンジした場合、バイサイドにいて古巣からお呼びがかかった場合等、大手セルサイド/バイサイドに戻るといった選択肢。

…上記のような既存の金融関連職種は、現在の所は「シニアの年輪が生きる、一定のニーズがある職種」と言えるかも知れないし、一定の人材の受け皿になっている。年金基金の理事や事業会社の経営者等と話をすると言った局面においては、ある程度以上シニアの方が風格と言おうか説得力も出易いしやり易いと言った面はある。今後もある程度の受け皿になり続ける事は予想出来る。

しかし証券・運用業界自体が尻すぼみになっている事、年金基金については高齢化社会の進展により払い出し超過で将来的に規模が縮小して行く事を考えると、将来的に(有り体に言えば筆者や読者がシニアになった10年後20年後に)この種の受け皿が存続しているのかと言うのは、良く分からないというのが正直な所である。


-ファンドのコンサルタントになる。
-年金基金等の担当者になる。

…この辺りの運用業界の職種は、AIJ問題等で年金基金におけるプロフェッショナルの重要性、あるいは第三者からのデューデリジェンスや評価の必要性が認識されたようにも思うので、今後人材の受け皿になる可能性はあるように思う。

現状の所、ファンドのコンサルタントや年金基金担当者で、実際にヘッジファンドの運用に従事した事のある人材は現状極めて乏しい。

一方で、世界的に成長率の鈍化に国債金利の低下、有り体に言えば「日本化現象」が進展中であり、国債を買ったりロングオンリーで株を買っておけば(いわゆるβを取る運用をしていれば)年金が増えて行くと言う時代は終焉を告げつつある。短期的にはAIJ問題等により年金基金のヘッジファンド投資の流れは中断されてしまった感は否めないが、中長期的に考えれば、国債金利も低いしロングオンリーでも厳しいと言える訳で、代替投資としてのヘッジファンド、αを取ることで年金に必要な絶対リターンを確保する必要性は高まって行くものと思われる(微妙にヘッジファンド業界からのポジショントーク、セールストークなのはご容赦頂きたい 爆)。

上記の状況を考えると、今後ヘッジファンドでの経験のあるシニアが上記のような職種に必要とされる可能性は比較的あるのではないかと思われる。

一方で、高齢化社会の進展により年金は支払い超過で徐々に年金基金のサイズ自体が小さくなっていく所も多いだろうから、仕事の数としてそんなに増えるのだろうかと言う面もある。中々判断は難しい所である。


-大学で、ファイナンス・経済学科等の講師・教授等になる。

...教職と言うのは金融シニアの落ち着き先として比較的人気がある。しかし少子化で大学の教職の席数にも限りがある。著書や論文執筆等の実績も必要と思う。今後は中々大変かも知れない。

それでも日本ではまだ実務界と教育界の交流が不足しているようにも思われるし、日本において金融を実業として発展させるには大学でこの手の交流がなされて若手が育つ環境を作る事は重要であるとも思われる。この事を考えれば、今後も一定のニーズはあるだろう。


-金融業のヘッドハンターになる。

...同業者内に人脈の多い場合等、こういった選択肢もある。しかし昔はヘッドハンターも儲かったそうだが、昨今金融業界の年俸水準自体が低下している事、採用も減っている事、ヘッドハンター間の競争激化等で、中々簡単には行かないビジネスのようである。


-事業会社の財務・IR等の仕事(元々株のアナリストだった場合等)。
-IRコンサル等、関連分野のコンサルタントになる。
-証券取引所等での仕事。

...昨今、比較的この手の転職は増えているように思う。金融業界自体、あるいはアナリスト、トレーダー、ファンドマネジャーと言った職種自体が一つのバブルで今が崩壊過程にあると考えると、バブルで大量供給された人材・スキルが、事業会社や資本市場を支える産業にて活用されるようになる事で、日本企業・日本経済の次の成長がどこかの段階で促され始めるのかも知れない。不動産バブルの発生により不動産への過剰資金流入、投資、過剰供給が為されてバブルの崩壊により起業家にもリーズナブルな賃料でオフィス供給が為されて起業が促されるとか、ITバブルの発生によりブロードバンド網への過剰な資金流入、投資、過剰供給が起きてバブル崩壊により安価なブロードバンドインターネット環境が整ってグーグル、楽天、フェイスブック等が出て来ると言った理屈と同様である。

そう考えると金融業界で働き人余り状態著しい我々も、もしかしたら次のイノベーションの礎として貢献出来るかも知れない訳である。「安価に」と言うのはアレなので脇に置いておくとして、こう考えれば悲観的にばかりなる必要もなかろうとも思うし、中年/壮年になっても中々面白い機会に巡り会う可能性もあるのではなかろうかとも思う。ケンタッキーフライドチキンのおじさんは60代で成功した訳で、まあ人生どうなるかと言うのは最後まで分からないものであるし、そこが人生の面白い所だろう。


-大学・大学院等に戻ってJob Changeする(金融業界担当の弁護士等の仕事、あるいは全く別の職種等色々)。
-違う世界で起業する。
-その他、何がしかの形でご飯を食べる(塾講師、タクシー運転手、ヨガの先生、農業、その他?)

...この辺になると、完全にいわゆるJob Changeなので、特段記載する事はない。人生を再スタートすると言う事である。それもまた人生だろう。


○結論:ヘッジファンド屋さん(あるいは時代の変化の速い中に生きる現代人一般にも?)に重要なのは、今この瞬間に集中する事。

…こんな訳で、色々と「より一般市民向けの、ヘッジファンドの民のキャリア後半戦」について考えられる所を列挙してみた。他にも考えれば色々あるかも知れないが、筆者がぱっと思い浮かぶ範疇と言う事で、この辺にしておきたいと思う。

なんにせよ、日本においてヘッジファンドと言う業界・職種は歴史の浅い分野であり、職種として確立してからまだ期間が経って居ない。日本でのヘッジファンド黎明期は90年代、職種として定着し始めたのは中小型株ブームで中小型株中心に手掛けるヘッジファンドが多数登場した2000年代中頃以降である。また、金融業界自体が今後どうなるのか不透明な面もある。

そんな訳で、結論としては最初に書いた通りで、「ヘッジファンドにキャリアステップ?そんなものないし、戦略的キャリア構築だの定年退職に確実な老後だの安定した生活だのが好きな人がやるような仕事ではない」と言う所に立ち返る事になるように思う。つまり今まで幾らか挙げたのは、あくまで現時点で想定されうる幾つかのあり得る選択肢に過ぎない。数十年先がどうなっているかなど、実際の所は分かりはしない。

時代の変化は昨今益々速くなっており、長期の見通しがつきづらい社会になっている。未来の事など分からないし、元来生きるとはそう言うものである。定年退職までの生涯収入と老後の生活まで計算出来るような気分になっていた一昔前の方が、生き物としての自然なありようから離れていたと言うか、特殊だったようにも筆者個人的には感じる。世界とは元来変化と不確実性に満ちているものなのだと思う。

そう言った中において、大切な事は、将来をやたらと憂いたり不安がったりして元来存在しない「老後までの安定」と言った実際にはありもしない偶像を求める事ではなかろう(無い物はどうやっても手に入らないであろうからエネルギーの無駄であるし、辛いだけだろう)。また、本屋に並んでいるような中身の薄い「経済的自由が云々系の本、成功哲学が云々系の本」に次々かじり付いては3日坊主で終わるような事でもないようにも思う。

大切な事は、ある程度きちんと「現実としてあり得る"あの人は今"」「こうありたいと思うような"あの人は今"的中年像」と言うのを感じたり頭の片隅程度にはおきつつも、「今この瞬間」を有意義に過ごして人生を「生き切る事」であるように思う。

筆者自身も、今まで3回に渡り色々列挙した中のどれに今後なるのか・なりたいのか等について、特段の考えを持っては居ない。ただ今出来る事・やりたい事を続ける事、今日を楽しみつつも将来にも有意義と思われる学びなり向上なりを続けていき、ご縁や自然な流れに運ばれながら自然にどこかに辿りつくだけである。辿りつく場所がどう言った場所であれ、日々悔いなく適度に楽しく前向きに過ごしていれば、その場所が「住めば都」になるだろうと考えている。

昨今、日本企業でも平気でリストラや退職勧奨等がなされ、一昔前は安泰一流と言われていた企業でも今は見る影もないと言った事が比較的簡単に起きる時代である。そう考えると、上記のような発想は、何もヘッジファンド業界従事者だけに言える事ではなく、比較的一般的に必要とされる発想なのではないかとも個人的には感じている。

そんな訳で、3回に渡ってもそもそと書いて来たような内容が、金融業界の皆様、ヘッジファンド業界に興味があるかた、既にヘッジファンド業界にあられる若手等に加えて、他業種のかた等も含めて何かしらの示唆があると感じてくださるかたが一人でも居るのであれば、「未来の不確実性とリスクを取り扱う事を生業とする実務家」の多くの中の一人として片隅で仕事をしている筆者としては嬉しく思う。

2012年6月14日木曜日

○ヘッジファンドの中年以降のキャリアステップ その2:多くの人が起業に憧れるが…ヘッジファンド起業の現実について。


さて、前回からの続きで、「ヘッジファンドキャリア、中年になるとどうなる?xx年後の"あの人は今"」である。今回は、前回の理想形から踏み込んで、より現実的な姿と言うか、頻繁に見られる姿と言う事で、「ヘッジファンドの起業・独立の実際のところ」を挙げてみたい。


ありうる中年以降 その2:引退できる程の蓄財は無いがヘッジファンドを設立して独立する場合。

先に書いたような「勝ち組的ハッピーリタイヤ」的な状況を最終ゴールとして、そのためのステップとして「自分が一国一城の主になる、サラリーマンを卒業して独立する」と言った所を目指して内資・外資系証券や同運用会社で仕事をしている人は少なくない。そして年齢的には大体、30-40代辺りで独立する。最初は自己資金+個人的な知己・富裕層の友人知人等の資金を受託して数億円~10億円程度の運用資産によるスタートになる事が通例である。


○独立の現実:独立するだけであれば案外可能だが、問題は軌道に乗せて続ける事。

独立するのはそう荒唐無稽でもないしやろうと思えば案外出来るようで、筆者の周囲でもそう言った人は少なくない。

しかし問題はそこからだ。会社は作るのは簡単だが継続するのが難しい。会社組織が全部お膳立てしてくれて相場さえやっていれば良いという環境でも十分に難しい相場の運用を行う以外に、バックオフィスの構築や人繰り、マーケティング、金融規制対応・コンプライアンス遵守体制確立等の経営者業務、更には初期には各種雑用までも同時にこなさなければならないのである。

結果として、運用資金も思った程集まらない事に愕然とし、専門職たる運用・調査と全く異なる適性が必要な経営者業務に苦戦し、運用業務にも中々時間を割いて集中出来ず、七転八倒すると言うパターンが極めて多い。そしてよくあるパターンとしては、運用額が数億円~数十億円前半位で足踏みしてしまい、中々軌道に乗らない状態が続くかファンド閉鎖の結末である。

数億円も運用するなんて凄いじゃないかと思われるかも知れない。自己資金ならそうかも知れない。5億円の資産を配当利回り3-4%位の優良企業の株にしておけば税金等考慮しなければそれだけで年収1500-2000万円、引退モードである。

しかし、自己資金は限定的な額で主に他人のお金を数億円運用している場合、売上は運用額の1.5%程度のマネジメントフィー+リターンの20%程度の成功報酬であると言うのがポイントである。また、成功報酬は安定的な売上ではないので経営を考える際には除外して考えないといけない。

そうなると、運用額10億円では、その投資顧問・ヘッジファンドの会社としての年間売上は10億円*1.5%=1500万円の売上しかないのである。給料が年収1500万円ではなく、売上が年間1500万円である。更に個人投資家ではなくビジネスとして運用会社を運営するとなると、ここからオフィス賃料、人件費、ブルンバーグやその他IT代、弁護士・会計士等の専門家への支払い費用、プライムブローカーやファンドアドミ費用等等を出さなくてはいけない訳である。マネジメントフィーは計算上1.5%としたがもっと安い所もある。はっきり言って経営的にはかなり厳しい。従業員など雇える状態ではない。

この計算で行くとリターンが年率15%で出ても、運用額10億円*年率リターン15%*成功報酬20%=3000万円の売上で、この位のボーナスであれば会社員で運用者をしていても十分可能な額である。ちなみに年率15%と言うと簡単そうかも知れないが、実際やってみると、(のるかそるかのレバレッジをかけてたまたまラッキーでと言う事ではなくて)しかも経営者・起業家としての諸事をこなしながら「片手間で」これを実現するのは難易度の高い仕事である。

つまり10億円内外の運用額では、(自己資金ではなく顧客の資金を受託運用すると言う形では)起業するリスクと全く見合っていないのである。この位の規模感で留まってしまった場合、独立する事に対する旨みは(やりがいとか理想的な投資・トレード哲学を実践出来るとかやりたい事をやらずに人生を後悔すると言った事はなく清々しいと言った定性的な効用は別として、少なくとも経済的には)ない事が理解できるだろう。


○理想のヘッジファンド起業の成功モデルケースとは?

ではヘッジファンド起業で、前回紹介した成功者になれるような理想ケースはどう言ったものであろうか。ヘッジファンドをローンチした場合、きちんと経営が軌道にのる理想のケースと言うのは、以下のような感じである。それがいかに容易ではないかを感じ取って貰えれば幸いである。

最初に幾らかの自己資金+個人的知己等から10億円程度の資金でスタートする。有名人がアメリカやパンアジア等でヘッジファンドを起業した場合は最初から数百Million US$からスタート出来る場合もあるがこんな事例は実際には殆どなく、ニッチでひねもす日本株他日本関係のプロダクトで起業する場合は会社員時代の履歴書が相当きれいで運用のトラックレコードが相当優秀な人でも最初はこの位である。

そして先ず最初の1年の運用リターンと言うのが極めて重要になる。理想としては最初の1年で良いリターンを出し、Eureka HedgeなりAsia Hedgeなり他の賞でも良いので「新人賞」の類にノミネートされて、知名度を上げて運用金額を早期に100億円(あるいはUS$で100Million程度)に乗せる事が重要である。

なぜ最初の1年が重要かと言うと、ローンチして間もないうちは注目度も高いし、マスコミ等にも紹介して貰いやすいし、上記のようなファンドの賞にも「新人賞」的な枠があるといった具合に、顧客認知を高めるには重要な機会になるからである。2年目以降は他にも新規ローンチのファンドは毎年ある訳であるからフレッシュさ・新鮮さも無くなるし、リターンが月並みであれば顧客認知を得るのも難しくなり、マーケティングも難しくなるのである。運・実力等を総動員して最初の1年が良いものである事が重要なのである。

次になぜ100億円かと言うと、年金基金や大手のファンドオブファンズ等の大手、プライベートバンク等の機関投資家が投資先としてヘッジファンドをスクリーニングする際の最低限のハードルが100Million US$と言ったラインにある事が多いからである。自己資金や知己の資金の運用だけでは規模感的にも限界があるし、顧客が一部に集中しがちでこの一部顧客から解約を受ければあっという間に経営基盤が崩れてしまう訳で経営的にも安定しない。よりEstablishedされた機関投資家の顧客から広く資金を受託出来る事が出来るようになって初めて運用会社としての経営が安定し、まともな経営計画なりまとまった運用のゲームプランなりが組めるようになる訳である。売上についても、100億円の運用額であればマネジメントフィーだけで年間1.5億円と言う事になり、小規模組織であれば人を雇っても問題ない規模になる。

しかし、幸運と実力が功を奏して1年目で良好なリターンを出し、上記のような賞等にもノミネートされ、分散された優良な顧客ベースを確立出来る、と言った理想的なケースは必ずしも多くはないのである。そう運用が上手い訳ではないのに自信過剰バイアスで勘違いして起業してしまう同業者も居るし、上手いファンドマネジャーでも単年では自身の得意な相場つきに出会う事が出来ずに運・不運の関係で月並みなリターンや損失で終わる事もある。しかも起業の諸々、経営者としての人繰り・マーケティングその他諸事も同時にやりながら「片手間で」相場をやらないといけないと言うのがまた中々難しい面もあるのである。


○そんな訳で厳しい現実。あるいはそれに対する対策。

そんな訳で、結果として、起業したは良いが受託資金が数億円~数十億円前半位で足踏みしてしまい、経営が軌道に中々乗らない状態が続く、あるいはファンド閉鎖に追いやられると言うケース、言ってみればそう言った状況で中年を迎える”あの人は今”のケースが後を絶たない訳である。

ファンド閉鎖になっても景気が良かった頃であれば会社員復帰も出来なくはなかったが、昨今ではこれも難しくなっているように思う。「独立」するのは簡単だが、「軌道に乗せて続ける」と言うのは中々楽ではないのである。

そんな訳で軽はずみに独立を考えているかたには、「重要な意思決定になるので、よく考えてからにするのが良いと思う」と伝えたいように思う。それでもやると言うのであればそれは人生の選択だし、どうしてもやりたいのであればやらなくて悔いが残るよりは各自の自己責任のもとでやった方が人生トータルで考えれば清々しくて良いと思う。しかしゲームのルールが分からないまま突撃するのは見るに耐えない面もある。そんな訳で、「ヘッジファンド起業のゲームルール」を把握した上で、以下の点について重々各自で確認する事を筆者からは勧めたい。

-起業の動機は健全か。会社勤めが嫌だから、と言った理由だけでは長続きしないケースが周囲を見ていると少なくないように思う。

-バッファとなる自己資金の余裕がどの程度あるか(可能であれば独立前の時点で引退出来る程度の資金があるのが理想、最低でも2-3年は売上が無くても耐えられる程度は必須)。

-運用だけでなくマーケティング、人繰り、雑用(会社員時代に秘書やセルサイドに雑用や取材アポ等頼みきりだったかたはこの辺全部、人を雇える規模になるまで自身でやる事になるので注意が必要。結構煩雑だし時間も食う)他経営者業一般をやれるキャパシティが自身にあるか。あるいは経営者業をやりたい希望、経営者としても成長する覚悟が自身にあるか。

-特に初期の軌道にのるまでの間に経営者業の片手間で運用が出来る自信はあるか。

-自身の運用手法は運用額幾ら位までならマーケットインパクトやパフォーマンス劣化を気にせずに回せそうか。経営が安定する位の受託資産に拡大出来るような一定のスケーラビリティがあるか。

-自身の運用手法のエッジは独立後も維持出来そうか。会社組織の各種インフラや人材の充実、セルサイドへの支払いコミッション等が多い事や各種情報フローがある事等による情報入手等の有利さ、安定した資金力、各種経営者業や雑多な事務に煩わされずに運用に集中出来た環境等のお陰で上手く行っていた事を本人が自覚出来ておらず、独立してから痛感するケースが少なからず見られるように思う。

-好況・不況・ぼちぼちと言ったマーケットのサイクル1周のどの局面でも機能する運用戦略か。ファンドの建てつけや掲げる運用哲学が将来の展望等も踏まえた上で機能するものになっているか。たまたまマーケットが直近で自分向きの相場だったと言う事が無いかどうか。この意味では会社員時代に景気サイクル一周位は最低限トラックレコードがあった方が良いだろう。

-妥当な事業プランがあるか。顧客からのニーズがありそうな運用戦略か。顧客の設定・解約のタイムホライゾンと運用側のデュレーションが一致しているか(アクティビスト等の長期投資なら長期ロックアップをつけないといけないが、その分顧客探しも難しくなる。短期トレードならロックアップは不要だが顧客の資金の出し入れが頻繁になる。またロックアップを付けるとロックアップ期間終了時にバサっと解約が殺到するリスクがある等、テクニカルな話が幾らかある)。人繰りや経費面等で無理が無いか。当面の運用資産、従業員構成等の目標が明確か。上記諸々と照らし合わせて無理・矛盾が無いか。

-その他諸々、現実的なゲームプランがきちんとあるかどうか。

…等等、現実的に「事業・ビジネス」として考えた上で検討して頂ければと思う。こんなの当たり前じゃないかと思われるかも知れないが、実際の所こう言った基本的な所を考えないまま独立してしまい上手く行かなかった事例等も見てきた事もある。また、規模の小さいヘッジファンドに転職を考えられているかたは、面接の際にこの辺りの所が適切かどうかを確認される事を勧める。

周囲で、立派な学歴・キャリアで優秀で、会社員で続けていれば立派なキャリアで悪くない地位・暮らしも出来ていたであろうに、独立して上手く行かずハッピーリタイヤ出来る程の資金もなくその後再起もままならないまま消息不明になったり、浪人のような不安定な立場で長期間燻っていると言った”あの人は今”の中年を迎えている人も実際に居たりする。ヘッジファンドでの独立を志望する人には会社員から解放されるとか最初に書いたような夢のようなアップサイドの部分だけしか見えていないかたも時折見られるようにも思うので、この点は書いておきたいと思う。


○成功した場合でも別のトラップに嵌る場合もある。

そのほか、運用会社は上手く軌道に乗せられても、中々権限委譲や組織の確立等ができずに、先に紹介した「ハッピーリタイヤモード」に持って行けない、そのタイミングが無いまま忙しなく過ごしてしまうと言った事例も散見される。成功しても別のトラップにはまってしまうケースもあると言う事である。

これは運用者・経営者がプレーヤーのままでありマネジメントとしての適性を涵養しきれて居ない場合、自分がカリスマ・スーパースターで目立ちたいと言うエゴが中々抜けきらない場合等に散見される。勿論、運用ビジネスが好きで自身もプレーヤーとしてやり続けるのが好きで日々仕事しているのであれば良いと思うが、そうでない場合(引退したいのだが辞められない場合)も見受けられるようにも思う。この点も中々難しい所のようである。

この辺については、ゴールが前回紹介した1のような状態に明確にセットされている人は、結構計画的にこの辺りの「プレーヤーからマネジメントへの変化」「自分がスターでありたいと言うエゴとの内面的な折り合い・成熟、物理的な部下への権限委譲」等への道筋を付けているようにも見受けられる。


あるいは独立して、最低限の組織を作ったら後は社内体制整備が云々等と考えずに攻撃的な運用で数年でわーっと稼いでしまって、引退出来る位蓄財出来たらマネジメントであるとか成熟が云々等と言わないで潔く資金を顧客に返還して、ファンドを「勝ち逃げ清算」して引退すると言うパターンもある。


引き際と言うのはものを始める時よりも難しい面もあり、最初に成功すると「もっと、もっと」で戦線を拡大し、兵站が伸びきった後に”何たら危機””何とかショック”の類いの奇襲攻撃を受けて袋小路にはまってしまうようなケースも少なくないので、最初からこれを企図して成し遂げている人を見ると、凄いなあと思う。


こう言う「底で買って、天井で売る」的な神業を成功裏に成し遂げられる適性のある人と言うのは実際の所は相当に限られるので、一般の人は多分真似しない方が良いと思う。とは言え、トレード同様、独立も「入口だけでなく出口(落とし所)を考えておく」と言うのは重要な事のようにも思われる。

この辺の「経営者論」的な話は面白いし語ると色々長くなる。とは言えこう言った贅沢なイシューを抱くに至っている読者はそう多くないだろうし、筆者がこう言う段階にある訳でもないし、経験から語れる訳でもない(過去において傍からと言うか下から見上げていて気づいた点を書いているに過ぎない)。簡単に紹介するに留めて詳細は省略する。


○今回の結論。

結論としては、独立自体をゴールとするのは簡単だし案外実現も出来るものだが、それを軌道に乗せて続けるのが大変であり、軌道に乗ったら乗ったで色々なイシューはあると言う事だ。きちんと現実を見た上で、上記のような各種リスクを自身は取れるのかであるとか、人生において上記のようなイシューと取り組みたいのか否かと言う部分についてよく考えた上で決断する事が、後悔のない中年、”あの人は今”を迎える上で大切であろうと思う。

さて、こんな所で、ヘッジファンド屋さんの中年以後のキャリアと言うかありようとしての、1.一般のかたが夢描く「勝ち組最終ゴール」。2.多くの方が夢描く「独立・一国一城の主」の実際。・・・と言った所を紹介した。次回から、もう少し一般的と言うか平民向けの、ヘッジファンド勤務者特に運用やリサーチ等のフロント業務の人間の「流動的で不安定とは言え現時点で考えられる中年以後」について紹介してみたいと思う。

2012年6月12日火曜日

○ヘッジファンドの中年以降のキャリアステップ その1:そんなものあるのだろうか?とは思いつつも書いてみるのまき。

さて、本日は題名の件である。
  
筆者自身、5年後・10年後には一体何をやっているのかのうと言うのは良く分からないが、筆者ももういい年だ(この商売で30代もそれなりになると、職業人人生についてはもうそれなりに佳境である)。多少は将来の方向性なり、どんなライフスタイルを過ごしたいのかについて思いを馳せるのも良かろうと思う。

また、どうやってヘッジファンドのアナリスト・運用者といったキャリアのスタート地点に立つのかについては幾らか過去に書いて来たが、「中年以降のその後」については余り書いていなかった。この辺りについては、ヘッジファンド業界に興味のある者、あるいは既にこの「相場の仕事のラビリンス」に入り込む事になった比較的若手の皆様(Welcome to this deep "Matrix" world!)等にとっても興味のある所であろう。

そんな訳で、基本的には「ヘッジファンドにキャリアステップ?そんなものないし、戦略的キャリア構築だの定年退職に確実な老後だの安定した生活だのが好きな人がやるような仕事ではない」と言う一言に尽きる訳だが、可能な範囲で「ヘッジファンドの中年以降のキャリア、あるいは想定される”あの人は今?”的なもの」について、何回か(理想的な成功例、ヘッジファンド起業について筆者が見て来た実際、一般向けの会社員キャリア的な落ち着き所、の恐らく3回)に分けて書いてみたいと思う。


ありうる中年以降 その1:ハッピーリタイヤ、あるいはハッピーリタイヤ可能な資金でもって事業や社会貢献活動等を行う。

これは、多くの人が思い描く、ヘッジファンドキャリアの理想的なゴールと言えるかも知れない。例えば以下のような感じだ。

・生活費は所謂不労所得から:生活資金は不動産や配当・クーポン収入重視で手堅く運用し、家賃や配当等のインカムゲインにより十分に確保されている。或いはプライベートバンクに手堅くやるようにと言う事で投げてある。人によっては保有株を担保に入れて借入をしてレバレッジをかけて事業等に更に投資して勝負している人等もいる(但し、この場合担保に入れている保有株が暴落すると、追い担請求、担保株式強制売却と言った壮絶な逆回転になるので「アグレッシブな効用関数を持つ人向け」であり、個人的には余り勧めない)。もうお金のために働く必要は無い。

・自己実現としての仕事:その上で、若手育成と言う事で、若手の立ち上げたヘッジファンドで有望なもの等に自己の資産の一部を投資したり、自身はトレードせず若手運用者発掘用に自身のヘッジファンドを運営し続ける場合もある。自身のヘッジファンド運用での経験から、どんな人が上手いか・適性があり有望かと言うのは大体分かるものなので、それを活用する事になる。あるいは投資やトレードが好きな人の場合、シニアになっても自身でも現役で運用を続ける人も居る。何にせよ生活費分のインカムゲイン運用とは別に、大概は自身のヘッジファンドや見出した若手運用者に自身の資産の一部を投入しており、これが巧みな運用で増えて行くので資産も更に増える。つまり日々の生活費のために仕事をやる必要はないし、日々の生活のために仕事をやってはいない。

・慈善事業・社会貢献活動等:各自興味のある分野で慈善事業、社会貢献活動等を始める。あるいはアート分野やワイナリー運営等、大して収益にならなくても良いので「人生の豊かさ」を感じられるような分野を手掛けたりする。

こう言った層においては、ハッピーリタイヤとは言っても上記活動のために法人等作っている場合も多く、そう言う意味では引退せず「現役事業家」の場合も多い。しかし日々の糧のために仕事をする必要は無い。ちなみに、上記のような成功者でも、南の島で毎日バケーション…といった生活を、休暇で一時的にではなく何年でも延々と続けていると言った人は意外にも多くないように思う。飽きてしまうし、社会との接点が欲しくなるようである。

言うまでもなくこう言った層はいわゆるこの業界の成功者である。元々はこう言った事を若いうち(大体40代位)に実現したい!アーリーリタイヤだ!と言うアツい夢を持って(あるいは明示的にそうは宣言しなくとも潜在的にそう言った願望を持って)外資系金融やヘッジファンド業界に多くの人は入る(ないしはこの業界がもっとギラギラした輝きを放っていた頃は入った)ものだ。

しかし実際に40-50代位で実際にこの段階に到達出来ている金融同業者の日本人は、割合としてハッキリ言ってそんなに多くはない。と言うか確率で言えば滅多に居ないといって良いと思う。一見所得が高くて都心のマンションに住み子供を芸能人が通うような私立学校に通わせて週末は小型クルーザーで海に出て云々の同業者でも、その過半は出費・出る方も多いため、引退可能な状態にある同業者は存外少ないように見受けられる。学生さんや金融業界の外の異業種のかたで夢を見過ぎな向きには、これが現実なので夢を醒まして頂ければ、と言う事を告げておきたい。

ただまあ、上記に列挙したような条件を満たしている成功者がゼロではないと言うのがこの商売の面白い所で、色々な世界があるものだなあ、色々なライフスタイルがあるものだなあと言うのを身近に垣間見る事が出来る面はある。こう言う人が周囲に全く居なくてそんな生活想像もつかないと言うのと、周囲にこう言う人が実際に居る事を実感できると言うのは結構な差である。こう言った人と実際に同じ空気を吸って接しているうちにそう言った人に感化される面(いわゆる成功する人の思考に自然と触れられる等)や考えさせられる面(いわゆる成功した人でも健康や結婚関係・異性関連、子供と言った誰もが悩む所で悩んでいたりもするのを見て、幸せの定義について考えさせられる等)もあり、面白い所ではある。

さて、先ずはつらつらと「ヘッジファンドキャリア、理想形」と、「それが実現できている率は一般の人が思っているほど高くはない事」、「それでもこう言う人はゼロではないしたまにいる」と言った点について書いているうちに、それなりの分量になってしまった。今回の「理想形」はこの辺にして、次回からはより現実的な「ヘッジファンドキャリア、中年になってあの人は今」的な内容を記載しておこうと思う。